242話 弟、OK?
街を歩きオケアノスの寺院へ。見かけるNPCがたまにバッグを交換してたり、握手する風にして手紙をやり取りしているのが、どことなく犯罪者同士のやり取りを思わせる。ちなみに盗品市へ行くと、盗品と言う名のガチャ限定的武器がたまに売られている。
目安としては大体実装から1年過ぎた物とか?流石に最新武器はないし、それが並ぶのも極々稀で目玉商品だから高い。まぁ、それでも欲しいものがあると買っちゃうよねぇ。後で覗こう。なにせポーションとかの流通とかは回復しつつあるけど、まだNPCの売るポーションも高い。
ここでお得ポーションパックとかの掘り出し物があれば、多少は備蓄具合も良くなるだろうし、なによりいつやるか分からないイベントへの備えにもなる。ガチで悪い運営はねぇ、発表して次の日なんて言う、準備期間設けない事もあるんですよ!
「さて着いた、中に入れて。」
「・・・、どなたか?合言葉を言えぬ者は中の方とは会えない。賢者には?」
「銀と櫛を。」
「よろしい。賢き御方、中へ。」
開かれる扉・・・。あまり広い寺院とは言えないけど、天井にはフレスコ画っぽい物が描かれ、ロウソクと香油?の煙が立ち上る。長い椅子に降り注ぐ光はステンドグラスを通してなので鮮やか。そんな中を讃美歌っぽい曲がロック調で流れる。もう1度言おう、讃美歌っぽい曲がロック調で激しく流れる。
ちなみに、合言葉のヒントは街中にある。そして、特定のなにかが絶対に正解でもなくて複数の回答が受け入れられる。さっきの質問なら、三賢人の名前とかでもいいし。その代わりプレーヤー同士でこれと教えると、この街から追われる身となる。いや〜、秘密をバラすって怖いですね。
「面会か?戒告か?それとも仕事の報告か?」
「う〜ん・・・、逃走?」
「間違ってはいないが、それでいいのかツキ。」
「いいのいいのブライト。ここでの発言は真実であって真実じゃない。だから私は逃走してるかもしれないし、2章を追ってるのかもしれない。だから、ね。」
「ふむ。なら気の済むまで席へ。それとも、杭を掲げるかね?御霊送りを行うが?」
「いや〜、今はいいかな?って、近い近いドン・スミス。」
近寄ってから話したけど、今回もドン・スミスは供物族。ただ2mくらいの身長でブラウン管ヘッドの単眼。前に見た時はもう少し小さかった。そんなドン・スミスが腰を折ってめっちゃ俺を見てくる。しかも、平面の顔だから人とは距離感が違うって、目ん玉だけの顔近づけんな。
「幾人も裏で笑う者はいた。その中で笑い続ける者もあれば、裏へ落ちる者もあった。我々としては落ちてくれたほうが助かる。しかし、稀人ツキは落ちていない。残念だ。」
「当然である。そのような事があれば、我が止める。」
「ブライト・・・、ならば知れ。稀人を。私はドン・スミス。この街の顔役として世襲され続ける者だ。」
なんかブライトとドン・スミスが面白いことになってるけど、普通にここでクエスト受けたりしてるぞ〜。まぁ、クエスト達成すれば犯罪はバレてない。その代わり、捕まれば普通に犯罪者。アサシン系の人は暗殺任務にうっきうきするらしい。
俺は潜入任務で口八丁手八丁で切り抜ける方が面白い。なにせAIと真正面から論争して、どう理屈をこねくり回せば納得させられるかなんて中々やる機会もないし、最悪はお酒飲んで脳波ジャミングと言う手が使える。まぁ、すんごい酔ってくるけど・・・。
そんな事を思いつつ席について一息。とりあえず、ここにいれば早々追われることもないし、今後の計画も立てやすい。1つ目は駄弁り配信の日程か?これは早々に告知を出して、1章を今はやらないと宣言すればいい。そうすれば、追う人も少なくはなるだろう。
2つ目は前々から外でなにかして、と言う話と絡めた奉納神楽の話。これは最悪しなくてもいい。流石に姫子さんとブライト連れて神楽舞うと後から変な噂があるかもしれない。姫子さんの認知度上げと言う、裏目標もあるけど最初から配信・・・。
「いや、姫子さん普通に配信出てんじゃん。むしろレアキャラ枠だから、雇うと宣言すればそれだけで認知度は上がる。」
設定と言うか属性そのものが姫子さんは多いから、変にキャラ作るよりもそのまま押し出せばいい。本来のアイドルなら既婚者と言うのはマイナスなんだろうけど、初回でそれも周知してるし、ここで引っかかることはない。
逆に木本さんが心配と言えば心配だけど、駄弁り配信で宮内庁のことやらを匂わせればいいし『提供:宮内庁』を入れた時点で勝手に参拝者が推測する。そうなると・・・。
「我を見てどうした?」
「我が何者かを、どう背景作るかで迷ってる。」
キャラとしては王と言うものがある。でもそれはAR表示だからとかで許されている。逆に肉体持って現れて、羽やらが引っかかるとなぁ〜。コスプレで押し通せるけど、今度は顔が足を引っ張る。なにせ白人系モデル顔、女性ファンが付くのは目に見えている。
美人やらイケメンは得なのかもしれないけど、それはそれを知った上で利用する人だけ。光源氏が醜男なら恋愛物語じゃなくて、別のタイトルがつくんじゃない?やってる事は中々にクズいし・・・。
「・・・、ブライトって英語話せる?」
「造作もない。稀人がそれを話すなら、我もその言葉で返す。」
「なるほど、そこは高性能なのか。元々多言語対応ゲームだし。なら・・・。」
勘違い外国人?多少言動が怪しくてもそれなら押し通せるのか?いや、その前に本人基準アバターと言うか、実際の人間をモデルにしてモンスター作ったと言う方が問題だよなぁ〜。本人が本人をスキャンしてアバターに落とし込む。それ自体は問題ない。なにせ、本人がそれを承諾して本人が扱っている。
しかし、倒される前提のモンスターに人間を落とし込むと、後から本人が嫌な思いをする。う〜む・・・、邪悪なる妖精王との違い・・・。羽はあるけど角がない。そして、俺の今の容姿は金髪碧眼。
「上と下どっち?」
「なんの話だ、なんの?選べと言うなら・・・、下か?」
「OKなら、ブライトは弟ね。」
「ちょっと待て!なぜそうなる!」
「いや、単純に下を選んだから?違和感なくやるなら、姉弟かなと。」
割とこの設定は使いやすい。少なくとも俺は英語が話せるし、ブライトがどこの誰?と言う話になっても、適当な国名を匂わせつつ妖精郷とでも言えばいい。いや、イギリスか?妖精郷なら。まぁ、どこの国の人?と言う話題はスルーしつつ、追々詰めればいい。
「ならば、我が兄でよかろう?」
「ブライトは稀人郷の作法に疎い。なら、弟。OK?トラブルオンラインはブライトはプレーしてない。暴虐なる姉から衣装渡されて一人称を我と指定された。それなら、たまに抱きついて趣味と言うのも・・・、危ないけどどうにか?お姉ちゃん子とでもすればいいし。」
「なぜ我がシスコンにならねばならぬ!」
「いや、抱きつかなければそれでシスコン疑惑はなくなるよ?」
「ぐぬぬ・・・。」
「そこで迷うからシスコン決定。来た理由は文化交流兼姉の見舞いなら、長期でいなくても怪しまれないし、コスプレさせた理由も顔が似てたからで済ませられる。むしろ、似せないためにメイクする?アイシャドーバリバリに入れてパンダとか。」
「せぬわ!そもそも我とツキの顔は似ていないぞ?」
「それはもうDNAの神秘でごまかす。ハーフっていい響だと思わない?と、いうかね?女性外国人の顎が割れてるのって見たことある?私はないけど。小さい頃は女性が男親ににててもね、大人になると結構性別で顔は変わるものだよ。」
「我も知らん。だがハプスブルク家と言う実例はある。」
「あれは実例だけど例外。そもそも今の時代、あんな環境が成立しないよ。と、言うかあんな事してたら捕まるし認められない。」
少なくとも日本では従兄弟とは結婚できる。でも叔母やら甥とは結婚できない。なにせ遺伝的疾患リスクが高くなるから。なんなら『人は健康であるべき』と言う根底を考えると、国はその部分も変えようとしているらしい。
検査やらナノマシンで色々とできるにしても、DNAを弄るのはデザインベイビー理論からほとんど認可されないし、逆に認可されるのは母体の中で異常が見つかったときだけ。
どんなに医学が発達して科学が発達しても、人間は機械じゃないから何かしらの問題が出る時は出るのよね・・・。だからこそ、先に避けられるリスクは避けるべきだろう。
「認められない・・・。」
「いや、なんでそこに引っかかるのさ。なんなら姉弟やめて従姉弟とかにする?別にそれに変えても大きな破綻はないし、身長差もそれはそれでごまかせるし。」
「いや、ふと考えたのだが・・・。我がツキから桃をもらう。そして稀人郷へ行く。それはつまり、我がツキから産まれたことになるのか?」
「・・・、AIの子など孕みとうない・・・。てかね!それだと姫子さんも私の子じゃん!処女受胎と言うか処女出産って多方面から怒られるからなし!」
ぬらりひょんも一時的に受肉したし、姫子さんも受肉した。なんなら木本さんと結婚した。そしてブライトも受肉してみんなから『ママぁ〜・・・、認知して・・・。』なんて言われた日にゃ頭がパンクする。いや、でもやってるのは認知度上げなんだよなぁ〜・・・。
「ツキがそれでいいならいいが・・・。」
「いい!ブライトは稀人郷だと弟、OK?」
「一旦OKとしよう。」
「それで、ヨシ!・・・、ブライトが稀人郷にいる間って、こっちのブライトはどうしてるの?」
前は省エネモードとか言っていた。でも、何度考えても矛盾が出てくるんだよなぁ・・・。確かにブライトはNPCだからコピーした意識があってもおかしくはない。でも、逆を言えば現実世界にいるブライトと、ゲーム世界にいるブライトは別物じゃないとおかしい。
なにせとある1地点から、全く違う体験をするわけだし、データ上なら情報共有もすぐに出来るだろうけど、現実世界と電気世界では明確に隔たりもある。そうなると自然な状態としては『寝てる』が正解で、処理としても1番綺麗に収まる。
「我は・・・。」
「夢は第2の人生と申します。何者にもなれる世界で何者にもなるかを夢想し、その結果を追うのもまた人生。或いは、お喋りな夢遊病者が刹那に目を開き、知らぬ場所に立っていたと思うも、瞼の裏の深い闇を追えば・・・、それもまた現実です。」
「なに?ドン・スミス。荘子の引用?」
「さぁ?どこにいたかよりも、何者になったのか?私はそちらの方が大事だと考えますよ?特にここは裏に身を置くものが多いですからね。」
うぅむ・・・、後で岩戸さんに聞くか。それは横に置くとして、スミスの言うことも理解は出来る。確かにこうしてゲームの世界に来てツキに成ってブライトも触れる。ただし、これは現実かと聞かれると曖昧で、脳波がそう思わせているから触っていると感じているだけとも言える。なにせ俺が思う現実にはブライトはいない。
一方ブライトからすれば、俺の方が夢の中の住人とも言える。なにせ勝手に来ては勝手に消えて、現実世界に呼び出されたと思ったら首を切られてと、夢と思う方が自然だと思える。
「・・・、結局は認知と存在論か。要はどちらで多く認められ、どちらで多く過ごすかでしか存在は固定できないんだろうし。」




