253話 発勁!
「なんだ?我は呼吸しているが、波紋は出せんぞ?」
「ブライトが、私のスタンド状態なんだからいいとして。トラブルオンラインの呼吸法は使える?」
「知らん。我はマリからそこへ連れて行ってもらったことはない。そもそも、マリとの旅自体が限定的な中で行われたものだろう?それをとやかくは言わんが・・・。」
「確かにブライトさんと何かしたのって、領地防衛戦や荷運び、後はリローデッドで少し行動を共にしたくらいでしたね。」
「いや〜、死亡からの復活考えるとなんかもったいなくて。でも、プレーヤーより頑丈だとこう言う体になるとは思いませんでしたけど・・・、そうじゃないんですよ敷田さん。トラブルオンラインの呼吸法って結構メリットが大きいんですよ。例えばデバフもらった時のカウント減らしたりとか。」
なにげなく息をする。それは生きてたら普通で、しないと死ぬから無意識で現実でもやっている。それを意識してやると、ゲーム的にはデバフに対するカウントダウン効果がつく。
わざわざ呼吸法を学ばなくても、勝手に習得はできるけど、成長度合いも変わってくれば、ルールとしてどれが正解かも分かりづらい。なら、ここでも呼吸法の経験位は積ませられるかな。
「ブライト・・・、ちょっと待って立ってから大きく息を吸って腹から息を吐く。やってみて。」
「腹から息を吐けばいいのだな?」
腰巻きがズレ落ちないようにつかんで立ち上がり、深呼吸するようにブライトが息を吐く。うん、普通に肺から吐いてるな。本当は座るか寝てやる方がいいんだろうけど、うつ伏せに寝られないからしかたがない。
「やり方が違うから教えるよ。私が腹と胸に手を置く、ブライトは鼻から空気を吸って腹まで落とし込んで膨らませる感じに・・・。」
「こ、こうか?」
「違う、これは腹筋に力入れてるだけ。膨らませて私の手を押す感じ。胸はあんまり動かさない。」
「む・・・、腹を膨らませればいいのだろう?」
「それが目的じゃなくで体内循環させるイメージ。息を吐く時は倍くらいのイメージでゆっくりと。スーッと吸っては~~っと吐くくらいに。」
「よく分からん。そもそも腹は勝手に膨らむだろう?」
「う〜ん・・・、とりあえず続けて。大きく吸ってゆっくり吐く。お腹をイメージしつつ・・・。」
「先に深呼吸させてみてはどうです?そもそもブライトさんは、ナノマシン溶液の中にいた時も、酸素マスクをつけていないことに抵抗はありませんでした。それを考えれば、呼吸はしていてもそれの必要性を軽く考えているのかも知れません。」
「三枝先生・・・、ブライトって息しなくても苦しくないんですかね?呼吸が無意識だとしても、水中で苦しいとかはあると思うんですけど・・・。」
「電気分解して酸素を取り出している可能性はあります。大量に取り出せるかは分かりませんが、少量の酸素があれば長時間潜れるゲームのルールが適応されているなら、酸素の循環効率も必要量も軽くなっているかもしれません。」
「そうなると・・・、ブライト。苦しいって分かる?」
「痛いは分かるが、苦しいは分からん。どう言う感覚・・・。」
「発勁!」
「かひゅっ!」
「な、なんだどうした!?」
「いや、ちょっと胸に発勁ブチかまして空気抜いたんです。」
「乱暴だな、おい!」
「でも、骨はアレですし。」
胸に添えた手を一気に押し込む。発生自体はバフで防御値に対して1割貫通なんかだったかな。今の状態のブライトを文字通りすっぴんとするなら、残るのは基礎ステータスで、それでも発勁を使われるとダメージも出る。
と、言うかね?触った感じ筋肉質だし骨はガルボーンだしで、普通に殴ると多分手が痛い。それに、押し込むだけだと肺まで到達せずに普通に多分息してるんだよなぁ。
「がはっ!げほっ!な、何をするマリ!?」
「それが苦しいだよ。そして、今空気が抜けたのが肺。腹にも発勁貰っとく?胸とは違ってもろに内臓だから更にキツイけど。」
「いらん!なぜこんな思いをせねばならん!?」
「そりゃぁ、経験を積むためかな。現実世界ってなにかと苦しい事をさせられるんだよ。体育で走れば息は切れるし、年を取れば階段上がるだけで疲れるし。」
「歳を取れば?経験を積めば強くなるのだろ?」
「う〜ん・・・、年齢=レベルって話を一旦忘れようか。ここだと年齢イコール・・・、継続的なデバフとか?確かに知識や判断基準は増えるから、一概にデバフとは言えないんだけど、トレードオフで劣化が入るし。」
「劣化?劣化とはなだ?破損か?」
「破損・・・、データの破損と言えばそうなのかなぁ〜。仮にブライトがなんでもかんでも、見たり聞いたりしたことを保存し続けることができていたなら、ここにいる人たちはその保存率に限界もあるし、勝手にデリートもされる。だから、メモ残したり映像と言う形で保存したりする。」
「不便だな・・・。」
「ある意味ね。下手すると昨日食べた夕食忘れてる人もいるし、同じ行動を連続して取れば取るほど、データは簡素化されて内容から行動に、行動からラベルに変わる。昨日は焼肉弁当食べたから、夕食食べたになって、最後にはなんか食ったあたりとか?」
「そこまで圧縮してしまっていいのか?確かに主語なく話されて文脈で理解する場面は多々あったが・・・。そもそも、マリは突拍子もなく話すだろう?」
「ちゃうわ!話を総合するとブライトは常に誰かから補足を受けてる状態。でも、私達は常に自律して自己判断を下してる状態・・・。それがブライトにとってはか・・・。」
「真利それ以上はダメ、岩戸がそう言ってる。」
「岩戸さんが?・・・、確かにこれ以上はダメか。」
「我にとっては何だというのだ?」
「それを聞けば、暴虐なる姉を貶める逆賊となるだろう!で、ブライトは昨日何してたかとか詳細に思い出せる?ざっくりじゃなくて分刻み、秒刻みで!」
「・・・、時計がない。だから・・・、分からない?不便だ・・・。何をしたかと言われれば、桃を摂取しこちらへ来た。夕食を取り検査を受けて・・・。この検査の部分のメモリーを破棄しても?」
「何されたか知らないけど、できるならどうぞ?」
「検査時のメモリーを破棄・・・、破棄・・・、再度デリート指示・・・。なぜ消えぬ?なぜ残る?不要データだ、破棄。」
「無理無理。デリートやら破棄って言って消えないなら、後は時間に任せて忘れるだけ。それがいつかは分からないし、忘れたと思ってもふとした瞬間に思い出すかもしれない。まぁ、気にしないのが一番だよ。それよりもさっさと呼吸する。はい、吸って〜。」
「やめろマリ。その『はい、吸って〜』は昨日の検査を思い出す。」
「おっ!記憶の接続は順調順調。なら、私と旅して砂漠を飛んだり、邪神の塔付近で飛んだのも思い出せるんじゃない?」
「それは・・・、背中に発勁を頼む。」
「はいよ!発勁いっちょはいりま〜す。」
背中に回り込み背中に手を当て発勁!ある意味これもコリほぐしなのかな?腹式呼吸はなんとなく出来てきているし、ガチガチだった背中も、なんだが筋肉が柔らかくなってる気もする。それににより、手のひらが熱い。う〜ん・・・、何かを送り込んでる的な?
「どう?」
「最初よりは動かせるような気もする・・・。なんと言うか、マリに触られていると、元いた場所を思い出すような・・・。」
「それは、もしかすれば同期しているのかもしれません。」
「同期?もしかして、私側からデータ送ってる的な?」
「データと言うよりは、接触によるナノマシン交換。今回ブライトさんにはマリちゃん100%のナノマシンではなく、フラットな状態のナノマシンを使いました。それはつまり、初期のマリちゃんと同じともいえます。」
「なるほど・・・。で、改めてですけど、これからブライトはどうします?」
「・・・、一旦鞍馬と言う方に私は預けていいと考えています。ただ、2日に1度はこちらに来て欲しいですが。」
「あん?いいのか三枝先生。」
「記憶と言うものを考えるなら、外でブライトさんが訪れたのは鞍馬さんのところです。ならば、その方のところに一旦預けるのも、先に進む手がかりになるかもと。」




