249話 姉の名は・・・ 挿絵あり
「卜部さん、見えてますか?スマートレンズで視覚共有はしてますが。」
>> 私は気にしなくていいよ。見たもので判断するし。
妖精王・・・、今はブライトが受肉した。姫子と言う実例があるし、過去に受肉したこともあるから、そこまでの驚きはない。ただマリちゃん同様NPCと言うか、データを具現化したからか美形だな、おい・・・。
「あっ、木本さん。」
「おう、敷田さん。ブライトはどんな感じだ?」
「難しい質問ですけど・・・、逆に先に質問させてもらっていいですか?」
「なんだ?俺は医者じゃねぇから、体がどうのこうの言われても分からねぇぞ?」
「逆に木本さんや柊さんとかしか、分からないことですよ。鞍馬さんの羽・・・、もっと言えば電気精神体の現実世界への干渉理論。これは解明されてますか?」
「難しい話したが・・・、量子力学。これは分かるよな?」
「ええ。ざっくり言えば量子と言う物質やエネルギーの最小単位を扱う学問ですね。粒子と波の両方の性質を持ち・・・、やはり量子のもつれが原因であると?」
「全解明はできてねぇよ。ただ、俺が電気精神体を固定する原理はそれだそうだ。伝承を知り、過去を知り、アンカーとなる俺が相手を定める。そうすれば、相手は電気精神体側も確定されて現れる。面倒なのは、意志があるから決めるのに手間取ることか?」
「つまり、両者の一致が不可欠であると?」
「ある意味ペアリングだそうだ。いくら俺が定めても相手の形が違えば抵抗される。だが電気精神体は最初から曖昧を好むから、ある程度の押しつけができる。それが伝承基盤。言うなれば過去から今に伝わる妖怪像だ。」
「なら、我の羽もツキがないと思えば消えるのか?」
「それは俺の専門外だ。俺が話したのはこの世界のルールであって、マリちゃんやお前さんのルールじゃない。」
「む・・・。確かにそれはそうだ。」
黙っていたブライトが口を開いたが、羽を気にしてるってのは本当らしいな。確かに俺から見てもこの羽は目立つ。それを外に出すとなると、かなり気を遣うだろう。
「ブライトさんは鞍馬さんの羽を見たって言うし、マリちゃんも羽を見たと言うから、なにかの手がかりになればと思ったんですけどね。」
「ブライトが鬼一の羽を視た?ありゃあ普通に見えるもんじゃねぇぞ?マリちゃん経由で同じモノを見てるとも言えるが・・・。」
>> ステージが同じだからだよ木本君。
私達は現れた一瞬を視ることは出来ても、継続して
見続けることはできない。そう言う風に人が否定
し続けて来た。
しかし、科学の目は見えないものをそうあると視せ
VRもARも干渉する脳波も使い、そこに本人しか
視えない世界を確立させた。
その結果が雁木さん・・・、強力な定義者だ。
「確かにアストラルエンチャント使ったら存在感が上がるとか、見えるとかは言ってましたね。三枝主任もマリちゃんと話して、見えないと殴れないから見えるようにしてるとかなんとか・・・。」
「マリちゃんよぉ・・・、頼むから普通にしといてくれ・・・。いや、そもそも普通は本人の基準だからマリちゃんが、それを普通だと思えば普通なんだろうがよぉ・・・。逆に敷田さんの見解としてはなんかねぇのか?」
「有翼人種構造を見れたとかですかね?マリちゃんもそうでしたが、本来人にはない部分ができれば、そこには骨がある。私はマリちゃんの動画を編集したりもしてますけど、ブライトさんの飛行そのものはかなり限定的なんですよ。」
「限定的?」
「ええ。誰かを抱えてはほぼ飛べない、飛行時間そのものは極短時間、羽打ちのような行動を取らないことから、骨としての強度は高くない等々。NPCも言うか、ボスとしての開発データを見れば詳しくは分かるかも知れません。でも、それはデータであって現実ではない。そこの相違を見ればなにか分かるかもしれませんね。」
「現実基準だとどうなんだよ?」
「聞いたら怖いかもしれませんよ?」
「だが、聞かなきゃならん。」
「そうですか。あっ、三枝主任。」
「おう、邪魔させてもらってる。」
「戻りましたが、木本さんと何の話を?」
「ブライトさんの体についてです。」
「ふむ。先の説明は変わりましょう。先ず、ガルボーンを木本さんはご存知ですか?」
「いや、知らん。なんだそれは。」
「なら、骨折されたことは?」
「あるにはあるが、それが?」
「過去、骨折した場合はギプスにより患部を固定し、自然接合ないしボルト等での固定を行っていました。古い映像作品である首から三角巾等で腕を釣っている状態がそれです。しかし、今はナノ治療で骨折も数日で治る。そこで使われるのがガルボーン繊。治療したての骨は弱いので、骨に直接炭素繊維を巻いて固定しています。」
「なら我の骨もそれが巻かれていると?」
「違いますブライトさん。そもそも骨の材料がガルボーンです。」
「は?そんな骨があるのか?」
「あるかと言われれば、問題とするなら作るかどうかですよ木本さん。炭素繊維・・・、普通のカーボンナノチューブ等はブラスチック樹脂等が混ざる。しかし、ガルボーンは炭素100%です。ここで逆転現象が発生します。工業製品としてはガルボーンナノチューブを作る方が容易ですが、人体の骨格とするなら体内に存在しないプラスチック樹脂を探すより・・・。」
「そこら中にあるCO2を集めて固めて骨にすりゃぁいいと?」
「ええ。骨としての強度を考えるなら骨格と言う概念が消え、筋肉がどれだけ圧をかけようと問題なくフルスペックの力が出せる。なによりブライトさんの身長が185cm程度で、総体重を約90kgとした場合、人間換算で骨の重さは約12.3kg。その骨を全てガルボーンとした場合は約10kgとなります。なにより、ガルボーンは銅と同等に電気を通すので、神経伝達速度も上がり超人的な反射速度も得られる可能性がありますね。」
「つまり・・・、マリちゃんは超人を作ったと?なら、この羽でやっぱり飛べるのか?」
「そこが不思議なのだ、なぜか我は飛べぬ。多少の羽ばたきはできるが、舞うことは叶わぬ。」
「不思議なんですよね。でも、マリちゃんがやっぱりなにか鍵を持ってるんじゃないですか?雪山の時もマリちゃんからナノマシンが流れてる〜とか、パーティーとか言ってましたし。」
「わかりませんね・・・。そもそも今のブライトさんの体重は見た目に反して60kg程度とかなり軽い。」
「わっかんねぇなぁ〜。俺としては、そのまま飛ばずに歩いててくれりゃあいいんだがよぉ・・・。」
「我とて願われてもおらぬのに、おいそれと飛ばぬ。」
「願われても・・・。」
「おらぬのに・・・。」
「飛ばねぇ・・・。」
「なんだ?3人して。自由に動かぬ羽は不便だ。なにより砂地や沼地では足を取られる。」
卜部さんが爆笑してやがる。そりゃそうだ、俺も電気精神体と同じ構造としてブライトを見ていた。だが、そもそもブライトは現実世界の基盤じゃなく、ゲーム世界の基盤で動いてやがる。つまり、マリちゃんと言う願う側の司令塔がどこまで容認するかが鍵なのか?
>> 木本さん、今大丈夫ですか?
「岩戸か、ちょっとお前もこっち来い。」
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岩戸さんが出て行き、特に呼ばれることもないのでゲームへログイン!華澄と住むところどうする問題を話そうかとも思ったけど、流石に今の状態で移り住むとも切り出しにくい。まぁ、華澄としては嬉しいんだろうけど、行くならゴタゴタを片付けてからだよなぁ〜。
「報告か?」
「あぁ、報告だ。邪神再来時にポーションを溜め込んで高値で売った商人、これの暗殺完了報告だ。」
「・・・、よろしい。稀人陸亀に報酬を渡そう。いついかなる時も、世界は誰かを見張っている。それを努々忘るることなかれ。」
「はいはい、NPCでも悪いことをすれば漂うオケアノスからは流れられない、ね。」
ドン・スミスに誰かがクエスト終了報告をしてるけど、あの後ろ姿は・・・。ちょうどいい、ハヤトさんに紹介するって話したし声掛けとこ。この前は逃げるので精一杯でそこまで頭が回ってなかったんだよなぁ〜。
「陸亀さ〜ん。」
「おっ、今ログイン?」
「そうですねぇ。それよりもちょっと、お願いしたいことがあるんですけどいいですか?」
「なに?クエスト?それとPvP?仕事も始まるし、あんまり長いのは勘弁だぞ?」
「そのPvP方面ですよ。キックボクシングしてるハヤトってフレがいるんですけど、スパーリング相手とかしません?」
「スパーリング・・・、スタイルは?」
「殴り魔です。」
「OK、引き受けよう。」
「お願いした私が言うのもなんですけど、そんなに簡単に引き受けてもらっていいんですか?」
「いや〜、年始でツキンズに挑んでボコられてさぁ。ある程度PvPでもジャストガードで押し切れたんだけど、あそこまでジャストガード潰しされると鍛え直したくなるじゃん?後からアーカイブ化された動画も見たけど、クインズでもジャストガード潰しされてるし、別の武器も考えたけど、やっぱり今は盾を極めるかなぁ〜っと、ね。だから、PvP要員は多いほうがいい。」
「なら、フレンド申請の仲介を今からしますよ。メッセージで時間合わせるのも大変ですからね。」
「おっ!頼むよ。」
対面でのフレンド申請は、普通に申請されてから受理すればいい。でも、フレンドにフレンドを紹介するなら、誰々からの紹介の誰々とする必要がある。なにせ、有名人と知り合いになった人がその人のこと勝手に教えまくっても困るからねぇ。
「この人は・・・、あれか。ハロウィンの時の人か。」
「ええ。レベル的にももうすぐカンストって言ってたし、一度PvPした時も純粋に殴り魔してたから、お互いにいい練習ができると思いますよ。」
「それは楽しみだ。さて、俺は2章を楽しむけどツキさんは?」
「デイリーこなしてからですねぇ。下手に2章始めるとなにやらされるか・・・。陸亀さん今どこ?もうオオミカ?」
「いや、今から開始。なに?どっか飛ばされてるの?」
「ネタバレするから言えませんねぇ。ただまぁ、高所恐怖症じゃなければ居残りをするといいですよ。そして最短でオオミカルート。」
「迷うなぁ〜。まっ!体験してくるわ。」
そう言って陸亀さんはドン・スミスに御霊送りをしてもらい旅立っていった。へ〜、傍目から見ると杭に吸い込まれる感じなんだ。自分が送られる時は分からなかったけど、こうして見るとよく分かるな。
そんな御霊送りを見届けてから、録画しつつ外に出て今日のデイリーを受注する。内容がゴミ拾いだったり、窓拭きだったりとオケアノスにいるせいか奉仕活動っぽい。窓拭きをチョイスしてから、布を取り出し適当な窓を拭いて周り、今日のデイリーは終了!
「いや〜・・・、狐巫女は見た!になりませんでしたねぇ。窓拭きを甘く見るものは窓拭きに泣く、発生クエストを引く時の確率を体感で言えば、落とし物を拾う、窓を拭いて家の中を見る、街が襲撃された後に知り合いNPCに話しかけるとか?発生じゃなくて、普通のクエストでも美味しい報酬があるからお見逃しなく!あと、2章ネタバレ配信もやってますよ〜。誰がどんなルートを通るかは分かりませんけど、内容知りたいだけならありかも?ん?」
華澄に呼ばれたので撮影を中止してログアウト。もうすぐ昼だから昼食?それならそれでいいんだけど、相変わらずブライトの件で呼ばれないのも気になる。でも、虫の知らせと言うかいるのは分かるんだよなぁ〜。
「はっ!これが霊感・・・?」
「姿だけ見るなら、いくらでも霊感はありそうよね。巫女やめて占い師スタイルとかやらない?三角帽子とか作るわよ?」
「どっちがって言うと、魔女のような・・・。で、どうしたの?」
「木本さんから連絡があって、三枝先生の部屋に来て欲しいそうよ。」
「とうとうブライトとご対面かぁ。ちゃんと弟には成れてるんだろうか?」
「弟?」
「そう。配信した時にコイツ誰?へのアンサーとして、海外からお見舞いに来た弟って設定にした。それなら多少変な行動しても、そんなもんかで流してもらえるからね。」
「海外と言うより、本当に向こうの国と言うか世界から来た者だけどね。」
「デジタル海外が許されるなら、デジタル原住民もいると?あ〜・・・、原住民とか言うと偽シンプソンズ要員になった、黄色いあれやらンゴンゴ言うなにかを思い出す・・・。」
「素振りしてるけど野球?」
「そりゃぁ、原住民と言ったら相方は野球民でしょう?」
「真利って野球好きだったかしら?私の辞書にその項目はないのだけれど?」
「いや、別に?猛虎魂と言われても賑やかだなぁ〜とか、好きなんだなぁ〜と思うくらい。その代わり今なら狐巫女魂があるとか?と、ここか。失礼します。」
部屋に入ると三枝先生に敷田さんに木本さんに岩戸にブライトと結構人がいる。まぁ、岩戸さんは座ってるから多分VR空間にいるか、ARでなにかしてるんだろう。別に座らなくてもできるけど、作業時間が長いなら先に座った方がいい。下手すると、集中して足が痛くなる。
「ツキか。」
「違う、昨日は許した。でも、今日は許さない。はい、理由は?」
「知らん。そもそも我は許された記憶もない、」
「残念、逆らった弟は暴虐なる姉に無視された。それで、呼ばれた理由はなんですか?特に暴れたり不安定なようには見えませんけど。」
「その前に、マリちゃんよぉ。姉っつうのはなんだ?」
「設定ですよ木本さん、設定。首切って追い返すにしても、それができないにしても、ここにいる理由とここにいていい理由が必要じゃないですか。だから、ここにいる間はブライトには弟となってもらいます。」
「だから、それは我も聞いた。しかし、許されぬ理由も分からぬ!」
「知りませ〜ん。姉の名を呼べない弟なんて知りませ〜ん。だからブライトじゃなくでブラコンとか勝手に名前つけて呼びま〜す。」
「マリちゃん・・・、それってもう1人弟が必要なんじゃ・・・。」
「・・・、弟これ以上イラネ。やっぱり三郎とか二郎にしましょうか敷田さん。ファンアートとかで、誰かとBL設定とか盛られても困りますし。」
「だから、ツキ。我は・・・。」
「つ〜ん・・・。」
さて、ここまでやってブライトはどう答える?会話を拾い話に混ざる。その際必要なのは共通認識で、この中でブライトだけが1人、共通認識を持っていない。それはつまり、こちらに来たと言いつつ、まだ自分はここにいると思っていない事の現れだろう。
別にブライトが俺にツキと言うラベルを貼り続けるならそれでもいい。何度でも否定するし、或いは何度でも容認する。なにせ、ツキであることと雁木 真利である事は同一なのだから。でも、世界が変われば呼び名も変わる。それだけは譲れない。
「こうなった真利は折れないわね。」
「そうなんですか?柊さん。」
「ええ。ちゃんと考えれば答えはある。でも、必要なのは答えを知る過程と自分でたどり着けるか?ですよ。なにかを理解したいなら教わるのも手ですが、それを受け入れられるのか?と言う問いが生まれる。」
「認知論ですか、かなり強引では?」
「ですが、他の方法もないのでは?私達はプレーヤーではない。プレーヤーであったとしても、ブライトとは会っていない。そうなると、私たちのラベルは最初から柊であり、三枝であり、木本となります。」
「・・・、ツキ姉ぇ?」
「惜しい!もう一声!」
「暴虐なるツキ姉ぇ?」
「わざわざ離れたよ!?」
「・・・、先に言うが、我は自己紹介を受けていないのだか?」
「アホ!弟に自己紹介する姉がいるか!」
「なるほど、暴虐なる姉か・・・。マリ・・・、そう呼ぶのがこの世界でのルールなのだな?」
「Welcome to the real world.私は雁木 真利です。そして、貴方はブライトでいいですか?今なら変更は可能です。」
「ブライトでかまわん。それもツキと暴虐なる姉であるマリが付けた1つ名だろう?」




