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名前のない関係  作者:
12/27

来ない日が、最初は軽かった。


たまたまだと思った。


忙しいだけだと思った。


そういうことにしてた。



夜。


スマホ。


開く。



「今日」


紗月。


送る。



既読。


つかない。



(あれ)


もう一回見る。



ずっと変わらない。



通知はある。


でも、ハルからは何もない。



その代わりに、SNSは動いてる。



「ハル、活動制限か?」

「最近見ない」

「炎上の影響?」

「例の一般人の件でしょ」



(一般人の件)


その言葉が、まだ残ってる。



カフェの席は空のまま。


駅前も通る。


でもいない。



どこにもいないのに、

“いない”ことだけが目立つ。



数日後。


やっとメッセージ。



ハル。


「しばらく無理」



短い。


いつも通り。



でも意味が違う。



「なんで」


送る。



既読はつく。


でも返事は遅い。



数分後。



「事務所」


それだけ。



(あ)


そこで初めて分かる。



炎上は、もうネットの中だけじゃない。



現実に入ってきてる。



ハルの世界に。



「やばいの?」


紗月。



少し間。



「まぁな」



軽い。


軽すぎる。



でも、軽くしてるだけだと分かる。



それ以上は送ってこない。



“終わらせたくない話”がそこにある。



夜。


テレビ。


ニュースじゃないのに、名前が出る。



「人気アーティスト・ハルに関する——」


(来た)



画面は見ない。


でも音だけ入る。



“プライベート”

“一般女性”

“ファンの混乱”



勝手に形が作られていく。



紗月は画面を消す。



スマホを見る。



「会えない」


送るか迷う。



でも送らない。



代わりに、



「いつ終わるの」



既読。


すぐつく。



でも返事はない。



数分。


十数分。



やっと来る。



「わからん」



それだけ。



初めての“分からない”。



ハルが、分からないって言った。



その意味が重い。



外。


いつもの場所に行く。



誰もいない。



空気だけが残ってる。



(ここ、ずっとこうだったのに)



もう違う。



スマホが鳴る。



知らないアカウント。



「お前のせいでハル終わる」



(は?)



別のDM。



「出てくるな」



また別。



「消えろ」



言葉が、個人に向かってきてる。



炎上は、もう“出来事”じゃない。



“誰か一人”に落ちてる。



その中心が、自分だと気づく。



夜。


ハルからメッセージ。



「しばらく連絡やめる」



短い。



紗月。


「了解」



送る。



既読。



それで終わる。



画面を見たまま、しばらく動かない。



(終わった?)



いや。


終わってない。



ただ、一回切られただけ。



外に出ると静かだった。



でも静かじゃない。



“見られてる静かさ”。



知らない誰かの視線が、ずっとある。



スマホを見る。



白いTシャツ。


まだある。



でも、もう意味が違う。



あの日の軽さじゃない。



ただの服じゃない。



“あの炎上の中にいたもの”。



家に戻る。



ベッドに座る。



スマホ。


鳴らない。



初めての静けさ。



でも安心じゃない。



空白。



そこにだけ穴が開いてる。



(これ、終わり方じゃない)



分かってる。



これは“待たされてる状態”。



ハルも、紗月も。



どっちも止まってる。



でも世界だけが動いてる。



炎上はまだ燃えてる。



そしてその火は、


まだどこにも落ちきっていない。


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