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本編4-4


 え? 待って? 師匠だと? 私が公務でバタバタしてる間に、推しがショタと師弟の絆築いているとか聞いてないんですけど? なに、え? なに? 君達、いつの間に師弟関係なんて構築したの?

 いやその前に、ベルがノヴァーリスを「ししょ」と呼ぶに至ったまでの記録とかある? 言い値で買うわ。金ならある。

 そうか。仮説だけどベルには「ノヴァーリス」って長いのか。それで多分だけど、いきなり増えた魔力をベルが上手くコントロールできなくて、七騎士いち魔力コントロールが巧いノヴァーリスが、団長と言うこともあり指南役を買って出た。魔力コントロールを教えてくれてるから師匠か。それすら上手く言えなくて「ししょ」なのか。はぁ? 可愛いが過ぎるだろ。後で他の七騎士に確認しよう。

 私の悶絶など知る由もなく、ノヴァーリスもぎゅっとベルを抱きかかえ、ゆっくりと自身の纏う冷気をベルの体内に流し込み、小さな身体の中で轟々を唸り声を上げている炎を鎮静化させていく。少し汗ばんでほんのりと赤くなっていたまろい頬は正常な白さが戻り、涙に濡れて腫れぼったくなっていた目元も冷やされ、先ほどより幾分かスッキリした顔をしていた。


「ししょ。もう、あつくないよ」


「そうですか。良かった」


 さすがノヴァーリス。仕事が早いうえに正確だ。氷属性の固有スキルを持たない私じゃこうは行かない。現にベルと居る間はずっと冷気を出していたにも関わらず、ベルは自身の中にある炎で苦しんでいる。そして大放出とは言わずとも、器のない力をずっと放出して、わずかでも疲弊している私の為に、魔力をたっぷり蓄えたスノウをその腕に抱えて。

 本来なら炎属性のベルを処置する氷属性の自分だけ良いくせに、しっかりスノウまで連れて来る人なのだ。私が好きになったノヴァーリス・センティッドと言うこの男は。



 鞠が転がるようにぽんぽん前を駆けていくスノウとベルを後ろからゆっくりとした足取りで追いながら、ノヴァーリスと二人、静かな森を歩く。


「ベル。足元に気を付けて、転ばないでくださいね」


「はーい」


「スノーウ、魔力大丈夫ー?」


「がうっ」


 ざあ、と一陣の風が吹き抜けて、梢を揺らす。巻き上がった太陽に照らされた小麦畑のような長い黄金色の髪を片手で抑え、同じく風に巻き上げられた白月光の髪を耳に掛けているノヴァーリスをチラリと見やって、私は数度小さく口を開閉してから、結局言葉を紡いだ。


「私はね、ベルに本当のことを話したのは、ノヴァーリスの優しさだと思ってる」


「セシリア様……?」


「言わなかったんだね。ベルの炎があの子の両親を殺しかけたことを。言わなかっただけで、嘘も吐かなかった。錯乱状態のベルが私の頬を引っ掻いたのも、あの子の炎で私が腕を火傷したのも、全部本当のことだもの」


「……私は」


「うん」


 梢の影で、少しだけ色を濃くした紫珠の瞳が、太陽に照らされキラキラ白金に輝く薄い金の髪を見て眩しそうに瞳を細める表情を仰ぎ見ながら、ノヴァーリスの言葉を待つ。


「あの場で起こった事実だけを、あの子に伝えました。あの子の炎が焼いたのは≪咎モノ≫だけでしたから」


「うん。グラハムのお陰だね」


「いいえ。セシリア様が一つずつ大切に紡いでこられた言葉の、行動のお陰です。貴女様が女王で、ベルも幸せでしょう」


「――……ノヴァーリスは?」


「え?」


 ざあああ。風に揺られた梢が音を立てて、私が小さく小さく零した音を搔き消した。

 きょとん、とした紫珠の瞳が私を見遣るが、思わず口から零れた失言を誤魔化すように、へらりと一つ、笑みを零す。


「なんでもない。ベルもね、ノヴァーリスがお師匠様で、幸せだと思うよ」


「そう、でしょうか?」


「うん。私と居る時より、ノヴァーリスに抱き締められてる時の方が、ずっと嬉しそうだった」


「セシリア様」


「うん?」


「私も、貴女様の騎紫で居られて、とても、とても幸せです」


「っ!? き、聞こえっ……!?」


 かあ、と頬に熱が登る。

 そんな女々しいことを聞くつもりなんて無かったのに。あの時≪預言者≫が視せた光景が、いまだ脳裏に焼き付いて離れない。

 ねえ。ねえ。未来の『私』。

 どうして『私』は、瞳を細めて優しく微笑むこの人に、「殺す」なんて、言えたの?


 だから私は、貴方を殺すわ。ノヴァーリス――……――。


 ≪預言者≫が視せた私が唇から零したのは、慈愛とも、悲哀とも取れるような声色だった。優しくて、悲しい声色だった。大きな矛盾を抱え紡がれた言葉は、澱のように凝って、私の胸の奥深くに重く昏い影を落とし続ける。


「……私も、貴方が私の騎紫で、とても幸せよ」


 震えそうな唇を動かし、なんとかその言葉を紡ぐ。少しだけ怪訝な顔をしたノヴァーリスに気付かない振りをして、私はベルとスノウの後を追った。



 ノヴァーリスとベルの、宗教画もかくやと言わんばかりのやり取りを浴びた日の夜。つまりは、まだ今日。

 皆が寝静まった静かな時間に、私はこっそりと屋敷を抜け出していた。

 ≪預言者≫が視せた光景の中にあった、森の中にある小さなログハウス。あのログハウスは今回の件に深く関わっているのだと、不思議と確信が持てた。

 ≪創造創生≫で創り出した動きやすい服に着替えて、森がある場所に飛ぶために、頭の中に目的地を思い浮かべる。正直、アルカンシエル王国に森なんて幾らでもあって、その一つひとつを虱潰しに探すとなると、到底時間なんて足りない。


(ただまあ、ノヴァーリスに関わることだから、きっと……)


 なんとなく、ここじゃないかな。と言う予想は立っていて。

 ヴィクトリア一家が魔物に襲われた場所。≪咎モノ≫が、姿を現した場所。

 王都とエグランディーヌ侯爵領、そして、センティッド伯爵領に跨り裾野を広げる森。その中でも、センティッド伯爵領に広がる森に狙いを定め、私は躊躇うことなく≪時空間転移≫を発動させた。




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