第六柱 「神聖な炎の揺らぎ」
「……やっぱり、ここだよね」
アテナが足を止めたのは、静かで温かな光に包まれた神殿――ヘスティアの領域。
神界の中でも特に穏やかな場所。
神聖な炎が絶えず燃え続け、世界の安定を支えている中心のひとつだ。
「おじゃましまーす……」
そっと中へ入る。
パチ……パチ……と、薪がはぜる音。
暖炉の前には、ヘスティアがちょこんと座っていた。
「……来ると思ってたわ」
振り向かずにそう言う。
「えへへ、バレてた?」
「そりゃね。“調査任務”なんて任されたら、まずここに来るでしょ」
くるりと振り返り、小さく笑う。
「それで? 何か分かった?」
アテナは腕輪を軽く触れる。
「まだはっきりとは。でも……」
視線を、暖炉の炎へと向ける。
「この炎、少しだけ“ズレてる”」
「……やっぱり?」
ヘスティアの表情がわずかに曇る。
「普通の揺らぎじゃないの。なんていうか……外から“触られてる”感じ」
「うん、同じこと思った」
アテナは一歩、炎に近づく。
腕輪が、かすかに光を強めた。
「……反応、出てる」
「どんな感じ?」
「場所じゃなくて、“一点”に集中してる……」
目を細める。
「……ここだ」
アテナは炎の中心へ、そっと手をかざした。
その瞬間――
ビリッ……!!
「っ!?」
空間が、わずかに“歪んだ”。
炎が一瞬だけ不自然にねじれ、見えない何かが“押し出される”ような感覚。
「今の……!」
ヘスティアが立ち上がる。
「やっぱりある……“ほころび”」
アテナの声は、確信に変わっていた。
炎の奥。
そこに、目には見えない“裂け目”が存在している。
「でも、すごく小さい……まだ完全には開いてない」
「じゃあ、これって……」
「うん。まだ“入り口”にもなってない段階」
静かに頷く。
「だけど――」
そのとき。
腕輪の光が、一瞬だけ強く脈打った。
「……え?」
反応が、広がる。
一点ではない。
「……嘘でしょ」
アテナの表情が固まる。
「これ……ここだけじゃない」
「え?」
「神界の各所に、同じ反応が……」
まるで、点と点が繋がるように。
「“ほころび”が……増えてる……?」
ヘスティアの声が、かすかに震えた。
そのときだった。
ボッ……と、炎が大きく揺らぐ。
「っ!」
一瞬だけ、炎の奥に“影”が見えた。
何かの“輪郭”。
だが次の瞬間には、元に戻る。
「……今の、見た?」
「うん……」
二人は顔を見合わせる。
確信があった。
「……これ、放っておいたらマズいよね」
「うん」
アテナは小さく息を吸い、表情を引き締める。
「早く原因を突き止めないと」
その瞳には、確かな決意が宿っていた。
小さな揺らぎだったはずの異変は――
すでに、“広がり始めている”。
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次回もお楽しみに




