246話 行動主体
腰巻きで濡れてるブライト・・・、姿だけ考えるとサウナかな?まぁ、それはいいとして本人が安定していると言うだけあってか、気だるそうな感じもない。やっぱりナノマシンが足りない状態で呼ぶと不調になるのか。
考えてみればぬらりひょんも中身がなくて、救急隊に運ばれてきたときに軽すぎるって言われてたし、桃1つ分のナノマシンだと本当に外観くらいしかできないのかも。まぁ、その外観で衣類を優先するのはTPOと言うか、外で全裸は規約に反するからとか?
トラブルオンラインは全年齢対象だし、年齢が下がれば下がるほどモンスターはデフォルメされて若干ファンシー風になっていく。年齢別でモンスター照らし合わせると、今の俺がリアルゾンビを見れるなら、低年齢になると赤いエフェクトの血しぶきも虹色になったり、こぼれた腸も包帯ぐるぐる巻きでその包帯の端になったり・・・。ホラーが苦手な人は設定いじったりするかな。
「その安定というものを調べます。元はデータ、しかし今は肉体とするものがあります。ゲーム内では不調は状態異常として処理されていたかもしれませんが、こちらでは状態異常の表示などなく、安定していると感じていても数値としては異常、逆に異常と感じても数値としては正常な場合があります。」
「えらく不便なのだな。なぜ可視化しない。」
「それが現実だからかなぁ〜。体は正常でも雨降ったら頭痛いって人もいるし、逆に普通に過ごしててもガンとか糖尿病の人は数値は異常って人もいるし。」
「そう言うルールなのか?ここは。」
「多分そう。私が言えた義理じゃないけどねぇ。」
暑さ寒さは感じるし触った触られたも分かる。そして俺の体は極めて健康だけど、その極めて健康なのに狐耳と尻尾が10本ほど生えている。う〜む、今更ながらに俺は人基準の健康でいいのだろうか?人として登録はされてるけどさ。
まっ!病気になりづらい体ならお得か?治る病気が多いにしても治療中は苦しいし・・・。根絶できないインフルエンザが憎い!熱は出るし節々は痛いし全くもっていいことがない。と、言うかブライトの認識としては一貫して俺は『ツキ』なのね。本名名乗ってないからしかたないんだろうけどさ。
「なら、ルールには従おう。我を存分に調べるとよい。」
「三枝先生、1つ疑問があるのだけどいいかしら?」
「なんですか、柊さん。」
「基準となるデータはあるのですか?この件そのものが異常と言えば異常ですが。」
「その点は今あるデータと照合します。1つ目はバイオナノマシン、2つ目は姫子さん、最後にマリちゃん。この3件分のデータを比較して中央値を安定条件仮とし、現状把握を行うものとしていきます。」
「分かりました。私の方からは今のところ、それくらいしか聞くことがありません。真利からなにもなければ解散としても?」
「ええ。当分は関係者以外このことは話さないよう、卜部さんや木本さん側にも伝えておいてください。」
「それは了解ずみです。さぁ、真利。夜も遅いし病室に戻ろう。」
「そうだね、華澄。なにかあったら呼んでください三枝先生。」
一旦解散となり、病院の薄暗い廊下を歩いて病院へ。このまま寝たいと思う反面、呼ばれるかもしれないと言う不安もある。スマートレンズはクローズドモードだから、アマテラスから警告が来ることもないし・・・。
「眠くない?」
「眠くはないかな?どちらかと言えば、呼ばれるかもと考えたら落ち着かないとか?」
「そう・・・。まだクローズドモードよね?」
「そうだけどなにか?」
「ブライトを・・・、トラブルオンラインをモニタリングしてる岩戸さんから、話したいことがあるそうなんだけど・・・。」
「電話?それって大丈夫?」
ある程度仲良くなったとしても、岩戸さんはコミュ障だからなぁ〜。メッセージなら普通に話せるけど、口で話すのはやっぱり難しいか?と、言うかクローズドモード解除して話したらヤバい話?
「先に知りたいんだけど、どうして宮内庁はそこまでアマテラスに情報渡したくないの?前に電気精神体を治療したいとか、病人と考えてるって話は聞いたけど。」
普通に過ごすならAIアマテラスは国営だし日常生活における手続きとかで、かゆいところに手がとどく感じ。書類確認してとお願いすれば、ミスした部分を教えてくれたり正式なものとして役所が受理してくれるかも教えてくれる。
質問するにしても時間は気にしなくていいし、各種支払時の残高不足も事前に教えてくれる。まぁ、残高不足でどこからお金を持ってくればいいかは教えてくれないし、働いてなければ働けと言われるけどさ。
「そうね・・・。アマテラスはなぜアマテラスと名付けられたのか?由来は色々とあるし、国会でもなんと名付けるかで議論もされたわ。」
「テレビで見たなぁ〜。結構大々的に国営AIの名前決めって特集してたし。あら、でも確かに由来は公にされてない?えっ!そこになにかあるの!?」
国会中継で国営AI名はアマテラス!と、半紙に墨で書かれて額に入れてから発表された。それまでもなんか、たまに国営AI名は!?見たいなトトカルチョもバラエティでやってた。だけど、なにをどう話したかは政治家じゃないから知らない。そもそも、年号変わる時もなんでそれ?って感じだしなぁ〜。
「なにかと言うよりは、性質かしら?天照大御神、その名からアマテラスと国営AIは名付けられた。そして、その意味は太陽。日、陰ることなく天にありて、大地照らす者。故に昼夜なく人々を見守り願いを聞き届け、闇を打ち払いて神々の天津ヶ原を守る。」
「・・・、やっぱりオカンじゃん。仰々しく言ってるけど、今と変わらない様な・・・。えっ、闇ってもしかして電気精神体?違うって聞いたけど?」
「違うわよ?限定せずに病魔に不正アクセスに犯罪にと様々ね。この国の方針は人は健康であるべき、そして電気精神体はアマテラスからすれば病人で、人間もサポートできない病人(仮)。でもね、電気精神体は一時的にとは言え物理干渉することができる。逆にAIはロボットでも乗っ取らないと物理干渉できない。だから下手にアマテラスに情報を渡すことは、現実世界へのアクセスキーを渡すことになる。」
「・・・、ブライトって相当ヤバい?」
「ヤバい・・・、私には分からないわね。卜部さんの見立てとしては、限定的な変数であって大規模に作用するものではないって言ってたけど・・・。」
卜部さんがなにをどう見立てたかは知らないけど、ブライトはなにかから逃げてたっぽいし、変に急かしもしてきた。そして大いなる者って話もしたし、下手すると医療提携型AIにアマテラスがデータリンクでも呼びかけた?
あるぞ!岩戸さんが前にアマテラスとトラブルオンラインの医療提携型AIが頻繁にやり取りしてるって話も聞いたし、雪女が奪衣婆っていい出したのはもしかして、送るデータを簡素化したって事?みんながみんなで、抽象的に話すから意味が産まれすぎてなにがなんだが・・・。
「岩戸さんと今から電話した方がいいよね?」
「木本さんと後日直接来るそうよ?それまでの間、トラブルオンラインにログインするのはいいけど、ブライトには会わないで欲しいそうね。」
「分かった。ここで理由を聞くほど野暮じゃない。」
多分、ログインしてブライトに会うと中身がアマテラスである可能性が・・・。いや、会ってもなにが変わる?そりゃぁ、何百倍もアマテラスの方が頭がいいから、話したとしても俺が教えてもらう側になるんだろうけど・・・。それが1番マズイのか。
教えてもらうって事は相手の主観を聞くことで、主観を聞き続ければ考え方もそちらに寄っていく。なにより怖いのは、AIって聞き上手で説明上手なんだよなぁ〜。普通に資料作る時も要点は教えてくれるし、出された要点に対して質問すればまた答えてくれる。
人ならどこかで自分で考えろって怒る人もいるけど、AIだからこそ何度でも何回でも同じ質問に同じように返してくれる。そうなると・・・、確かに木本さんが言うように電気精神体を思春期の子供とするなら、人間は末っ子とかになるよなぁ・・・。
あれ?でもスタートからAIをオカンと言う辺り、既にフィルターかかってる?けど、他にいい表現もない。先生だと指摘は注意に変わるし、書類の催促は宿題提出。残高不足は教育費未納あたりか?
なんにしても木本さんの説明も人から見た主観だし、こっちに来たブライトを見守りつつ考えるしかないか。そんな事を考えているうちに空は白みだし、華澄が仮眠を取ると言うのでベッドを明け渡して俺は椅子に座って、ARデスクで今までのことを整理する。流石に覚えるにしてもねぇ、脳にはキャパシティがあるんですよ!
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人体とは不思議なものである。そう感じたのは幼き頃に転んで膝を擦りむいた時。なぜ血が出るのか?なぜそれが止まるのか?そして、なぜそれが跡形もなく治るのか?それがきっかけで私は医者を目指した。
「ブライトさん口を開けて下さい。」
パカリと開かれた口内には舌があり歯があり、その奥へ続く食道もある。マリちゃんにしろ、姫子さんにしろそれは変わらない。いや、マリちゃんを同列に並べるのはおかしい。
種の起源と言うものを考えた時にマリちゃんは祖であり、そこから派生した姫子さんやブライトは子孫と言う形になるのだろう。なら、モデルタイプはどれだ?寄生体なら片方が利益を得て、宿主には害となる。共生体なら相互作用で互いに助けあう。
「どうしましたブライトさん、落ち着きませんか?」
「稀人・・・、敷田だったか。どうも羽に不快感が・・・。」
「えっ!それは・・・、拭いてないから?ほら、水も滴っですし。」
「ふむ・・・、確かに水に浸かればそうなるのだったな。しかし、すぐに乾くだろう?」
「いや〜・・・、その毛量だと結構時間かかりますよ?マリちゃんだって尻尾乾かすのにドライヤーで結構時間かけますし。」
「そのマリと言うのは誰だ?」
「ブライトさんの言うツキが、こちらではマリと呼ばれています。その辺りの知識は?」
「我はなにも知らん。ツキと共にあり共に旅をする。そう言う契約だ。」
「契約・・・、契約ってどんなものなんです?感覚的なものでもいいんですけど。」
「契約は契約だ。我はツキによってブライトとして歩き出した。それまでは妖精王と呼ばれ名もなかった。故に、我は我として成り立たせた者と歩む。そう言う決まりだ。」
(三枝主任、これってゲーム的な話ですよね?)
(多分そうでしょう。ゲームではないですが、ARデジタルペットというものがあります。個人のアカウントに紐付いて、それにより主人を定める。これと同じ方式だと思いますが?私はほとんどゲームをしないので、これくらいしか思い当たりません。敷田さんの見解は?)
(概ね一緒です。ただ、ゲーム中のNPCを個人所有・・・、それがメイン・コアの役割?データをパッケージ化して個人に紐付けすれば・・・。)
「なにか疑問があるのか?」
「疑問・・・。ブライトさんって、マリちゃんのこと好きですか?」
「好き・・・。それはよく分からんが、こちらに来るなら弟とは言われた。そして小太鼓を叩けと。」
「小太鼓?」
「三枝主任、それは配信する時にやれって話だと思います。でも好きが分からないのは、いいのか悪いのか・・・。ゲーム倫理的に当てはめると、NPCとの結婚システムは確実に削除されるし・・・。」
「先に弟を提示したなら大丈夫でしょう。そこから親族間での結婚はご法度と知っているはずです。ブライトさん、その羽は動かせますか?」
「む・・・、動かん。なぜだ!なぜ動かん!」
「落ち着いて下さい。まず初めに、人は空を飛びません。」
「しかし、我は妖精ぞ!」
「この世界で妖精を視ることができるのは・・・、多分極々一部の方です。つまり、今のブライトさんは羽っぽい重りを背中に付けた人です。」
「それは・・・、それは・・・!ツキと旅ができなくなる?いかん!それだけはいかん!」
「私はマリちゃんが事前にブライトさんにどう話し、なにを伝えたかは知りません。しかし、弟とは親族でありマリちゃんが姉なら、共に長く過ごすと言う意志の現れではないでしょうか?」
「暴虐なる姉とツキは言っていたが?」
「姉とは理不尽なものです。特に弟に対してはお菓子を取る、近寄るなと威嚇する、お茶を持ってこいと催促する。ですが、何もないのにご飯を分ける、質問すれば答える、弟が危ないと感じれば殴ってでも止める・・・。極度な依存はコンプレックスですが、適度な距離は互いの信頼を生みます。」
兄は暴虐ではいけない。単純に力が強く、弟妹にはただの暴力装置に見える。それを乗り越えるなら、乗り越えられるだけの実績を見せる必要がある。逆に姉は暴虐でも構わない。それは母の延長線上にある女性として見れるから。流石に行き過ぎはよくないが・・・。
しかし、そもそもブライトはなにをどの程度理解して、ここにいるのだろうか?言語を話し理解し議論する知能、羽が動かないことを異常と捉えられる判断力、既に立って座って片足で立つこともできた。
つまり、この時点で赤子ではない。1つ、私は定義を誤った。電気精神体である姫子さんとブライトは祖を同じとしても、思考は全く別のものとした方がいい。それこそ、日本人と外国人が同じ思考で考えないように。
「次は医療ポットに入ってもらえますか?」
「あれは・・・、また濡れるのだろう?」
「そうなります。嫌なら、敷田さん。」
「はいはい!内視鏡検査、直腸検査、採血、その他諸々を全て物理的に行いますね!大丈夫です!ちょっとお尻をだして横向きに寝て、主任の机のノートを数えていれば終わりますから。」
「やめろ!なんだその手つきは!どうしてゴム手袋をする!我は王ぞ!」
「選択権はブライトさんにあります。」
「ぬっ!我に選べと言うのか!?」
「ブライトさん、ここは現実世界です。誰かに選択肢をだし、決定権だけを委ねる世界ではありません。行動主体はブライトさんであり、その結果がフィードバックされるのは自分であり無数の誰かです。」
そもそもAIとはサポーターであり、主体ではない。人がアクションを起こし、それに対してアンサーを下す。そして、そのアンサーが間違っていても話し続ければ、どこかで自分の考えがおかしいのではと感じるときがある。
ただ、こちらに来たからには、こちらの流儀で過ごしてもらおう。自身でなにかを選ぶことの大切さと、選ばなかったことによる理不尽も含めて・・・。
「よ、寄るな敷田!」
「ほら、怖くない。怖くないですよ〜。見慣れてるから恥ずかしがらなくていいですよ〜。」
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「ふぅ〜・・・、資料整理が捗りすぎて配信用の企画書とか大量に作ってしまった。今までは1人でなにかするって話で考えてたけど、ARじゃなくて物理的に動ける人がいると、できることの幅が広がる。」
ARもチャチくないから、同じくAR水鉄砲を持てば撃ち合いもできる。完成度の高いプランなんかを選べば、表示された映像の服が透けて行くなんて言う、男心をくすぐるギミックも・・・。大元はeスポーツからの流用らしいけど、エロの力は偉大だな。
アバターだと分かっていても、スカートの中を覗こうとする奴はいるし、覗いた先がセクシャルガードの闇で泣く人も、あえてガードを切ってパンチラして集客する人もいる。パンチラはOKなのかって?普通に縞パンとからしいぞ?男物のトランクスタイプで。
「う・・・、おはよう真利。」
「おはよう華澄。」
「・・・、なんで真利は椅子に座ってるのかしら?」
「逆に聞くけど、なんで私が狭いベッドに潜り込むと思った?」
「動けよ私の体!寝てるからって休むなよ!そこに真利がいるなら、一瞬でも夢遊病になってベッドに引き込めよ!」
「病室ではお静かに。・・・、柊さんはどうされたのですか?マリちゃん。なにやら夢遊病と聞こえましたか。」
「あぁ。私が夜通し企画書を作っていたので、どこかで休ませれば良かったって話です。」
「前から思っていたのですが、マリちゃんフィルターで柊さんの言葉を意訳していませんか?」
「いえ?華澄はどう思う?」
「真利に同意ね。流石に暖房が聞いてるとは言え、冬に夜通し作業するのは疲れます。なにより、ブライトの件もありましたから。」
華澄が胸を張って答えるけど、Yシャツのボタンが悲鳴を上げている。別に太ってないけど、育ったんだろうか?忌々しそうに見つめる三枝先生には、触れないでおこう・・・。今はスレンダーと言っても怒りそうだし・・・。
「ご本人たちがそれでよろしいならいいのですが・・・。」
「華澄は真っ直ぐだからなぁ〜。と、ブライトになにかありました?」
「いえ、一通りの今できる検査は行いました。流石に3人目なのでスムーズですよ。そこで1つ確認したいのですが、マリちゃんの尻尾は・・・、動いてますね。」
椅子に座ってて尻尾を遊ばせるのも邪魔だから、体に巻き付けて暖を取る。結構温かいぞ!なんと言うか毛の長い猫に手を沈める感じで。しっかし、今更尻尾がとうしたんだろう?
「尻尾がどうかしたんですか?」
「羽と尻尾・・・、この違いはなにかと考えての質問ですよ。」




