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名前のない関係  作者:
16/28

合わない距離

最近、連絡は少しだけ増えた。


増えたというより、戻ってきた。


でも前とは違う。


どこか一拍、間がある。



夜。


スマホ。


鳴る。



ハル。



「今なにしてる」



「寝るとこ」


返す。



既読。


少し間。



「起きてろ」



(なんで)


そう思うのに、少しだけ笑う。



「なにそれ」


送る。



すぐ返ってくる。



「暇」



それだけ。



前なら、このまま「出てこい」だった。


でも今は違う。


言葉が少しだけ整っている。



「無理」


送る。



既読。



「そっか」



それで終わるはずなのに、終わらない。



少しして。



「昼なら?」



また来る。



(覚えてるんだ)


前より、“会う前提”が静かに残っている。



「明日なら」


送る。



既読。



「じゃ明日」



それだけ。



翌日。


昼。



駅。


少しだけ明るい時間。



ハルはもうそこにいた。


前より早い。



「おう」



「早くない?」



「たまたま」



嘘っぽいのに、深くは聞けない。



並んで歩く。



昼の街は、夜よりずっと現実的で、逃げ場がない。



視線が分かりやすい。


スマホを向ける人もいる。



「やっぱ昼やばいな」


ハル。



「やばいって何」


紗月。



「目立つ」



それだけ。



でも、その“だけ”が重い。



カフェに入る。



座る。


向かい。



少し沈黙。



「慣れた?」


ハル。



「何に」



「これ」



外の視線。


状況。


全部。



紗月は少し考える。



「慣れたっていうか……」



言いかけて止まる。



「どうでもよくなってきた」



ハルが少しだけ笑う。



「それ一番危ないやつじゃね」



「かもね」



でも、嫌じゃない。



沈黙。



外はまだ騒がしい。


でも中は静か。



その差が、少しだけ変な感覚を作る。



「なぁ」


ハル。



「なに」



少し間。



「そのTシャツ、まだ着てんのな」



紗月は視線を落とす。



白いTシャツ。



「気に入ってるから」



ハルが小さく笑う。



「普通すぎるだろ」



「普通でいいじゃん」



その言葉で、少しだけ空気が止まる。



ハルは一瞬黙る。



「まぁ……お前はそういうの似合うな」



少しだけ柔らかい声。


でもすぐ視線をそらす。



それ以上は続かない。



その止め方が、逆に残る。



帰り道。



並ぶ。



「今日さ」


ハル。



「うん」



「なんか普通だったな」



「それ褒めてる?」



「たぶん」



曖昧。


でも、悪くない曖昧。



駅。



人が増える。



「じゃ」


ハル。



「うん」



でも、少しだけ止まる。



ハルが一瞬だけ言いかける。



でもやめる。



そのやめた感じが残る。



紗月は気づく。


でも聞かない。



聞いたら、変わる気がするから。



家。



ドアを閉める。



静か。



スマホを見る。



ハルからメッセージ。



「さっきの」



少し間。



「別に意味ないけど」



(意味ないって言うときほどあるやつ)



「なに」


送る。



既読。



少しして。



「今日ちょっと楽だった」



それだけ。



紗月は少しだけ画面を見る。



返すのに少し迷う。



でも結局。



「そっか」



それしか出ない。



既読。



「おう」



それで終わる。



ベッドに倒れる。



天井を見る。



(楽だった、か)



たぶん同じ。



でも言葉にすると、少しだけ恥ずかしい。



こういうのが増えてきている。



会うたびに、言葉にならないものが少しずつ残っていく。



重くない。


でも軽くもない。



その中間が、静かに積もっていく。



少しだけ胸の奥が落ち着かない。



でも嫌じゃない。



むしろ、言わないまま残るもののほうが強い気がしていた。

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