271話 逃がしてはもらえなかった
「どんな感じです?」
代表するように俺が三枝先生に聞くけど、鞍馬さんはあまり興味がないようだ。まぁ、本人が天狗で空飛んだりしてるから、聞いたところで今更ということかな?
「2日前と今のデータの比較に重点を置いていますが、数値的に増大しているのは筋肉密度と量の双方です。」
「筋肉密度?脂肪がなくなって筋肉質になったってことですか?」
「そうとも言えますし、増大したとも言えます。スタート時点でのブライトさんをアスリートとするなら、さしずめ今のブライトさんは肉塊というところでしょうか?」
「肉塊ですか? なんか退化しているような……。」
「それは単純に肉の塊をイメージするからでしょう。そもそもブライトの骨格がガルボーン製であり、その分体重が減っているのはお伝えしていました。その減少量は約2kg分です。外見的には元々筋肉質なブライトさんでしたが、背筋部分にその減少量分の2kg……、概ね2対の羽部分にそれぞれ1kgずつ純粋な筋肉が付いただけでも相当な運動量アップと言えます。」
「は〜……。えっ? 鞍馬さんか木本さんが、なんか訓練とかしたんですか?」
なにもしてないのに筋肉は増えるのか? 答えは増える。まぁ、前に三枝が言ってたヘラクレス症候群とかの病気なんだろうけど、流石に今のブライトにそんな病気があるとは思えない……。いや、バイオナノマシンにか?
「いや? 俺達は話したり飯を食わせたりだ。考えてみろ、羽があるんだぞ? 下手に外に出せねぇよ。」
「俺もそうだ。肉は食わせたが特に連れ歩くことはない。強いて言えば、本人が呼吸法を繰り返し練習していたり、羽を気にしていたくらいか?」
「流石に呼吸法だけじゃ筋肉はつかないですよね?」
「そうとも言えませんよ、マリちゃん。マリちゃんがやって見せた完全呼吸法はインナーマッスルに作用しますし、なにより新しく筋肉を作るのにはタンパク質と大量の酸素が必要ですね。と、言うか最近筋肉とか見ました? こう……、ギリシャ彫刻とか。」
「流石にギリシャ彫刻とかは見ないですねぇ。と、言うかダビデですよね? 最近は腰巻きされてますけど。何にしても筋肉には憧れませんね。」
人の子など孕みとうない。そして、男の尻をゲームの中でまで見とうない。と、言うか筋肉には興味がない。だから、見苦しくない体なら究極的に言えばどうでもいいし、そもそも美しい肉体とか理想の肉体がなにかも分からない。
仮にダビデ像をボディービルダーに見せたらどうなるか? 答えは筋肉が足りないだろうし、腹筋をもっと割れとか胸筋つけろとか言われるだろう。なら普通の人が見たら、筋肉よりも先にこれ売ったらいくら? とか、結構デカくてビビるとか? だって、台座があっても5m、台座を抜いても4m以上あるんだし。
と、言うかボディービルダーは自分の肉体を鍛えたいのであって、筋肉モリモリの像が欲しいわけじゃない。それが欲しいのは、美術コレクターとか医者とか、後はサクラさんとか? あの人マチモスだし。
「年に一度は腰巻きが外されたパーフェクトダビデがお披露目されるらしいですよ? 中継は禁止らしいですけど。」
「画像検索したら普通に腰巻きなしも出てくるから、それが必要かどうか……。でも、筋肉なら見ましたね。ここに来る前もブーメランパンツの人がこう……、ムキッとポーズ取ってましたし。」
頭の後ろで手を組んでポーズ。ただ、普通に服を着てるから口笛吹いたらとぼけてるポーズとか? なんにしてもアバターの筋肉だから下手したら銅像とか石膏像よりも均等取れてるのかも。
「マリちゃんがなんでマッスルフェスティバルに参加したかはおいておくとして、情報の入力という部分での変化はあるかもしれません。」
「なんだ先生、情報の入力ってのは?」
「バイオナノマシンは筋ジストロフィー等の病気にもヘラクレス症候群の病気にも使えます。ただ、前提を話すならそれはあくまで本人の肉体を元にして筋肉部分を構築します。今のマリちゃんの話を考えると、真正面からボディービルダーを見ることはあったとしても、背後から見ることは少なかったのではないですか?」
「まぁ、マッスルポーズとる人を見て回ることはなかったですね。それに、あんまり見るとセクシャルガード案件にもなりますし。と、言うかマッスルフェスティバルなんかには行ってませんよ。水中マップで水着になったりしてただけです。パーティーメンバー的に私以外は全員男性アバターですけど。」
「狐、人は自身の背は見れぬ。あくまで背を見るのは他者であり、自身は背を見せることしかできん。」
「それはまぁ・・・、そうですね鞍馬さん。」
確かに鏡使っても背中を見ようとすると首をひねって痛いし、3Dデータで見ようと思っても不要なモノ、例えばホクロとかはわざわざ表示されないしなぁ〜。なにより自分の背中を見る理由自体がほとんどない。あるとすれば・・・、背中ニキビが痛いとか?
「・・・。なぁ、三枝先生よぉ。ものすごく乱暴な事を聞くが、今の話を元に考えるとマリちゃんが視覚的に認識すれば、なんらかの形でブライトへ反映される可能性があるんだよな?」
「仮説段階ですが、その可能性はあると考えています。そもそもマリちゃんの頭の中か、或いは所有している大麻に膨大な量のDLされた医学知識等が入っていると考えています。その症例や経過をバイオナノマシンが再現すれば極端な話、寝ているだけでも筋肉はつくでしょう。」
「いや、筋肉はいいんだが・・・。例えば今回連れてきた鬼一。コイツの背中を詳しく見せたらどうなると思う?」
「鞍馬さんのですか?確かに羽はあると聞いていますが・・・。」
チラリと三枝先生が敷田さんを見る。見られた敷田さんは手を交差して顔の前でバツを作る。確かに俺にも鞍馬さんの羽が今は見えてない。アストラルエンチャントとが切れたのか、それとも大麻をだしていないからなのか?
装備品は装備しないと意味がないとはよく言ったものだ。と、言うか普通に壁に寄りかかってるから、今アストラルエンチャント使うとどうなるんだろ?まさか昔のゲームみたいに壁の中に羽があるなんてことはないと思うけど・・・。
「狐、変なことを考えるなよ?」
「いや、ちょっとアストラルエンチャント使うと、どうなるのか考えてただけですよ?」
「それは私も興味がありますね。」
「カミングアウトしていいなら私も・・・。」
「これだから下手に下界に降りるのは好かぬ。木本、俺は・・・。」
「悪いがここにいてくれ、後で酒でも何でも買ってやるから。」
「・・・。射美と零響をそれぞれ3本よこせ。」
「また希少な日本酒を・・・。分かった、分かった。後で宮内庁から奉納品として贈っておくからいてくれ。それとそこの姦しい婦女子の方々、興味本位で・・・。」
「興味本位ではありませんよ木本さん。人が飛べる、これを単独でこなしているのなら、その時点でなんらかの法則が乱れているのか適応されていると考えられます。医院長も自身をカッパしていますが、それでも電気精神体や妖怪の成り立ちを考えると不可解な部分は多い。ですが、逆にその不可解な部分を解明できれば人と遜色ない存在とも言えるのではないですか?」
「それをやられると俺達としても困る。人の世の常識は今ある俺達が認めているルールだ。それを興味本位でずらしてみろ、あやふやな世界が顔を覗かせるぞ・・・。」
「でも、それをするからこそ分かることもあるんじゃ・・・。」
木本さんが凄みを効かせてるけど、なにも知らずになにかするのと知ってから判断するのは違う。と、言うか俺自身が宮内庁側でもなければ妖怪側でもAI側でもないから、言ったら不味いことがあるのも分かる。でも、ここで話を聞いても木本さんとしての意見しか聞けないしなぁ・・・。
いや、鞍馬さんがいるなら一応妖怪としての意見も?ダメだ。鞍馬さんは宮内庁側の協力者だから、最低でもぬらりひょんくらいの奴じゃないと中立性がない。
「・・・、一応。卜部さんから俺の判断でこの情報を開示していいと言われている。そして、俺は今これを開示しないとまずいと思うから開示する。だが、先に警告する。いいか?忠告じゃない、警告だ。これ以上関わりたくないと思うなら、部屋からでてくれ。」
・・・、スゥーッ
「お前は行くなよ、マリちゃん。」
「いや、警告には従うたちなのですが!?」
「爆心地が爆発しながら歩き回るな!ったく。俺が警告してるのは先生方だ。これ以上は本気で国と言うか海外も含めた話になる。」
「海外ですか?えっと・・・、エクソシストとして派遣されるとか?」
「いや。そういった類の話は俺や柊、後はマリちゃん方面の話だ。どちらかと言えば医療技術やAIの話になる。どうして個人データの改ざんはほぼ不可能なほどにプロテクトが厚いのか?どうして美容医療でも確実にデータ照合や本人確認が出来ない限り実施されず、闇医者に頼むリスクも莫大で判明すれば極刑相当の重罪なのか?そのあたりが絡む。」
かなり重い話だなぁ・・・。医療機器の仲介をやってたから、そちら方面の知識はあるにしても、他国の情報って結構ヤバい情報よ?そもそもナノマシン技術の発展やらAI技術の発展って過去の戦争からの歴史だし・・・。超弩級の情報を木本さんは開示しようとしてない?




