280話 たまには逃げ出してもいいはず
居を移すのは問題ないにしても、すぐに移り住めないのが現代人。住所変更とかの手続きはその場でできるにしても、住む基盤が勝手に生えてくるわけではない。だから、最短でも約2日。それまでの間に家具を揃えたりしないとねぇ、最悪床で寝ることになる。ただ、急ぐのにも理由があってブライトの所在問題が出てくる。
それを心苦しいながら木本さんたちに預ける限界が、それだろうと予測しての日数。まぁ、リースやらで揃えるから選べば後は勝手に業者が配置はしてくれるかな。華澄も横に住んでるから餓死することもないだろうし。
そんなこんなで新居から病院に戻り、服だけを適当にトランクに詰める。残念なことに父さんが残した熱い思いと、母さんがくれたあのまなざしは売り切れである。と、言うか父さんの激情と母さんの爆笑はあるかも・・・。
両親にメッセージで元気とは伝えている。中々退院しないから本当か?と言う問も来てる。それをのらりくらりとかわしてるけど、退院したと知られれば会いに来るだろうなぁ・・・。
いづれば決着をつけないといけないことだし、何より性別が女性に変化してる点を誤魔化すのも限界が・・・。最初はマリと言う名だがら誤って女性なんじゃない?としらばっくれてたけど、今の今まで変更されないから言い訳も無理だろう。むしろ、なにかを隠してると気づいてる節もあるんだよなぁ・・・。母さんの勘は鋭いし。
「でも、ガチで性別変わって狐娘になってるとは思わんだろう・・・。」
「今更ながらと言うか、ようやくと言うか・・・。ご両親に話されるんですか?」
「流石に性別が入れ替わるような病気ってないですよね?敷田さん。」
「ないですね。性同一性障害は心の問題なので該当しません。だから今回は除外します。肉体的な話をするなら、性分化疾患や半陰陽と言う症例はあるにはあります。しかし過去なら2次成長期に判明したり、産まれた時点で分かるものでしたが、今だと産まれる前に判明するので、見過ごされたと言う事は考えにくいんですよ。」
「やっぱりそんな意味不明な病気はないかぁ〜。創作なら朝起きて突然性別変わってるとかもあるのに!」
「性別以前に耳と尻尾が生えてる方はどうします?ご両親から理解が得られないと考えるなら、医者として私か三枝主任、或いは天野医院長が立ち会うと言う話も出来ますけど。」
「う〜ん・・・、それもまた難しいですねぇ。一人息子でひとりっ子なもので父からは『はよ結婚しろ』とせっつかれてましたし・・・。」
「割と古風な方でした?結婚するなら男女で、長男が家を継ぐ的な?」
「父はそんな感じですね。他所の人がどうしようと構わないけど、ウチとしてはこう言う方針って感じです。逆に母は柔軟と言うかそんな考えもあるのかぁ〜って感じですね。母さんは娘も欲しかったとか昔言ってましたけど、何分今は50過ぎちゃってて・・・。」
「高齢出産自体はいいとして、問題は育児方面での体力ですからね。」
「そこですよね。今の最高齢出産イコール本人の閉経目前でしたっけ?」
「ええ、そうですよ。ギネスなんかを見ると74歳で体外受精で出産なんて話もありますけど、法律的には閉経したらおしまいって感じです。まぁ、それでもお盛んな方はいますけど・・・。逆にマリちゃんに孫を生んで欲しいとか?」
「いや〜・・・。男性でも妊娠できると言うか、試験管ベイビー路線やら腹膜に着床させてから、産むときは帝王切開って話もありますけど、私はどうも・・・。いや、今だと子宮もあるのか。」
「ありますよ。体的には耳と尻尾をなくせば女性ですね。ただ、マリちゃんは生理って来てます?」
「ないですね。」
「それが答えです。形として臓器として確かにそれはあります。でも、それが実際に機能するかは別の話で、仮にマリちゃんが妊娠出産すると言う話をするなら、柊さんのDNAとマリちゃんのDNAを混ぜて柊さんの卵細胞に入れて、どちらかの子宮に入れると言う話になりますよ。」
「・・・、人の子など孕みとうない・・・。結婚は勢いって人もいるけど、流石に妊娠は勢いじゃないよなぁ〜。」
ショットガン・ウェディングはある。まぁ授かり婚なのだが、ブチ切れた娘の父親がショットガンを持ち出した事に由来する。でも、今だとショットガンじゃなくて持ち出されるのはご祝儀である。
少なくとも未成年じゃなければ、両者の合意のある結婚には反論はできても阻止はできない。それが大人である責任で、親になる責任。まぁ、色々と込み入った法律もあるにはあるけどね。
「人の人生はそれぞれですからね。夕食は外で食べたからいいとして、私はそろそろ上がります。いや〜、まさかマンションの周りのお店が定休日だとは・・・。」
「誰でも休みは必要ですからねぇ。これからどこへ?」
「ちょっと居酒屋で摘んで帰りますよ。早いですけどおやすみなさい。」
敷田さんは帰り俺も一旦荷物は後回しにしてログインするか。そろそろ20時になるし、遅れても悪い。メンバーのレベル的には大丈夫なんだろうけど、1人いるのといないのじゃあ、攻略速度が変わるんよ!
「気持ちを切り替えてログイン!・・・、まだ誰も来てないかな?」
「来とるぞ〜?」
「ツキさんが最後?」
「俺もいるぞ〜。」
「ぬっ!?これは私にコーヒーを奢れと言うことか!」
「エンドレスな夏に突入する気か?ツキさん。」
「いや、前に進みたいんでそれはちょっと・・・。珈琲ドリームみたいに席でも決めて作戦会議でもします?女性成分が足りませんけど。」
「世代ネタはよしてくれよツキさん。俺、新社会人よ?」
「先に否定するなよ陸亀さん。俺が『実は中身巨乳美少女』って言う前にさ。」
「やめてくれよイヴァさん。確かに男性アバター使う女の人もいるが・・・、マジじゃないよな?」
「うふふ・・・、禁則事項です。」
「バカなやり取りしとらんで行くぞ。」
「ツキさんは美少・・・、美マダム。フロムさんにも確かそんな疑惑が・・・、えっ?イヴァさんも・・・?」
陸亀さんがドツボにハマっとる。姿も声も性別も変えられる中で、今更男女云々と言ってもねぇ・・・。リアルで俺とフロムさんは知り合いだけど、イヴァさんと陸亀さんは知らない。だから、本人がそうだと言い張ればそうなってしまうわけで、真実なんてものは存在するにしても確かめられない。
「陸亀さん今更だよ、今更。仮にイヴァさんの中身が美少女だとして、このアバターを見てどう思う?」
「ふははは・・・、俺の胸を見ろ!」
「すごく・・・、漢です。」
「胸じゃなくて胸筋じゃろ?海外のプレーヤーは日本と違ってガチムチマッチョが多いが、筋肉がないと物足りんと言うしの。バカサクラはそれ見たさによくよく遠征しとるし。」
「まぁ、サクラさんはマチモスだしなぁ・・・。さてと、真珠はどうです?」
昨日は一直線に進んで真珠を浮かべた。ダンジョンが入れ替わったり、モンスターに壊されたなんて言う判定がなければ、マップ上では一直線に見えるはずだけど・・・。全員でキャンプを放棄する前に確認すると、結構な割合でランダム配置されてるし、番号もいくつか飛んでる。う〜む、真珠のない所は未探索判定だから、いくつか見る部屋が増えたな。
「探索箇所増加は仕方ないか。でも、このランダム入れ替わりはなにか法則とかないのか?」
「ないと思うよ?まぁ、そこまで気にせずに走り回ってたけどね。」
海底神殿と言いつつも普通に入れば、マップ的には2階建てでもない。たまに水没した部屋があったり、大きな落とし穴があったりはするよ?下から出てくるモンスターに絡め取られないように進んだり、誘き寄せてフルボッコにしたりするんだけどさ。なんにしても探してるのはコンテナとパーツだし、全フロア完全攻略を目指しつつ、途中で揃えばラッキーといった感じかな?
「それはいいとして、見た感じモンスターがうろうろしとる。キャンプを放棄したら一気にアクティブになるから、気を引き締めろよ!」
キャンプを隠れ蓑に先制攻撃はさせてくれない。むしろ、外に出ようとすると『廃棄しますか?Yes/No』のタップが出て出させてくれない。全員でモンスターの動きを見つつ、ここぞと言うタイミングでキャンプを廃棄!
「クッソ!ダツダーツで狙撃待ちかよ!」
「まだいる!奥が光ってる!やっば!爆発クラゲが天井から降りてきた!PK対策なしだから気をつけて!フロムさん合わせて!ライトニングチェーン!」
「サイクロンハンマー!風の中でクラゲが連爆しとる。イヴァさん!」
「あいよ!外しはしねぇが、ここは拳でいく!食えねえ半魚人はミンチになりな、アイアンフィスト!」
『ちょっ!俺が爆発する!?』
「陸亀さんジャストガードよろ〜。」
「おまっ!吹っ飛んでくるランダムトライデントを全部ガードできるか!?伏せろ!嫌なら緊急回避しろ!」
「あっ!尻尾飛んだ!と言うか痺れれれれ!!!」
「ツキさん呼吸法で治せ!数が多いのぉ・・・。ワシも拳でいく!」
「1カウントは稼ぐからはよしてくれ!うぉ!シャコ貝かよ!いっ!また盾がダメに・・・。あたっ!腕噛まれた!」
「陸亀さんそいつ、倒すまでは延々とスリップダメージ出すからさっさと倒してね?めっちゃ硬いけど。」
「知ってるよ!解除するなら貝柱切るんだろ!ツキさん頼む!」
「あいよ〜。フレンドリーファイアしたらごめん!」
シャコ貝・・・、本名シャコファングと言うダルいシャコ貝の貝柱を切り、再生して閉じる前にこんがりと焼き上げる。いや〜・・・、貝の焼ける匂いっていいよね?バター醤油でパクリと食べて熱燗か冷酒を・・・。
「・・・、採取!」
「ツキさん・・・、絶対海鮮食べたくなっただろ?」
「えっ!?この匂いで我慢できる人って人間?」
「磯嫌い、海嫌いには地獄じゃぞ?なにせそんな匂いがほのかにしとるしの。まぁ、食欲方面に振れても採取やらする奴がおるが・・・。弾力貝柱は取れたか?」
「いや、シケてたから貝殻。」
「あらかた倒したし先へ行こうぜ!期限が4日だとしても、あんまり長居するともずくが生えそうだ。」
(あのヒゲはもずく・・・。)
「陸亀さんなに見てるの?さっさと飛び込んで未探索のフロア回るよ!」
「おっ、おう!」
装備品を整えたい。でも、ショートカットルートを使うなら水着じゃないとダメ。だからまぁ、全員水着でうろうろしつつモンスターを倒す。そしてまた潜る。バックアタックがプレーヤーの専売特許だと誰が決めた?
流石に雑魚だからヘッドショット狙いはない。でも、水から出る時に狙われる事はままある。まぁ、今は人数がいるからカバーに入れば大丈夫なんだけどさ。
「水から出るたびに、ダカムランの丘みたいにダツダーツが地面に刺さってるのはなんとも。ほら、乾坤一擲!内爆掌!」
「イヴァさんが胸毛マンをやめるのが悪い!私の尻尾見てよ、今は1尾よ?再生するけど、それでもダメージ貰うと紙装甲の私は痛い!イフリートハンマー!」
「まぁ、最低身長最軽量だからのぉ。当たらなければどうと言うことはない、を地で行くアサシンよりもアサシンらしいビルドじゃし。」
「そんなツキさんが回避盾やってるからなぁ〜。で、ここは?ボス部屋じゃないよな?なんか台座と扉はあるけどさ。」
「ボス部屋なら回れ右しつつ大量に真珠置いとくかな。海底神殿名物、お宝部屋だよ。では恒例の・・・、ボスはなにを引きたくない?私は気分的にサバイバルピエロ。」
「ワシはレベリオン系はパスじゃな。天井がある分、逃げ道が少ないしのぉ。」
「俺は・・・、ガンマ弐式でるか?出るなら逆に引きたい。メイン・コアをドロップして一攫千金も・・・。」
「なんだよイヴァさん。ゴールド難民か?古参なのに珍しい。」
「色々あんだよ。貢献度無理やり上げるために寄付しまくるとかな。で、陸亀さんは?」
「俺は・・・、ゴースト系は引きたくないな。実態のあるモンスターよりもジャストガードのタイミングが難しいんだよ。こう・・・、半透明で目測が狂う的な?」
そんな話をしてから代表してフロアさんが台座に触れる。ここは海底神殿であり別名が墓場神殿。だから、流れ着いたボスと言う設定で、部屋に入るならなんでも出てくる。それこそもう、本来のボスじゃないからって、見たことないボスまで湧くんだよ・・・。
ここに来るまでにコンテナは4つ、中身を確定させて小豆と水飴を回収した。残る探索部分も少なくはなってるけど、この中に未だに見つからないパーツが放り込まれてると嬉しいが・・・。流石に水着じゃダメだろと全員本気装備に変えて、出現するボスの行く末を見守る・・・。
ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!ドッ!ドッ・・・!
「な、なんだ!?」
「あ〜・・・、水着着よ。陸亀さんも早く。」
「坊や、水中ボスは初めてかい?」
「ワシも槍を出すか。イヴァさんは?やっぱり弓か?」
「ボス次第だな。デルタシェルとかなら無理やりにでも割った方が早いだろ?」
「そりゃパーチーでフレンドリーファイア対策しとればの・・・、出るぞ!」
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宝物庫の壁、今回は・・・
水龍が墓場に流れ着きました
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「・・・、逃げていい?」
「ツキさん・・・、一応上級でガチなボスじゃが、レベルがまだ出とらん・・・。」
「見えた。レベル4か・・・。」
「うっへ・・・、レベル4かよ・・・。まだマシな部類だよな?」
「カンスト4人で上級のレベル4じゃぞ?邪神リローデッドよりはマシじゃろうが、先に酸素の補給先を見つけるぞ!」




