第十一柱 「知恵の神のはじめてのお仕事」
「“感情の流れ”の管理……」
アテナは、自室の机に突っ伏していた。
「思ったより大仕事なんだけどぉぉぉ……」
机の上には、大量の巻物と資料。
人間界の感情の流れ、神界への影響、境界領域の観測データ……。
「うぅ……頭いいはずなのに処理が追いつかない……」
「それは“量”の問題です」
ぴしっとした声が返ってくる。
神霊メイドは、すでに整理された資料を手際よく並べていた。
「アテナ、まず優先順位をつけましょう」
「優先順位……」
「はい。“すべて理解する”のではなく、“何から手をつけるか”です」
「……なるほど」
アテナはゆっくり顔を上げる。
「さすが……!」
「基本です」
さらっと返される。
「じゃあまずは……」
アテナは資料を見渡す。
「“溜まりやすい感情”の特定と、その流れの整理かな」
「良い判断です」
そのとき――
ピクッ。
腕輪が、わずかに光った。
「……来た」
アテナの表情が引き締まる。
「小規模な反応……場所は……人間界寄りの境界」
「早速ですか」
「うん。これも“仕事”だよね」
立ち上がる。
「行ってくる!」
――境界領域。
そこには、小さな“揺らぎ”が生まれていた。
ゆらゆらと漂う、淡い影。
前回ほど大きくはない。
だが確かに、“形になりかけている感情”。
「……今回は、小さいね」
アテナはゆっくり近づく。
「大丈夫」
優しく声をかける。
「すぐ終わるから」
腕輪が光り、影を包み込む。
「あなたは……寂しさ、かな」
影が、ふわりと揺れる。
「うん、大丈夫」
光が、ゆっくりと流れを作る。
「ちゃんと、流れる場所に帰そう」
影は抵抗せず、そのまま光に溶けていく。
そして――消えた。
「……成功」
小さく息を吐く。
「これなら、いける」
――神界。
「おかえりなさい」
戻ったアテナを、神霊メイドが迎える。
「ただいま!」
「初仕事はいかがでしたか?」
「うん!」
満面の笑みで答える。
「ちゃんと、“流せた”よ!」
その顔は、どこか誇らしげだった。
知恵の神の新しい役目。
それは、まだ始まったばかり。
だが確かに――
彼女は一歩、前に進んでいた。
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