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名前のない関係  作者:
13/27

再会の条件

連絡が止まってから、数日。


最初は“静か”だった。


でもすぐに分かった。


これは静けさじゃない。


「遮断」に近い。



通知は来ない。


既読もつかない。


SNSも動かない。


ハルの気配だけが、丸ごと抜け落ちていた。



紗月は、普通に生活していた。


はずだった。



でも、どこかズレている。


外の視線。


すれ違う会話。


スマホのおすすめ欄。


全部に“あの件”が残っている。



「ハルの件どうなったんだろ」

「消えたよね」

「やっぱ事務所止めた?」



まだ終わってない。


でも“止められている”。



夜。


スマホ。


鳴る。



知らない番号。



一瞬迷う。


でも出る。



「……紗月?」


声。


ハルじゃない。



少し間。



「はい」



「ハルの関係者です」



その瞬間、空気が変わる。



「今、直接の連絡は制限されています」



(やっぱり)



「理由は?」



少し間。



「外部からの影響が大きすぎたためです」



言い方が固い。


でも意味は単純。



“炎上のせい”



「今後は、接触は管理下になります」



管理。


その言葉だけが浮く。



「……会えないってことですか」



沈黙。



「完全には禁止ではありません」



でも続きがあるのが分かる。



「ただし、条件付きです」



条件。



初めて出てきた言葉。



「事務所の同席、もしくは制限環境での面会のみ可能です」



(別物じゃん)



今までの“二人”じゃない。



管理された距離。



電話が切れる。



残るのは静けさだけ。



夜。


スマホ。


ハルからではないメッセージ。



「制限入った」


短い。



「知ってる」


返す。



既読。



少し間。



「悪い」



(謝るの、そこなんだ)



紗月は少しだけ息を吐く。



「別に」


送る。



すぐ既読。



でも続きは来ない。



翌日。


もう一度連絡が来る。



「明日、短時間だけ会える」


ハル。



条件付き。



場所。


時間。


指定されている。



(やっとか)



嬉しいのか、違うのか分からない。



ただ、前とは違う。



会えるのに、“自由じゃない”。



当日。


場所は小さな部屋だった。


カフェでも駅でもない。



ガラス張りの部屋。


中は見えるけど、外には出られない。



(監視されてるみたい)



扉が開く。



ハル。



帽子。


マスク。


でも、空気が重い。



「久しぶり」


ハル。



「うん」


紗月。



少しだけ沈黙。



前みたいな軽さはない。



話す内容も決められているみたいに軽い。



「大丈夫か」


ハル。



「普通」


紗月。



嘘じゃない。


でも本音でもない。



外の世界が、間にある。



「制限、どう?」


紗月。



ハルは少しだけ目を逸らす。



「まぁ……そのうち戻る」



その“そのうち”が曖昧すぎる。



でも、それ以上は言えない。



沈黙。



前なら、この沈黙は落ち着いていた。



今は違う。



“止められている沈黙”。



時間が来る。



もう終わる。



ハルが立つ。



「またな」



前より短い。


でも、重い。



「うん」


紗月。



扉が開く。



その瞬間。



ハルが少し止まる。



一瞬だけ。



何か言いかける。



でもやめる。



そのまま出ていく。



残る。


静けさ。



完全に遮断されたわけじゃない。



でももう、自由ではない。



夜。


帰り道。


スマホを見る。



「また会えるの?」



送らない。



送れない。



代わりに画面を閉じる。



(これが、今の距離か)



近いのに、触れられない。



同じ場所にいないみたいに。



でも、終わってはいない。



むしろ。



“形が変わっただけ”。



炎上はまだ完全には消えていない。



ただ、関係の形だけが変わった。


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