195話 竹とたけのこ
華澄は帰りブライトは寝込み、姫子さんは目を瞑ってあやとりを・・・。ゲームからはログアウトしたし、もうすぐ夕食にもなる。今更ログインしても出戻り感はあるし、イベントの推移でも見ながらマッタリとヨガでもするか。
「雌豹のポーズ!戦闘をやめた戦士のポーズ!」
「巫女さん、巫女さん。なにしてるの?」
「ん?ヨガだよ。ハイソな女の人とかが好きとか?」
「ハイソ!なら私もやらねば!」
「ハイソって、セレブって意味だけど・・・。まぁ、セレブなのかなぁ。なんにしてもやるだけならタダだし。」
そういいつつ姫子さんがポーズと言うか踊りというか、何やらウネウネ動いている。まぁ、体を動かすこと自体は間違いではないからいいんだろうけどさ。そう言えば・・・。
「姫子さんって、普段なに食べてるの?」
「普通のご飯だよ?野菜だったりお米だったり。でも、野菜よりはお肉がかなり多いかな?」
「なるほど。私と同じか。」
体をゆっくり捻りながら両肘を地面へ。前だったら立ったまま地面に手を着くと膝裏が痛かったけど、今はなんの痛みもない。かなり柔らかくなったなぁ。尻尾筋を鍛えるために今度は尻尾で体をもみもみ。
「でも、巫女さんはお肉食べていいの?お坊さんは食べなかった時が長かったけど。」
「さぁ?今更肉食禁止令とか出されても、既にたくさん食べまくった後ですしねぇ。」
猪肉も鹿肉も牛肉も鶏も食べた・・・、食べた?多分食べた、と思う。なにせエア・プロテインが原料と言われたら肉なのかも怪しくなる。そうなると、仙人修行のように霞食ってるとか?
霞が固まって赤身肉。そう考えると仙人って全員肉食?まぁ、その肉にする技術がそこそこ新しい技術なんだろうけどさ。でも、仙人も空気がうまいと感じてたんだろうか?実際ここ最近は空気がうまいし。
「結構ポカポカするね、これ。はっ!コレが巫女修行の秘儀?」
「そんなことはない。そう言えば姫子さんって、雪だるまの雪女と普通に話せるの?と、言うか他の電気精神体と話せたりして・・・?」
「う〜ん・・・。雪女たちとは話せるけど、あんまり話すと嫉妬が怖い。でも、私とこーちゃんの未来を見ないと嫁入りしていいかの判断もつかない感じ?あと、他の妖怪はだめ。なにされるか分かんないし。」
「なにされるか分からない?」
「そうそう。だってなにが来るか分かんないし、来たとしても器よこせってヤツもいるし。と、言うか巫女さんよく座敷童子とつるめるね。」
「座敷童子大先生?つるむと言うか、桃あげたら懐かれたとか?子供はあんまり得意じゃないけど、大先生はある程度話が通じるし・・・。」
姫子さんと言うか、雪女も座敷童子大先生嫌い派かぁ。いまいち嫌いな理由が分からないんだよなぁ。確かにいたら幸運いなくなったら不運って言うのは分かるし、それが極端なら怖い。でも、幸運やら不運を言い訳にしてたらなにも出来ないよな?
それこそくじ引きして1等が欲しいけど、座敷童子がいないから引かない。それは分かるけど、欲しいなら後から中古で買ってもいいし、力技を使うなら自分で全部くじを引いてしまえば勝てる!途中撤退は敗北!撤退は許されない!繰り返す、撤退は許されない!
失うもの?多分食費とか?そもそもニブイチを外す時もあるし、逆にいきなり一等を引くこともあるんだから、不幸やら不運なんてものは結果に対しての泣き言だし、それを理由に動かない方が先にあるかもしれない幸運を逃すかもしれないのよね。
「巫女さんって、結構図太い?最悪死ぬかもしれないし、忘れ去られるかもしれないんだよ?」
「えっ?そんな偉人みたいに過去を掘り起こされたくはないんだけど?死ぬのはまぁ・・・。仕方ないとして『これがこの人の日記です』とか『おれの尻をなめろ』とか言うかふざけた曲が残ったら恥ずかしくて2度目の死を迎えそう。いや、2度目の生?」
「巫女さん・・・、お尻舐めて欲しいの?動物だから求愛してほしいとか?」
「違う!モーツァルトが残した曲名。」
「そんなアホな曲が!?あぁ、あった。」
こめかみに指を当てて『むむむ!』って感じで話してるけど、スマートレンズ着けてないよな?そうなると、本人が勝手に受信してる状態?座敷童子大先生理論をいうなら、生き方さえ自前で用意できれば電子世界には行けるらしいけど・・・、姫子さん的には里帰りとか?元々受肉する前は雪女だし。
「その電波受信って、電気精神体なら誰でもできる的な?」
「できるって言うか、元々そこにいたし。」
「・・・、それって私もできたり?」
「巫女さんが?う〜ん・・・。巫女さんって、どこか別のところに行く感覚ってある?」
「別のところ?例えば車とか飛行機で移動する的な?」
「それは普通に移動してるだけ。もっとこう・・・、別世界に行く的な?私は雪山に入る感じだし、雪女だけに。」
「別世界・・・。ゲームが別世界と言えば別世界だし、かぐやが別世界と言えば別世界。と、言うか星渡がそれ?」
星詠の国てんもんどう。そこから星渡するとかぐやへ。世界観としても剣と魔法のファンタジーから、SF全開ブーストが入って宇宙っぽいところになる。なにせ墜落した輸送機やら、ロボやらが出てくるし。そもそもゲームとして龍相手にビームライフルとかビームサーベルで斬りかかれるしなぁ。
ハロウィンイベントで、カボチャ兵と市街地戦やれと言うような運営だしさ・・・。そうなると・・・、割とどうにかなる?大麻がアンテナで尻尾もアンテナとか?割と電波キャッチャーできそうだな既に体はアバターと同じだし。
「でも、来ても面白くないよ?と、言うかどんなところかを知らないと、変なところに行くかも。」
「面白くない?でも、色々な妖怪がいるんじゃないの?変なところに行くなら、かなり考えるけど。」
「いるけど、基本的に自分の縄張り最高!他は知らん!寄ってくるな!とか、そんな感じ。あっ!でもたまに『俺達を忘れるな!』はやるよ。」
「それって、百鬼夜行なんじゃ・・・。」
「そう、それ。出雲に集まるのが神様なら、百鬼夜行は妖怪の駄弁り場的な?」
「あ〜・・・。確かに電気精神体の集まりやすいところって、確かに現実世界だわ。」
大先生も言ってたもんなぁ。なんで全員がそれを知ってるのかって。古ければ古いほど話は残るし、創作にも使われるし、どんな姿だったと認識はされやすい。なら鉄棒ぬらぬらが書いた蛸と海女も実は事実?
・・・、ニアミスで俺はイソギンチャクに絡まれたと言うか、むしゃむしゃ食われたりもしたけどさ。と、言うか触手と美少女の組み合わせって今だとメジャーだよなぁ〜。当事者にはされたくないけど。
そんな話をしていると姫子さんはシャワーを浴びると自室に帰り、代わりに三枝先生が夕食を持ってきたので、お行儀よく食べる。物凄く微妙な話をするなら、ゲームやら配信してないと逆に大丈夫かと聞かれたこととか?
「ゲームはいいんですか?私が言うのもどうかとは思いますが、やって頂いてルールを知るのもリハビリに繋がりますが。」
「いや、それがですね。座敷童子大先生が来たから、イベント途中ですけど、一旦ログアウトしてヨガしながら姫子さんと駄弁ってたんですよ。」
「座敷童子?それは・・・。」
「報告云々については、華澄が知ってるんで大丈夫だと思います。」
「流石に医者の出る幕ではないですね。それで、何の話をされてたんですか?」
「なにと言われると取り留めもない話ですけど・・・。そうだ!三枝先生、例えば電気精神体の世界があるとして、そこに私って行けたりします?」
「先に言いますが、行けるから行ったでは済まされませんよ?」
「真逆です。仮に妖怪に攫われたら、どうやって帰ってこようかと・・・。」
ゲームに電気精神体は入ってこない。それを大先生は暇の1言でぶっ壊した。電気精神体のぬらりひょんは勝手に現れてこの病院に来た。つまり、肉体のある医院長や理事、或いは鞍馬さんよりも身軽なんだよね。そんな電気精神体が、理由はなんであれ俺を攫いに来たら?
対処するなら現実世界に引き込むのが手っ取り早い。でも、そうなると現実世界で悪さをするかもしれない。なにより、荒事なんてゲームでしかしたことない俺が、妖怪からガチに命を狙われたら・・・。いや、命は残るのか。生きてないとなにもできないし。
「ふむ・・・、いくつかの可能性を提示しましょう。これはどちらかと言えば私より白波先生の研究分野ですが、まず一つに、マリちゃんが電気精神体の世界へ行く。この場合、最大の防衛機構はマリちゃん自身です。」
「私自身?」
「ええ。マリちゃん、雁木 真利と言う人物は実在します。」
「それはそうですよ。こうしてご飯を食べたりゲームしてますし。」
「そういう話ではなく、AIアマテラスに人間として認識されています。つまり、電気世界でもマリちゃんはマリちゃんです。曖昧な何かでもなく、複数が合わさって総体となるでもなく、マリちゃんと言う個が形成されます。」
「ゲームのアバターは個人って感じですね。確かに狐娘の姿でもアマテラスは私を雁木 真利としたし、普通に支払いとかもできますし。」
「ええ。だから仮に攫われたとしても、マリちゃんはマリちゃんとして存在します。二つ目、攫われ方が精神だけだった場合。」
「それはかなり気になりますね・・・。知らないところでのやらかしも多いので・・・。」
「ええ。空腹によるビースト状態ですね。ただ、コレには利点もある。」
「利点ですか?なんですそれ?」
「本来人は精神が死ねば・・・、端的に言えば脳死状態でなく、植物状態なら脳は生きています。そして、活動もしています。それに当てはめると、マリちゃんの精神が休眠と言うか電気精神体の世界に行っても、帰還までは自分で食事をして生き続ける。つまり、精神の帰る場所は長期的に残る。」
「それって、つまり自力で帰ってこいってことですよね?帰り道も分からないのに。」
「いえ、マリちゃんは知っているはずです。医療ポッドで治療を受ける際、なにかを考えてこちらに帰ってきたんですから、それを辿ればいい。」
治療された時になにを考えたか?大麻当たって覚醒して嬉しかったとか?えっ?それってトラブルオンラインの世界に帰ってくるの?・・・、いや、違う。
違うというか、そんな悪い夢を捕まえるナイトメアキャッチャーなんて言うアイテムがある。ご丁寧に復活アイテムとして。なら、精神持っていかれたらゲーム内に帰ってきて死ねばOK的な?
「そして、最後の3つ目。肉体も精神も攫われた場合。」
「それって、既に死んでますよね?」
「死をどう定義するかによります。肉体がない=死なのか、精神が死んだ=死なのか。電気精神体と言うものが存在する以上、肉体の死=確実な死とは医者として不本意ですが言いづらくなりました。」
「それはまぁ、確かに?植物状態でも脳波による呼びかけを継続すれば起きる人もいますし。・・・、でも肉体がないんだったら幽霊?」
「いえ。一時的な電気精神体状態だと思って下さい。適切かは分かりませんが、マリちゃんはマリちゃんの有する領地にいる。それです。トラブルオンラインの領地は他から・・・。」
「GM権限で侵入されましたよ?」
「なら、AR神社ですね。むしろ、そちらのほうが都合がいい。」
「都合がいい?」
「ええ。客観的にマリちゃんを知る人が多いほど、マリちゃんはマリちゃんと定義できる。そして、肉体の方ですが・・・。」
「言葉を濁さなくていいですよ。ほとんどか全部なのかは知りませんけど、バイオナノマシンなのは知ってますし。」
「そうですか。なら、後はそれの再生を待てばいい。」
「・・・、医療ポッドで培養される的な?」
ズラッと並ぶ医療ポッド。全部の蓋が開いたら無数の俺が!って、精神は1つだから一杯あってもタダの人形的な?そうなると『この顔よりもこっちの方が美人!』とか言って選ぶんだろうか?
「いえ、桃の種です。」
「桃の種?あれって、妖怪受肉させる装置と言うか核的なものですよね?」
「ええ。そうなります。そうなりますが、姫子さんと言う事例を受け私も様々なアナログ検査を行いました。」
「アナログ検査?医療ポッドを使わない?」
「ええ。それにより、高確率で種が芽吹いているのではないかという結論に達しました。」
「・・・、どういうことですかね?」
「要はマリちゃんの心臓部分にあった、デバイスと同じと言うことです。」
「私はいつの間にか植物になっていた?蒔けば増える的な。」
「どちらかと言えば竹です。桃の種を介したネットワーク。言うなれば人体ネットワークを外部転写した形だと思って下さい。」
「つまり・・・、死んだらニョッキリ生えてくると?」
「それが座敷童子が前に言った、閻魔帳ごまかしのカラクリでしょう。いいですか?マリちゃん。この国の基本方針は『人は健康であるべき』です。健康を最大限に害するもの、それはつまり死です。」
「死が害になる?」
「釈然としないようですね。確かに、死は救いという話も言葉もあります。少なくとも医者はその言葉を使えませんが。ですが、今の医療技術とナノマシンによる治癒。それを考えたときに、おおよその病は治ってしまう。その代わり刻限だけが残る。」
「それが死・・・。」
「ええ、そうです。なにも富める人だけが不死を願うわけではないですから。医者の志は人を生かすことです。そして・・・。」
「人は健康であるべき・・・、死なない人って健康なんですかね?」
「逆説的に言えば、死なないなら不健康は存在しないのですよ。『いつかはこの病気が治る』そう信じて過去には冷凍睡眠に入られた方もいますし。それこそ、肉体を捨てて脳だけの方も海外には・・・。」
「アルコー財団とかですね。流石にそのあたりは仕事で知ってます。」
「そうですか。結論として、マリちゃんの帰る場所はかなり多い。だからこそ、自身のルールはちゃんと把握することをおすすめします。」




