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本編4-1 真犯人編

お待たせしました。4章の連載はじめます。


 ベルを巡る騒動から、一週間が経った。

 あの後、方々と協議を行った結果、私が正式にアルカンシエル王国の女王に就任するのは二ヶ月後となったのは、ひとえにボロボロにしてしまった式典用ドレスのせいだろう。

 いや本当に、王宮の服飾師さん達には申し訳ないことをしたと心から反省しています。


 さて、それよりも目下、現在進行形で問題になっていることがある。私の両足がそろそろ限界という問題だ。

 エグランディーヌ侯爵家で過ごしたこの一週間の間に、なぜかレイニーが赤ちゃん返りした。いや、なに言ってんの? となると思う。私もなった。

 とは言え、前世で聞きかじった赤ちゃん返りによくある言葉遣いとか、我儘とか反抗的な行為とかはない。ただひたすらに甘えてくるのだ。

 彼が夢の力を覚醒させてから、レイニーに対して予知を求めない、予知をしない、告げないレイニーを誰も責めない。と言う当たり前のハズの環境が、彼は初めてだったようで……。しかもノヴァーリスの近くに居れば、予知夢も視ずぐっすり眠れるとあり、基本的にはノヴァーリスにべったりだ。

 それ以外にも、弟妹の多いグラハムは当たり前のようにレイニーの頭をわしわし撫でていたけど、彼にとってはそのスキンシップすら初めてだったらしい。初めてグラハムに撫でられた時など、目を見開いて固まっていた。

 そんな感じで、頼りになるお兄ちゃん達に甘やかされる喜びを人生で初めて知ったレイニーは、ノヴァーリスをはじめ、甘やかしてくれるグラハムや私にピッタリへばりつくお猫様になったのである。

 東屋でぼーっとしながら、私の太ももを枕にして眠るレイニーの頭を撫でてから、そっと彼の黒い髪をよける。目の下に色濃く居座っていた隈は、この数日でだいぶ薄くなったようだ。彼のお腹の上では、スノウが丸くなって寝ていた。

 ちなみに、反対側の太ももにはアーキデュークの頭が乗っている。


「レイニーばっかり姉さまを独り占めしてずるい!」


 なぁんて可愛いことを言ってのけた結果、私の両足には子どもの頭二つ分の負荷がかかることになった。普通に重い。


(まあでも、良い傾向だなあ)


 アーキデュークもレイニーも、その育ってきた環境のせいか、誰かに甘えたり我儘を言うのが苦手だ。弟にはまだ両親が傍に居たけれど、夢幻の塔であったことを考えれば、甘えていられるような状況でなかったことなど明白だ。

 だからこの子達がこうやって素直に甘えてくれるのは、すごく嬉しい。


(子ども達が健やかに楽しく育ってくれるなら、もう私の両足が犠牲になろうがしょうがない)


 ずっとこんな平和な時が続けば良いのに。そんな事を思いながら、アーキデュークのお腹をポン、ポン、と優しく撫でる。まあ、そう願ったところで、この世界とやらは問題を突きつけるのが大好きなようでして。

 チカッと白んだ視界に、最近なんとなく掴んできた感覚が、これは≪預言者≫だと告げていた。



 森の中にある、小さなログハウスだった。

 蒼い空に浮かぶ綿あめみたいな雲。その下で悠々と梢を揺らす森林。木々の隙間から見える、小さなログハウス。

 最低限の生活必需品が揃っているだけの質素でこじんまりとした、あまり生活感を感じられないその空間に、私とノヴァーリスが向かい合って立っていて、他には誰もない。

 水を打ったような静寂。ノヴァーリスだけが、この空間に不釣り合いなほど穏やかな表情で微笑んでいる。


「……だから私は、あなたを殺すわ。ノヴァーリス――……――」


「……はい。総ては、セシリア様のお望みのままに」


 ザザッとノイズが走り、彼の名前を呼んだ後、私がノヴァーリスに対して何を言ったのか、全く聞き取れなかった。場が揺らいだのは、おそらく私がひどく動揺したせいだろう。

 目の前が、血の色で染まるような衝撃。

 目の前の私は今、ノヴァーリスに対してなんと言った?

 殺す? 私が、彼を?

 今までずっと、ノヴァーリスを生かすために行動してきた。確かに護りたい人は増えたけれど、私の誓いは変わらない。

 ノヴァーリス。私は私の我儘で、貴方を救うと、生かすと決めた。

 なのに何故、肝心の私の口から彼を殺す、なんて言葉が飛び出したのか、理解が追い付かない。いや、理解する事を脳が拒んでいる。

 だって、あまりにも本末転倒じゃないか。自分で自分がなにを考えているのか微塵も理解したくなくて、めまいにも似た感覚を覚えた。

 パチ、と瞳を瞬く。

 目の前には、私の異変を感じ取ったのか、太ももから起き上がって心配そうにこちらを除き込む、アーキデュークとレイニーの姿が視界に飛び込んできた。

 ぎゅっと眉尻を下げて寄せられた眉に、不安の色が揺れる新緑と紺碧の瞳が、真っ直ぐ私を見つめている。


「姉さま、大丈夫……?」


「じょお様……夢、視たの……? こ、怖い、夢……?」


 一心に私を案じてくれる瞳の暖かな色が愛しくて、二人まとめてぎゅうっと抱きしめる。「むぎゅっ」「んぐっ」なんて声が聞こえたけど、聞かなかった事にした。


「心配してくれてありがとう、二人とも。ちょっと未来の光景を視ただけだよ」


「……っ」


 その言葉に、レイニーがきゅっと唇を噛み締める。責任感の強いこの子は、また私に負担を掛けた、だなんて見当違いな事を考えているのかもしれない。

 そんな気配を敏感に察知したのか、モゴモゴと私の腕から抜け出したアーキデュークが、レイニーをぎゅっと抱きしめた。


「レイニー。姉さまはね、凄いんだよ。優しくて、ポカポカあったかくて、凄く強い僕の姉さまで、レイニーの女王様!」


「……うん。じょお様、は、すごく……優しい」


 そしてレイニーも微かに眦を赤く染めて、アーキデュークの服の裾をぎゅっと握る。

 はー? うちの子達可愛すぎんか? あまりにも良い子。君達が優勝。

 私越しに行われたあまりに尊いやり取りに爆発しそうになるが、なんとか思い留まって二人まるごと抱きしめる。

 そうだ。この子達だって、ノヴァーリスに懐いてる。特にレイニーなんかは彼にべったりで。困ったような、それでも嬉しそうな笑みを浮かべ、ノヴァーリスは最近毎日のようにレイニーと一緒に寝ていた。

 だったら私がやることなんてただ一つ。あの未来を変える。そもそも私がノヴァーリスに向かって「殺す」発言するなんて、洗脳されているとしか思えない。

 この国の女王に就任すれば、女王として、いくらお飾りとは言えこの国の顔として、やるべき事、やらなくちゃいけない事はきっと今以上に山積みだろう。だから私が自由に動けるのは、あと二ヶ月という事になる。いや、本当の意味で動ける時間は、きっともっと短い。

 けれど、女王正式就任までに≪預言者≫が視せた未来への対応策を見つけるのが、私の中で目下の最優先事項となった。この子達のため、なにより、私自身のために。



1,2週間に1回は更新したい所存……。

更新が止まった、仕事に忙殺されていると思ってください。

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