本編4-6
女性向け恋愛シュミレーションゲーム「七騎士と虹色姫」の話をしよう。
大切な貴方と世界を救う、運命を掛けたADV——と名打たれた乙女ゲームは、マルチエンディングシステムを採用したストーリーで、ターン制バトルもある。
このゲームでは既に魔物は滅んでおり、基本的に対峙する敵は≪咎モノ≫と呼ばれる化け物のみ。
終盤になるにつれ敵は強くなるが、マップ上に居る≪咎モノ≫をきちんと倒して、そこそこ育成していれば問題なく倒せる強さ設定になっていたし、各キャラのベストエンドを迎えるためには、対応する属性のレベルが七十五を超えている必要があった。そして主人公のステータスは引き継げたので、後半になるにつれ、これ七騎士要るか……? と言うレベルで主人公無双が巻き起こった。
ベル、アシュラム、グラハム、メイアン、カイン、レイニーの誰かと恋仲になり世界を救って、結ばれた彼と共に女王としてアルカンシエル王国を護っていくのが物語のベストエンド。
ちなみに、バッドエンドでは世界が滅ぶか、主人公か七騎士のどちらかが死ぬ。
そんな中々にハードモードなゲームの中で、最初に選択出来るルートはアシュラム、グラハム、メイアン、カイン、レイニーの五ルートのみ。
この五人のベストエンドルートをクリアして初めてベルルートが解禁され、彼のベストエンドルートをクリアすることで、ベルのルートから途中分岐する形で真相ルートが開く。
ベルルートの敵は序盤から結構強かったりもするのだが、それでも十分に主人公無双が巻き起こった。にも関わらず、この真相ルートの最後で対峙する敵、つまりラスボスはとんでもなく強い。
今までの敵はなんだったの? 紙? ってぐらい強くて硬くて、あまり育成に力を入れていなかったユーザーを苦しめた。つまり真相ルートはエンドコンテンツって訳だ。氷属性以外のすべての属性レベルで七十五以上を求められるのだから、エンドコンテンツとしか言いようがない。
そうは言っても主人公のステータスは次プレイに引き継げたため、ちゃんと主人公にステータスを振っていればなんとか勝てるだろう。真相ルートはベルルートの途中で分岐するが、分岐後もベルルートクリア後のステータスは引き継がれるので、少なくとも六回は世界を救っているステータスだ。逆に言えば、六回ほど世界を救ったステータスを以ってしても「なんとか勝てる」レベルのとんでもない敵だった。
そのラスボスの名は——ノヴァーリス・センティッド。
アルカンシエル王国、七騎士の団長。絶対守護の要、氷の要塞。セシリア・メヌエット・エグランディーヌ女王陛下に生涯の忠誠を誓った騎紫。つまり私の推しである。
タイトルに「七騎士」とあるくせに攻略対象ではないノヴァーリスは、ラスボスだった。
そりゃあ攻略対象になれる訳がない。だって討伐対象である。恋愛どころの騒ぎじゃない。いや、他のゲームによってはラスボスでも恋愛対象になれるのかもしれないが、この「七騎士と虹色姫」と言うゲームにおいては、ノヴァーリスと恋愛するなんて絶対に無理だった。彼の心境的にも、設定的にも。
このゲームのシナリオライターはノヴァーリスに恨みでもあるのか? と、当時は呆然としながら考えたものだ。
だって、彼から辛勝をもぎ取った時、死にかけのノヴァーリスは
「……セシリア、様……申し訳、ございま……せん……。ぼく、は……貴女の、ための……世界を、つくれ、ません……でした」
なんて。空虚で、抜け殻みたいな表情で、そう呟くのだ。
最後の最後まで、彼の中にはセリシアしか居なかった。それ以外の存在を、すべて排除してしまっていた。
真相ルート以外だと、ノヴァーリスはセシリアが消滅した時点で自刃する。真相ルートでのみ、血を吐くような慟哭ののち、主人公達に初めてその剣を向けた。
他ルートと真相ルートで違うのは、セシリアが消滅する時のセリフだ。六人のルートでは必ず
「……わたくしが、止めなければ。可哀想な、貴方……貴方は、わたくしに出会わなければ、きっと……——ここまで、狂わずに済んだかもしれない」
そう言って、セシリアは自身が持つ膨大な量の魔力をすべて使って、世界を破滅に誘う術式を打ち破る。
だが、真相ルートでだけは、自我を取り戻したかのように言葉を紡ぐのだ。
「……貴方の過ちは、わたくしの過ち。——先に逝きますね、わたくしの、唯一の騎士。どうか貴方の悪夢が、醒めますように」
自身の魔力を世界に溶かし、指先から、セシリアの存在が解けていく。そんな中でも、彼女はノヴァーリスに向かって優しく微笑んだ。
そうして一度瞬きをすると、その表情を女王としての顔に変え、七騎士と主人公へ向かって言葉を放つ。
「……セシリア・メヌエット・エグランディーヌの名において、アルカンシエル王国七騎士、および次期女王、エレーヌ・ロンサールに命じます。この世界を破滅に導く大罪人、ノヴァーリス・センティッドを——討ちなさい」
それが、ゲームの真相ルートでセシリアが最後に放った言葉だった。




