閑話 14 キャプテン
既に我々の母星は失われた・・・。我々が弱かったわけでもなく、我々が至らなかったわけでもなく。我々はその定めの中にあった。そう・・・、神とは理不尽であり無関心であり試練と道を示す者。だから、稀人と言う外より来る者を呼び寄せる事を許可した。
「キャプテン=バン・ホー・・・。既に準備は。」
「わかっている・・・。空の棺は?」
「総員分準備しています。どれほどが不要になるかは・・・。」
「言うな。我々は礎となる。それは既に決まり、その決まりが礎としての証明となる。それは今残った各種族会議でも妥結された。同族を撃つ可能性も、私しか名が残らない可能性も・・・。」
「心得ております。全ては名もなき者でありバン・ホーとしてその名を残す・・・。それしか道はないのです。そして、それは各兵士共に納得済みかと・・・。」
「うむ・・・。その身を捧げ供物族として歩いた同胞・・・。意思なき邪神に楔を打ち込むも、その意思で邪神を打ち砕くも同胞達に任せる。」
妖精族から・・・、既にオオミカで邪神により侵食されて堕としつくされた者達より伝わった魂を使う術式。今はキャプテンにしか伝わらず、ほぼ禁忌とされているもの。そうだろう・・・、個人を武器として楔を打ち込みその意思により邪神を縫い止めるものを、我々としても常用する気にはなれなかった。
だが、その甘さが今を招いた。少数の犠牲を嫌い大多数を危険に晒し、その結果が母なる母星を奪われるまでに至った・・・。誰が責められる?愛する者を、同胞を、言葉交わした者を材料にしろと言われて・・・、誰が納得する!?私はそれを責められない。
誰かを犠牲にして救われた未来を手放しには喜べない・・・。綺麗事としては、だ。その綺麗事を信じた私達が今だ。美しい世界と美しい勝利を望み結果として我々は星を追われ宇宙へ逃げ、その宇宙でも邪神の侵略により限界に瀕している。
「もうじき外より来る者・・・、稀人が来ます。」
「少しでも安全を。意思の強き者は・・・、私が振り分ける。少なくともそれを示すだけのなにか導きがある。総員には死に方の用意と。」
「・・・、分かりました。」
発したくない命令を私は下す。その綺麗事を言う今は私にはない。望むのは未来であり、呪うべきは決断出来なかった過去。だからこそ、誰一人私の心の内は知られてはならない。誰も死ぬなと願う虫のよさは見抜かれてはならない・・・。
どのような者達なのか?確定された知らせは稀人は死さえ遊びとする者達。それは邪神となにが違うのか?私には分からない。しかし、それでも彼等は我々の助けに来た者達と言う事だろう。なにせ、邪神とは敵対しその存在が多くある限り世界は正常に保たれる・・・。この手記がいずれ読まれる事があるかは分からない。だが、出来れば見ても捨ててほしい。
「傾注!キャプテン=バン・ホーよりお言葉がある。」
『それって神・・・。』
「そこ!私語は慎むように。」
多数の稀人が日華へ来た。各種族は各種族のキャプテンの元へ。既に年齢は250歳を超えた者も多く、逆に100に満たない稀人もいる。なぜここへ来たのか?それは考えない。外より来た者を我々の尺度で測ることが烏滸がましく、声を上げた稀人も250歳であり、なによりいつの時代かでかぐやを防衛した徽章と妖精族を連れている。
他にも騒ぐ稀人は多い。しかし、懇切丁寧に説明している暇もない。既に作戦は決まり我々は礎として進む道を任された。 本当になにもなければ、我々は無事にオオミカへ降下し足がかりの街となる。ダメでもオオミカへ堕ち、その後の道となる。ただ、ここは我々が譲歩しよう。今からどうなるか分からない我々だ。このキャプテンと言う役職も安い。副官に視線を送ると、副官も注意した稀人の実績を理解したのだろう。
「む・・・、礼を欠いたか。」
『あっ、いえ。先をどうぞ』
声を上げた稀人はそう返した。素直な稀人で良かった。注意に気分を害し暴れられたなら、我々は彼等を全員アレイスターへ武力行使も辞さず強制的に移動させてから、現状を説明する事になっていた。我々には既に説明するだけの時間がないのだから・・・。
「うむ。ではキャプテン=バン・ホーよりお言葉がある。」
「稀人諸君・・・、過去より戦い続けた寄生生命体。大衆向けには邪神と公表した外より来る者。これの防衛戦が芳しくない。既にこの日華にある機械兵製造プラントも限界近くまで稼働させている・・・。」
そう。既に限界だ。優れた技術があろうとも、優れた知性があろうとも、それは同じ土俵に立てるものだから通用する。我々の過去は邪神に通用する物を避けて今をなくし、未来に願いを残すだけとなった。だからこそ、包み隠さず話す。隠すだけの不誠実は正確に語るべき事実を歪める。
それはひいては歴史として未来に残る真実を覆い隠し、歪めた歴史を美化させる。それだけはいけない。どのような戦も美化することだけは許さない。戦とは犠牲を積み重ねて未来を作る行為なのだから・・・。
「そこで、同じく外より来る者である稀人諸君。君たちに協力を仰ぎたい。どうか我々と共にオオミカを救って欲しい。あそこは我々の土地なのだ。」
我々には・・・、いや。私には頭を下げることでしか誠意を示すことができない。それ以外に支払うものもなければ、渡せるものもない。今ここにあるものは、個人の武装に戦闘機と幾ばくかの物資に空の棺桶しか・・・。
「各稀人にはこれよりオオミカ奪還作戦に・・・。」
無事にオオミカへ降りられる確率は低い。確かに無事に降りるだけの時間は作ってほしい。そうすれば、犠牲は少なくオオミカ奪還作戦も有利に進められる。ひいては、後の物資輸送も効率的に・・・。
『敵襲!!!敵襲!!!!邪神多数!繰り返す!邪神多数!!この軌道はマズイ!完全にオオミカに突入コースを取っている!!』
「くっ・・・!稀人諸君・・・、今は避難してくれ!『キャプテン=アルケー!そちらに稀人を移送する!』さぁ!行きたまえ!各員は必ず稀人諸君を機動戦艦アレイスターへ!」
「サー・イエッ・サー!!!こちら稀人の方々!」
『もし』も『だったら』もない。それは未来に刻まれる過去への言葉。『あの時』も『そうしていれば』もない。それは過去が未来を憂う言葉。積み上がるは意志であり、持っていくのは思いのみ。
『まて!俺は徽章持ちだ!ここで戦う!』
『防衛戦力は!ウォーカーマシンは!』
『今は逃げる事が・・・!』
「・・・、もういい。」
「しかし、キャプテン!」
「残った稀人諸君、ここは危険地帯となる。それでもなお、残ることを選択するのか?我々は君たちを死なずの君として見ている・・・。いや、きれいな言葉はよそう。何度でも蘇る駒だと考えている。」
「キャプテン、それは!」
「黙れ!協力を仰ぐのに嘘を言ってどうする!君たちの年齢がいくつか?どのような時間を過ごしてきたのかは分からない。しかし、ここで立つと言うなら・・・、助けをこう。どうか少しでも仲間を逃がす時間を稼いで欲しい。」
『それで、俺達はなにを?』
心強い・・・。そして、同時に我々とは違う。逃げていいと言われて逃げず、思いもない戦に嬉々とし身を投じる。きっと、我々はどこまで行っても分かりあえず、中にいる者と外から来る者と言う隔たりは消えないのだろう。・・・、だからどうした?既に目的は決まり、作戦も決行される。
「かぐや防衛隊徽章、コレを持つ者は外で戦闘機によるアシスト。ない者は内部侵入した寄生体を排除。我々は・・・、地上に降りた邪神を薙ぎ払う。」
「徽章持ちの方!こちらへ!貴女は複座式に乗ってもらいます。」
『えっ、複座式?そうか・・・、ブライトいるもんなぁ・・・。』
最初に声を上げた稀人が妖精族を連れて、ドックへ向かい残された我々と稀人は次の段階へと進む。我々各キャプテンはそれは種族としての要石だ。故に最後までここに残り見届ける義務もある。
『モンスターはどこだ?』
『とりあえず探す?早く探さないとここもヤバいだろ?』
『先を考えると、かなり・・・。』
「各区画被害状況!これより内部に侵入した寄生体を撃破する。稀人諸君は兵長に付き指示に従って、任務にあたってほしい。・・・、全て撃破してくれ。でなければ、降下後も日華が拠点として使えなくなる。」
『おっしゃ!先にドロップ品ゲットするぞー!!』
『兵長どこ!?モンスターどこ!?』
「コチラへ!付いて来てください!」
走り出す兵士と稀人達・・・、だが既に時間は残り少い。機械兵製造プラント最初に設置した日華は、そのまま最前線にある。なにせ寄生体は外より来る。だからこそ、展開時間を短縮するために最前線で幾度となく襲撃を受け止めつつ、侵入されればそれを区画ごと封印してを繰り返した。だが、その切り売りも既に限界であり、第2プラント建造もアレイスターや他の都市へ任せた。
「キャプテン。宜しかったのですか?」
「構わん。既に始まって長い戦だ。そして、長いからこそ我々はここにいる。願いを言う時間は終わり、後は命令を下し任務を遂行するのみ。」
「各所より入電!」
「全ての声を拾え!そして・・・、私が聞き届ける。」
飛び立った戦闘機からの死亡通知。稀人達の会話、そしてその闘いで死にここへ戻る稀人・・・。兵は戻らず、しかし空の棺は残る。そして、日華は各キャプテンの総意の元オオミカへと移動を開始する。
『寄生体強っ!?マジか!』
『ギャー!!デブリからモンスターが!』
『この扉開かねぇの?』
「そこは封印区画!開きません稀人さん!」
『了解了解、兵長・・・。あんた名は?』
「えっと、ここは日華?また出るぞ!戦闘機は!?」
「既に戦闘機はない。輸送機を使いアレイスターへ避難してくれたまえ。先に来た稀人も避難した。」
『え〜!?再出撃なしかよ・・・。もっと邪神系のモンスター倒したかったのに・・・。しゃぁない、輸送機どこ?』
「アチラだ。副キャプテン、案内を。」
「各所の限界ライン突破!保ちません!!」
「構わん!どうせ堕とす!無事に降りるか無駄に落ちるかの差しかない!各区画!掃討状況報告!」
「A区画、掃討完了!」
「B区画、既に掃討完了し稀人達を輸送機へ案内中!」
「C区画・・・。」
各区画の掃討も完了したか・・・。既に残るは我等キャプテンのみ。この業を背負うのは我々だけでいい・・・。我々だけが背負うべきだ。仲間諸共寄生体を撃ち払い時間を稼ぐ引き金を引くのは!
「この戦域で戦った稀人諸君・・・、誠に感謝する。日華に残った者は少なく、これより最後の作戦を実行する。」
1番若いかぐや・・・。それを超えればこの老骨でも狙いは外すまい。各キャプテンの認証のもと、取り返すべき星へ光を放つ。自らの手で母星を誰が焼きたがるのか・・・。既に限界を迎えた日華から各種アラートが鳴り響き、爆発音が木霊する。
「バン・ホー。調子はどうだい?」
「イスイミスか、さてな。誰も彼もが絶好調だろう?」
「全くだ。それ以外、私達には認められない。」
「ハーダース。認められないじゃなくて、認めないだろ?誰も彼もが絶好調。だからこの先もみんな絶好調!」
「ヴァローナの言う通り。笑って送り出す、そして後を追う。誰が泣き顔を見て喜ぶったんだよ。なぁ、オーサワン。って、それなんだよ?どこに隠してた?」
「見ればわかる。ココアだ、全員分ある。懐かしいだろ?母星の記憶。ほら、全員飲め。」
「あぁ、ありがとう。」
コップを受け取り、反対の手で手を叩き合わせる。『パンっ』と言う音は彼等に届くだろうか?どうかこの音を・・・、頼りにして欲しい・・・。反転した日華最後の仕事。それは稀人や兵士ごと光で寄生生命体を焼き降下する塔を食い止めること。
誰も彼もがやりたくはない。しかし寄生された者達は元に戻らず、その姿を残し続けるのは忍びない。故に、我等がその責を負う。それしか我々にはできない。それをしてでもまだ、キャプテンとしての仕事が我々には残っている。
『日華・・・、予定軌道・・・、算出結果・・・、墜落。機械兵製造プラント部分に最大限の防御術式を・・・。』
既に限界か。ここにも爆発の余波が来ている。ただ、それでもただ、我々は堕ちるわけではなく帰るのだ。空の棺に散った者達の願いを込め、それを携えて母なるオオミカへ。
「先に侵された地にて待つ・・・。日華の質量で、どれだけ安全な部分を作れるかは分からない。だが、降下作戦は・・・。」
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「ん?なんか新しい本が増えてる。」
「お前好きだな。哲学の子でテキスト読めるからって、そんなにハマるか?」
「ハマると言うか、面白い。割とトラブルオンラインは世界設定が凝ってるんだよ。・・・、あら?」
「どうした?変な声出して。」
「先所の所に、これは読んだらそのまま中身が破棄されると出てる。手記系のテキストかぁ・・・、よし。読まずに捨てよう。司書さーん!これ引き取って。」
「む・・・、引き取ろう。では、図書館ではお静かに。」
「・・・、おろろ?」
「なんだよ、また変な声出して。それとも吐いてるのか?」
「いや、なんか貢献度上がった。」




