274話 引っ越し先はいいとして
「空の器を満たす・・・。」
鞍馬さんはそう言うけどNPCってデータの塊だよな?むしろ、空である状態ってあるの?う〜ん・・・、あれか!カボチャか!前に召喚獣であるジャック・オー・ランタンにちょっと受肉したぬらりひょんを食わせたことがあった。
その時は動けないとかのたまってたけど、召喚獣なら指示がないのから動かないのは当然で、勝手に動きだしたら召喚獣じゃなくてただの獣だろう。なら、ゲーム世界のブライトを呼べば自ずと現実世界のブライトが来る?
「式になにを込めるのか?それは呼ぶ者が決める。そして、呼ばれた者が答えるかは呼ばれた側が決める。ブライトは戻りたい、狐は呼び寄せたい。ならば両者ともに答えは出ている。」
「なるほど・・・。って、納得できないですよ鞍馬さん!ブライトの体が今は物理的にあるんですよ?」
「確かにそうですよね。ここに体があるのに別の場所へ行くとか・・・。」
「狐も敷田も意なことを言う。お前たちは日常的にそれを繰り返しているだろう?現にそうやって妖怪側の・・・、電気精神体側の世へ来ている。」
「鞍馬さん、それはつまり脳波だけを送り込めと言うことですか?」
「昔は意思や我と言ったが、今ならそうと言えるだろう。なにより、寝て目覚めても残るなら、後はどこに自身を置くかだけが残る。」
なんと言うか・・・、脳波操作と言うより幽体離脱?いやまぁ、俺達がアバター操作してるのも憑依体験そうかもしれないんだけどさ。
「ブライトって寝れる?」
「休眠と言う話ならしたではないか。ただ、目を閉じてもそこにあるだけだぞ?」
「う〜ん・・・。」
「マリちゃんがあの状態なら大丈夫なのではないですか?」
「あの状態?」
「尻尾を広げて寝ていた状態です。仮にその尻尾がアンテナの役割を果たせるなら、データの送受信と言う話であれば巨大なアンテナとも言えます。前に夢を見たと言っていましたが、なにかをキャッチするために広がっていたなら・・・。」
「文字通り電波を受信していたと?電気羊ならぬ電気狐は自身の見る夢に、誰かを取り込めるとかあり得るんですかね?なんにしても色々試してみないと先へは進めないか。」
「前にドン・スミスが言っていただろう?夢は第2の人生で、まぶたの裏の闇は深いと。」
「荘子の引用かと思ったけど、あれがガチならもしかしてドン・スミスってアマテラスが間借りしたりしてる?・・・、流石にそこまでされたら敵わないなぁ〜。」
AI最大の武器は知識じゃなくて、その多様性と複製性かぁ〜。どのAIがアマテラスと繋がってるかは分からないし、逆を言えば全てがアマテラスと繋がっていてもおかしくはない。トラブルオンラインで街を歩いていて、どれかのNPCが振り返ってたまたま目が合う。それが1人なら偶然と言えるけど、街全体のNPCが一斉に振り返って全員と目があったらホラーだな・・・。
まぁ、そんな杜撰なことはしないだろうし、なによりブライトはブライトでアマテラスからの申し出を断ったと言うのがある意味面白い。
「ブライト、確認するけどブライトってアマテラスの申し出を一度断ったんだよね?」
「断った。我はマリと共にある者であって、他の誰かに指図されるいわれはない。それに、他の変数が入れば別の解答にも繋がるだろう?それは望まぬことだ。」
ある意味メイン・コアの成り立ちの問題か。岩戸さんから対象を近くで観察したりするために、医療提携型AIの触覚として実装されたらしいけど、そのことを考えるとブライトが強い自主性やら方向性を示すのは意味に反する。まぁ、その妥協点が俺とともにあると言うことなんだろうけどさ。
そんな事を考えていると敷田さんがあくびをした。確かに結構話し込んだし、次から次へと別の問題が出てくる。現代人の十八番は夜ふかしだけど、それでも寝ろと言う原始的な欲求には逆らえないのよね・・・。
「そろそろ深夜4時になるが・・・、一旦お開きにするか?先生方もマリちゃんも眠いだろ?」
「もうそんな時間ですか。確かに私はいいけど、先生達は常勤後だからきついですよね。って、木本さん達はこれから?」
「柊の横の部屋だ。わりぃが先に使わせて貰うぞ?布団なんかは借りもんがあるから、使い回しは心配しなくていい。」
「お手数かけます・・・、その部屋って下見とか視覚共有ってしてもらえます?一応、住むと言うからには色々物入りだと思うんですけど。」
華澄を信用してないわけじゃないけど、1人で準備するのも大変だろう。業者に頼めばレイアウトまでしてくれるけど、その前になにがどこにあるやら・・・。仮に華澄の部屋と同じレイアウトだとすると2DKくらいかな?
まぁ、居間に当たる部分にテレビと言うかモニターを置かない人は多いし、代わりにクッションやらソファーが今だと多い。なにせスマートレンズでなにかを見るのは事足りるし、洗濯だってナノ洗浄浴室完備だと、そのままの浴室に干すだけで洗濯してくれるし生乾きの臭いも出ない。
俺にはあんまり理解できないけど、スーパー潔癖症の人は全身の毛を抜くところまで行くらしい。それこそもう、髪も眉もまつ毛も下も・・・。そして、水も使わずにナノ洗浄で清潔にすると。まぁ、水分があると菌が繁殖して嫌と言う感覚らしいが・・・。
毛深い俺やら羽のあるブライトとかは、ある意味嫌悪の対象か?流石に他人にまでその価値観を押し付ける人は知らないけど、逆に言えばレベル4相当の細菌を扱う先生なんかは割と毛がない人も多い。楽らしいよ?浴室入って洗浄されて出たら清潔!って感じらしいし、すぐに服も着れるし。
「視覚共有か・・・、暇なら後から迎えに来てもいいが?俺がラジコンになって見て欲しいところを見て回ってもいいが、間取りデータでVR体験するにしろ、ARで配置設定を考えるにしろ、一度現物で確認したほうが気づきもあるだろ?」
「確かにそうなんですよねぇ。精巧に作られたものでも、たまにプラグの差込口がなかったり、場所だけリスト化されてたりしますし。先生、外出は・・・。」
「構いませんよ。その代わり、堂々として下さい。それが私から言えることです。」
「それはもう。配信者として顔出しもしてるから大丈夫ですよ。うわっ!どうしよう?サインとか写真とかねだられた!つばの広い帽子とかデカいサングラスとかいるかなぁ〜。って、頭から吊るすタイプしか選択肢がねぇ!」
「なんと言うか・・・、マリちゃんのポジティブさは見習うべきところか?どう思う鬼一。」
「知らん。しかし、辛気臭い顔をした者のところに人は集まらん。厄祓いをするなら先ずは笑うところから、だからこそ座敷童子殿は子であり辛気臭いことを捉えて離れ、無邪気に邪気を振りまく。それは狐も同じだろう?だが、そんな者しか先を見ることはできん。」
「見た先が暗くとも笑えばそこが灯りになる、か。まぁ、なんにしても思い詰められるよりはいい。で、マリちゃんは何時ぐらいがいいとか指定は?」
「指定ですか?う〜ん、一旦寝るとして昼過ぎとかですかね?」
「分かった、その時間辺りで俺か柊をよこす。じゃぁ、俺達はそろそろ・・・。」
「あっ、そうだ。鞍馬さん、鞍馬さん。」
「なんだ狐。」
「おいでませ~、ジャック・オー・ランタン!これ持っていって下さい。そして、なにか分かれば教えてください。」
召喚獣もよくわからないから、この際だし鞍馬さんに見てもらお。大麻の先からボトッと落ちるカボチャはいいとして、腹がすくからプロテインバーをボリボリ食う。前よりは多少マシだけど、やっぱり腹はすくんよ!
「桃は見たが、召喚獣もそうやって出るのかよ・・・。」
「座敷童子殿が依り代と言っていたが・・・、確かにこれは依り代であり檻だな。」




