第九話 ヴォイド
フォーチュンは夢を見ていた。かつてハートと過ごしていた時の事を。ハートはフォーチュンによく授業をしてくれていた。
「えーと割合の求め方はね」
「ハート、質問があるんだ」
「何?」
「僕はクローン兵器なんだ。僕に国語、算数、社会、理科の授業なんて必要ある?」
「ふふっ、それはね。いつかあなたが将来困らない為に必要な事なのよ。きっといつか意味は分かるわ」
フォーチュンは夢から覚めた。きっとハートはいつかフォーチュンが宇宙の外に出ても困らないように最低限の教養を付けてくれていたんだろう。フォーチュンは改めて感謝の想いを胸に抱いた。
フォーチュンはある星を指差した。
「次の目的地は月だな。……あそこには月の宮牢獄がある。そこには404号ことヴォイドが囚われている」
「ヴォイド……って誰や?」
「突然変異で生まれた女性のクローン人間だ。もし男に生まれてさえいれば最強のクローン兵器エストをも上回っていたとされるほど潜在能力は高く、クローン兵器ランキング第五位の優秀な人なんだ。彼女もディザスターと同じく自由を求めて大帝国から脱走した。だが逃げ切れずに捕まってしまったんだ。だから僕は彼女を解放してやりたい。僕の姉さんを自由にしてやりたいんだ」
ノアの方舟号は月に着陸した。そしてナゴミンは月から見える地球の姿に感動した。
「おおっ。あれがうちら人間の故郷の星である地球やな!うちらもとうとうここまで来たんや!」
「何だか感慨深い気分になるわね」
「俺様もいつか地球の海を泳いでみたいぜ!どんな波でもばっちこい!」
「僕は今の地球がどんな環境になっているかを知りたいな」
車は月の宮牢獄へと向かう。だが月の表面はデコボコしており、車は不安定に進んで行った。
「中々難しいわね……」
「うわっ、クレーターのせいで車が浮いて宙を飛んでますわ。やっぱ月の重力は弱いなあ。このまま逆さに横転したら大変やで!」
レイは空気噴射を利用し何とか車を地面と並行にした。
「あ……危なかったわ……」
やがて一行は月の宮牢獄があるドームコロニーへと辿り着いた。そして、フォーチュンはある提案をした。
「まず僕達は宇宙警察にわざと捕まるんだ」
「えっ、なんやて?」
「動揺するのも仕方ない……。だが月の宮牢獄は侵入が極めて困難だ。だからあえて囚人として内部に潜るんだ」
フォーチュン一行は宇宙警察に自首しに行った。
「まっ、まさかこんな大人しく自首するとは……」
「おいら達懸賞金でガッポガッポじゃね?やったー!」
「へっ、俺様達のおかげで手に入ったあぶく銭でせいぜい女とでも遊んでな」
そのまま、月の宮牢獄へと入れられる事になった。そして看守の人達が説明に入った。
「新入りのお前達にここの事を簡単に説明しよう。ここでは労働や善行に応じて更生ポイントというお金が手に入る。更生ポイントはあらゆる特権を手に入れる為に必要なお金だ。だから真面目に勤めればお前達には優遇措置が行われる。せいぜい逆らう事のないようにな」
フォーチュン一行は早速刑務所内で溶接の作業をする事になった。
「あっつ……ここ本当に冷房かかっているんかいな?」
「今は僕達は我慢のときだ」
「ハァッ……ハァッ……しんどいわ……」
「へっ……こんな労働、宇宙倉庫アルバイトの方がもっとキツかったぜ……お前らこんなもんか?」
ディザスターはあっという間に溶接を次々と完成させていく。
「看守野郎。もうこんだけできたぜ!さっさと更生ポイントをよこせ!」
「まだ労働時間内だ。余った時間でも溶接をしろ」
「ケッ……」
すると、何やらいじめが起きていた。
「おらっ、俺の分までやれや!」
「ひえええ!」
フォーチュンは放っておけず、そこまで駆け付けた。どうやら囚人が囚人をいじめているようだ。
「何をやっているんだ」
「見ての通り、教育だよ。先輩には逆らうなってね。それにこの月の宮牢獄に入れられる奴なんて皆クズだろ。だからそんな奴には何をしたっていいんだよ」
「……どんな悪党にも更生できる機会は与えるべきだ。お前の身勝手で傷付けていいわけがない!」
フォーチュンは悪い囚人を掌底で倒した。
「あ……あなたは今宇宙で話題のフォーチュンさん?」
「そうだ」
「……助けてくれてありがとうございます。……実は僕は闇バイトをしてしまっていてですね。最初は荷物運びの簡単な仕事だと思っていたんです。でもその中身が後から違法薬物だと知る事になって……。逮捕されるかもと思うと真相を知ってもなおズルズル働くしかなかった。だけど結局逮捕されちゃって……。でも僕の人生は悪い事ばかりじゃないようだ。あなたに助けてもらえた事が僕は嬉しかった!これからは真面目に更生します!」
こうして善行と労働により地道に更生ポイントを毎日貯めて行き、最終的に総合二十万更生ポイントを手に入れる事ができた。
「これだけの更生ポイントがあれば何ができるんやろうなあ?ちょっと一覧表を見てみますわ。……おっスマホが自由に使える権利に映画見放題!ええなあ!」
「それは後でだナゴミン。看守さん。僕達は面会したい人がいるんです。ヴォイドさんに会わせてもらえませんか?」
「……良いだろう」
エレベーターで地下深くへと一行は潜って行った。そして、ついにあのヴォイドと出会う事ができた。ヴォイドはまさにイケメンクール女子だった。
「うわあ!偉いべっぴんさんやなあ!」
「綺麗な人だわ……」
「俺様の家族に相応しい美しさだぜ!」
「君があのフォーチュンか?」
「そうだ。僕は君を解放しに来た」
「……必要ない。私はタイムキーパーかオッキーナ以外の迎えはいらない。あの人達が来るまでただ眠ってここで待つつもりだ。私にとってこの上なく大切な人達……」
「大切な人達がいるのか。だったらこんな所で待つんじゃなく自分から会いに行こう」
「どうやってだ。見れば分かるだろう。この月の宮牢獄は厳重だ」
「それは……これから考える」




