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名前のない関係  作者:
14/27

見られる側

管理された再会は、思っていたより静かだった。


静かすぎて、逆に落ち着かない。



ガラス越しの部屋。


中は普通の空間なのに、どこかだけ現実とズレている。


誰かに見られている前提で作られた空気。



ハルはそこにいた。


いつも通りの顔。


いつも通りの声。


でも、どこかだけ違う。



「元気か」


ハル。



「普通」


紗月。



短いやり取り。


それ以上広がらないように、お互いどこかで抑えている。



前は違った。


どうでもいい話が、勝手に続いていた。


今は違う。


話していい範囲が、目に見えない形で決まっている。



少し沈黙。



「最近どう」


ハル。



紗月は一瞬止まる。



(どう、と言われても)



「……見られてる」



自分で言って、初めて少しだけ実感が追いつく。



ハルは頷く。



「そっちもだろ」



その通りだった。



もう片方だけの問題じゃない。


二人とも同じ状況の中にいる。


ただ、立っている位置が違うだけ。



ハルは中心。


紗月はその周囲に結びついた存在。


それだけで、見え方が変わる。



外の世界はまだ騒がしい。


でも、この部屋だけは少し遅れている。



「なぁ」


ハル。



「なに」



少し間。



「しんどいか」



軽く聞いているようで、軽くはない。



紗月は少し考える。



しんどい、とは違う気がする。


でも楽でもない。



「よく分かんない」



正直な答え。



ハルは少しだけ目を伏せる。



「だよな」



それだけ。



また沈黙。



でも今は、前と違う。


止められている沈黙じゃなく、選んでいる沈黙。



時間が来る。



「そろそろ出る」


ハル。



「うん」


紗月。



立ち上がる。



扉の前。



一瞬だけ止まる。



ハルが言う。



「お前さ」



振り返る。



少し間。



「前より、見られてるな」



その言葉が残る。



紗月は少しだけ笑う。



「そっちのせいでしょ」



ハルも少しだけ笑う。


でも、その笑いはすぐ消える。



扉が開く。



ハルが出ていく。


今度は振り返らない。



紗月だけが残る。



ガラスの向こうに、何もない空間が広がっている。


でもそこには、さっきまでの時間の余韻だけが残っていた。



帰り道。


街はいつも通り。


でも自分だけが少し違う。



スマホを見なくても分かる。


見られている。



ただの通行人ではない。


あの人と会った側。


その事実だけが、静かに残っている。



家に戻る。


ドアを閉める。



静か。


でも、落ち着かない。



スマホを開く。



通知は減っている。


でも完全には消えていない。



まだ続いている。



その中に、ハルからの短いメッセージ。



「気をつけろ」



紗月はしばらく画面を見つめる。



守っているのか、距離を取っているのか分からない言葉。



でも、どちらでもいい気がした。



ベッドに座る。


白いTシャツを見る。



もうただの服ではない。


でも捨てる理由もない。


むしろ、前より強く残っている。



(もう戻れないのかな)



そう思う。



でも次の瞬間。



(戻る必要ある?)



その考えも浮かぶ。



どちらでもいい距離。


近くて、遠い。


そのまま、形だけ続いている。



そしてその形は、まだ壊れていない。

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