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名前のない関係  作者:
15/27

戻らない日常

気づいたら、静かになっていた。


騒がしさが消えたわけじゃない。


ただ、形が変わっただけだった。



炎上は終わっていない。


でも、ずっと燃え続ける種類のものになっていた。


大きく燃える瞬間はないのに、消えもしない。



紗月はそれに慣れ始めていた。


最初みたいに、毎秒スマホを確認することはない。


ただ、完全に無視もできない。



外に出ると分かる。


視線がある。


でも前みたいに刺さる感じじゃない。


代わりに、“知っている空気”がある。



「あの人だよね」


直接言われるわけじゃない。


でも、そういう距離感。



それが一番しんどいわけでもない。


ただ、楽でもない。



夜。


スマホ。


鳴る。



ハル。



「今どこ」


短い。



「家」


返す。



すぐ既読。


でも、少し間がある。



「出れる?」



(またか)


前みたいな軽さではない。


でも重くもない。


ただ、慎重。



「今は無理」


送る。



既読。



「そか」



それだけ。



会話は終わる。


でも、切れた感じはしない。



翌日。


昼前。


外に出る。



駅前。


いつも通りの景色。


でも、少し違う。



視線の数が増えている。


正確には、“思い出される頻度”が上がっている。



すれ違う人が一瞬止まる。


スマホを見る。


また見る。



(まだ残ってる)


そう思う。



歩いていると、止まる。



分かる。



ハル。



振り向く前に気配で分かる。



「おう」


ハル。



「どうしたの」


紗月。



「近く来た」



それだけ。



理由はない。


でも自然でもない。



並んで歩く。



人はいる。


視線もある。


でも、もう驚かない。



「最近どう」


ハル。



「普通」


紗月。



少し間。



「それ続いてんな」


ハルが軽く言う。



でも確認みたいな言い方だった。



カフェに入る。


前と同じ場所ではない。


でも似ている。



座る。


向かい。



沈黙。



でも今は、逃げる沈黙じゃない。


ただの間。



「戻れてないな」


ハル。



紗月は少しだけ考える。



「戻る必要ある?」



ハルが少し笑う。



「ないかもな」



それだけ。



会話は続かない。


でも終わらない。



ただ、そこにあるだけ。



帰り道。


並ぶ。



人の流れの中。


前より自然。



でも、完全には溶けていない。



「じゃ」


ハル。



「うん」


紗月。



それだけで別れる。



でも今回は、少し違う。



終わった感じがしない。



家。


ドアを閉める。



静か。



スマホを見る。



通知は少ない。


でもゼロじゃない。



炎上ではない。


ただの“残り”になっている。



画面を見たまま、少し考える。



(これ、普通なのかな)



分からない。



でも一つだけ分かる。



前の形にはもう戻っていない。



そして今の形にも、まだ名前はない。

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