再会の条件
連絡が止まってから、数日。
最初は“静か”だった。
でもすぐに分かった。
これは静けさじゃない。
「遮断」に近い。
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通知は来ない。
既読もつかない。
SNSも動かない。
ハルの気配だけが、丸ごと抜け落ちていた。
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紗月は、普通に生活していた。
はずだった。
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でも、どこかズレている。
外の視線。
すれ違う会話。
スマホのおすすめ欄。
全部に“あの件”が残っている。
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「ハルの件どうなったんだろ」
「消えたよね」
「やっぱ事務所止めた?」
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まだ終わってない。
でも“止められている”。
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夜。
スマホ。
鳴る。
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知らない番号。
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一瞬迷う。
でも出る。
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「……紗月?」
声。
ハルじゃない。
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少し間。
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「はい」
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「ハルの関係者です」
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その瞬間、空気が変わる。
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「今、直接の連絡は制限されています」
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(やっぱり)
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「理由は?」
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少し間。
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「外部からの影響が大きすぎたためです」
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言い方が固い。
でも意味は単純。
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“炎上のせい”
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「今後は、接触は管理下になります」
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管理。
その言葉だけが浮く。
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「……会えないってことですか」
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沈黙。
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「完全には禁止ではありません」
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でも続きがあるのが分かる。
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「ただし、条件付きです」
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条件。
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初めて出てきた言葉。
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「事務所の同席、もしくは制限環境での面会のみ可能です」
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(別物じゃん)
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今までの“二人”じゃない。
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管理された距離。
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電話が切れる。
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残るのは静けさだけ。
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夜。
スマホ。
ハルからではないメッセージ。
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「制限入った」
短い。
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「知ってる」
返す。
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既読。
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少し間。
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「悪い」
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(謝るの、そこなんだ)
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紗月は少しだけ息を吐く。
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「別に」
送る。
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すぐ既読。
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でも続きは来ない。
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翌日。
もう一度連絡が来る。
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「明日、短時間だけ会える」
ハル。
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条件付き。
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場所。
時間。
指定されている。
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(やっとか)
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嬉しいのか、違うのか分からない。
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ただ、前とは違う。
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会えるのに、“自由じゃない”。
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当日。
場所は小さな部屋だった。
カフェでも駅でもない。
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ガラス張りの部屋。
中は見えるけど、外には出られない。
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(監視されてるみたい)
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扉が開く。
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ハル。
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帽子。
マスク。
でも、空気が重い。
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「久しぶり」
ハル。
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「うん」
紗月。
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少しだけ沈黙。
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前みたいな軽さはない。
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話す内容も決められているみたいに軽い。
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「大丈夫か」
ハル。
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「普通」
紗月。
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嘘じゃない。
でも本音でもない。
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外の世界が、間にある。
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「制限、どう?」
紗月。
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ハルは少しだけ目を逸らす。
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「まぁ……そのうち戻る」
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その“そのうち”が曖昧すぎる。
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でも、それ以上は言えない。
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沈黙。
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前なら、この沈黙は落ち着いていた。
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今は違う。
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“止められている沈黙”。
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時間が来る。
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もう終わる。
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ハルが立つ。
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「またな」
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前より短い。
でも、重い。
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「うん」
紗月。
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扉が開く。
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その瞬間。
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ハルが少し止まる。
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一瞬だけ。
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何か言いかける。
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でもやめる。
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そのまま出ていく。
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残る。
静けさ。
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完全に遮断されたわけじゃない。
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でももう、自由ではない。
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夜。
帰り道。
スマホを見る。
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「また会えるの?」
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送らない。
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送れない。
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代わりに画面を閉じる。
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(これが、今の距離か)
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近いのに、触れられない。
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同じ場所にいないみたいに。
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でも、終わってはいない。
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むしろ。
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“形が変わっただけ”。
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炎上はまだ完全には消えていない。
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ただ、関係の形だけが変わった。




