第十柱 「神界への帰還と新たな役目」
光が、ほどけていく。
感情の核が消えたことで、あの不安定な空間は静かに崩れ始めていた。
「……戻れそうね」
アルテミスが周囲を見渡す。
先ほどまで漂っていた歪みは薄れ、代わりに“出口”のような裂け目が現れていた。
「うん。あそこから神界に繋がってる」
アテナは小さく頷く。
「行こう」
二人は並び、その裂け目へと足を踏み出した。
――次の瞬間。
「……戻ってきた」
視界が開ける。
そこは、見慣れた神界の空。
ユグドラシルの上空だった。
「はぁ……なんとか無事、って感じね」
アルテミスが弓を下ろし、軽く肩を回す。
「ありがとう、アルテミス」
「お礼はまだ早いわ。報告が残ってるでしょ?」
「あ……」
アテナの表情が、少しだけ固まる。
「ゼウスに説明……」
「ええ。しかも今回はかなり重要な内容よ」
「うぅ……ちょっと緊張する……」
「さっきまであんなことしてた神とは思えない発言ね」
アルテミスはわずかに笑った。
「だってあれは現場だったし……!」
「はいはい」
二人はそのままオリュンポス神殿へと向かう。
――数分後。
再び、大広間。
円卓にはすでに神々が集まっていた。
「戻ったか」
ゼウスの低い声が響く。
「はい!」
アテナは一歩前に出る。
「“ほころび”の原因、確認しました!」
その場の空気が引き締まる。
「報告せよ」
「はい。“ほころび”の先には、神界と人間界の狭間に存在する領域がありました」
「そこには――」
一度、息を整える。
「流れきれなかった“感情”が蓄積していました」
ざわり、と空気が揺れる。
「感情、だと?」
ポセイドンが眉をひそめる。
「はい。不安、怒り、悲しみ……それらが未整理のまま溜まり、“核”を形成していました」
「そしてそれが、神界へ干渉していたと」
アポロンが静かに続ける。
「はい」
アテナはしっかりと頷く。
「核は対処済みです。現在、ほころびは収束に向かっています」
「……なるほど」
ゼウスが腕を組む。
「では原因は、“流れの滞り”か」
「はい」
アテナの瞳がまっすぐに前を向く。
「だからこそ――」
「感情が正しく流れる仕組みを整える必要があります」
神々の視線が集まる。
「神界だけでなく、人間界との“循環”も含めて」
静かな沈黙。
やがて――
「……面白い」
ゼウスが小さく笑った。
「ならば、その役目」
ゆっくりと、告げる。
「お前に任せよう」
「……え?」
アテナが目を見開く。
「“感情の流れ”の管理と調整」
「神界と人間界を繋ぐ、新たな役目だ」
「それを担う神として、お前を任命する」
一瞬、言葉を失う。
だが次の瞬間。
「……はい!」
力強く頷いた。
「やります!」
その瞳には、不安よりも――
確かな“覚悟”が宿っていた。
知恵の神は、ただ考えるだけではない。
理解し、繋ぎ、整える。
その役目を、今――本当の意味で手にしたのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次回もお楽しみに




