180話 追出しはしないよ?
胸を木本さんの腕に押し当てる姫子さんに、それを見て悔しそうにする雪だるま。と、言うか木本さんってそんなに優良物件だったんだ・・・。
・・・、優良物件だわ。電気精神体を知ってるし、祓う側だとしても接触はできる。なによりなにかあれば守る側にも立てるんだろうし、鞍馬さんやら座敷童子大先生とも知り合いで、顔も広い。
イメージとしては、その界隈で1番の美男子的な?昔の感覚からすればヒョロガリよりも、恰幅いいほうがお金持ちなんだろうし、見た目から言えば食べ物に困らないだけの経済力もある。
雪女達の感覚は今風と昔風が混在してる感じだけど、仮に受肉して嫁になる!と、言うルートをたどるなら、今も昔もお金と生活は切っても切り離せないのよねぇ・・・。
「よっ!色男!伊達木本!」
「歌舞伎の演目じゃねぇんだよ!と、言うか姫子も雪だるまも黙れ!」
「は〜い。」
「恥ずかしや、恥ずかしや。」
「よし。で?駄狐マリちゃんはなんで異界作ってやがる?」
「いや、その異界ってなんなんですか?ここは病室ですよ?ほら。」
AR神社を消すと、そのまま。雪だるまも神社も消えて普通の病室へ。ほら、異界じゃない。まぁ、雪だるまの件は木本さんに連絡しようと思ってたから、ちょうどいいと言えばちょうどいいんだけど、そもそもここで雪女拒否った方が危ない気もするんだよなぁ・・・。
「あのだな・・・。異界、或いは異世界。迷い家、神隠しもその部類でいいか。とにかくだな、そこへ至る導線があるかどうか?それが重要な起点になる。」
「導線?雪女は勝手に来ましたけど?」
「そこだよ、そこ。そもそも神社っつうのは特殊な場所だ。神と人が話し、人と人が出会い、目に見えないなにかがそこにいると思う場所だ。だから日本中に神社はあるし、そこに祀られてる神やらも様々だろ?」
「そりゃぁ八百万って言うくらいですし?だからって、押しかけ妖怪が神社で奉公してたら誰でもビビりません?」
俺ならビビる。ビビるけど鞍馬さんが天狗であの神社に務めてるなら、結構あることなの?見た目は人だけど、空飛ぶし鹿2頭を肩に担いで雪山を歩いて現れるし・・・。
「異類婚姻譚つうのがあんだよ。雪女みたいにな。そもそも神は野に降り人と交わり国を作る。古事記にしろ天孫降臨にしろ、そんな話は多い。なにより、この国の象徴は?」
「天皇陛下ですね。」
「それの血統はアマテラスだぞ?古くから潰えず、延々と続く家系で日本人なら知らん奴はいねぇ。」
「・・・。無もなき廃神社から、ゼクシィ神社とかに改名した方がいいんですかね?」
「・・・、わからん。」
「ちょっ!!そこ投げ出さないで!ほら、知識人頑張ってよ!本当にゼクシィ神社になりますよ!?」
「名前なんてどうでもいいんだよ。ゼクシィ神社でも縁結び神社でも、なんなら嫁行き神社でもな・・・。そんなことよりも、だ。姫子、仮にあの雪だるま放置したらどうなる?」
「雪だるま?他の雪女?そんなの簡単だよ。出る先がないから、手当たり次第に婿探しするに決まってるじゃん!我先にといい婿見つけてさっさと囲って、雪ん子作って・・・。きゃっ!こーちゃん何人欲しい?私はありきたりだけど、サッカーできるくらい欲しいな♪」
「だ、そうだ。」
「22人の子供欲しがられてますよ?」
「・・・、2人だよな?」
「えっ?サッカーって11人のチーム戦だよ?巫女さんが正しいよ。」
「・・・、帰る。」
「待って!木本さん帰らないで!根本的な解決方法がなにも提示されてない!」
「・・・。配信するならしていいから、普通に過ごしとけ。」
「えっ・・・?」
「先ずはお前が桃とか出さなきゃなにも起きねえ。そして、参拝料を払わなきゃ、お前は話を聞く必要もねぇ。いいか?祈願ってのは願いだ、その願いを叶える叶えないの線引はしっかりしとけ。そして、参拝料払っても叶えないなら叶えなくてもいい。絶対に軽々しく願いを叶えるな。そんなもんは巫女でも神でもなくてただの厄災だ。行くぞ、姫子。」
「は〜い。」
そう言って木本さんは出ていったけど、中々難しい事を言ってくれる。別に無闇矢鱈と願いを叶える気なんてない。だって誰かの願いを叶えると言うなら、誰かの叶わない願いを知ることになる。雪だるまがなにか言ってきたら徳を積め辺りかなぁ・・・。
「・・・、とりあえずAIマスコットアプリインストールしとくか・・・。流石に配信中に雪だるまが喋りだして、ごまかすならいるし・・・。」
はい。無料版なら指定した鳴き声。ライト版なら簡単な会話、ディープユーザー版なら姿指定のAI対話。サブスクにしても月1万。年間払込で8000円。仕方ない出費と割り切って契約だけしとくか・・・。
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「失礼。コチラに岩戸 千穂と言う方がいるはずですが。」
「アポイントメント、もしくは個人DIを照合させてください。・・・、はい。柊 華澄様ですね、どうぞ。パスを発行しましたので、AR表示に従い進んでください。」
ヒソヒソとあの人カッコいいと言う声が聞こえるが、そんなことはどうでもいい。私の体と趣味とは真逆で、小さく可愛らしく守ってあげたくなるような可愛いものが好きだ。
クマの縫いぐるみよりもハムスターの人形。ガテン系の男より細身。前の真利は細身ではあったが、私と同じくらいの身長があった。だが、今の真利は私の好みと合致する。クリスマスプレゼント・・・、やはり着ぐるみパジャマで正解だった。
手元に置いて尻尾の部分や耳を出す穴を作っているが、完成した暁には着せて写真を取って、どこでも眺められるようにしておこう。あのクソ雪女のせいで凍傷にさえならなければ、クリスマスに渡せたものを!共に迎えるクリスマスではなく配信を眺めるに終わったクリスマスが悔やまれる・・・。
「失礼、コチラに岩戸 千穂さんが居られると聞いたのですが。」
「えっと・・・、柊さんか。パスもあるしちょっと待っていてほしい。」
表示に従いビルの中を進み、目的のフロアに着いたが彼女の姿は見えず、近くにいた男性に所在を聞く。あの女は私と同じくデカい女なのだが、自分の存在を消そうと縮こまり、しかし、物理的に消えるわけでもなく逆に存在感を増すと言う悪循環にある。
どうせデカいのだ、堂々としていればいい。そうすればデカすぎて気づかなかったなんて話もでる。現に、私は黙っていれば背景程度にはなれるらしい。
「うひゅ!」
「あそこか。」
静かだったフロアに声が響く。本人は小さな悲鳴と思っているのだろうが、その声は思いのほか響き存在を知らせ、それからあうあう言わないということは、メッセージでのやりとりにこのフロアの人間が慣れていると言うことだろう。
「ぴっ!ぴらぁぎ・・・。」
「柊です。岩戸さん、メッセージでどうぞ。」
デスクに座っている岩戸に話しかけるが、相変わらずか。周囲も慣れたのかそれを気にする人もいない。ここで情報共有してしまおうかとも考えたが、どうなのだろう?
異常を検知したというなら、ゲーム内でなにかあったのだと思う。例えばコピーされた龍種がそのコピーを乗っ取り、他のインフラを攻撃するとか、実体化するときの器代わりに持ち去るとか、憂さ晴らしにチートモンスターとしてプレーヤーを殺しまくっているとか。
>> お久しぶりです柊さん。
木本さんが来ると思っていましたが
柊さんが来たのですね。
「ええ。情報共有だけなら私でも大丈夫です。それに、木本さんはこれから絞られるか、人柱として監視対象化されるかの瀬戸際となります。」
>> 人柱?なにかあったんですか?
私は現場には出ないのでなにも知らないんですけど。
「現場側の問題です。少々厄介な事態となっていますが・・・、もしかすれば・・・。」
スッと顔を近付け座っている岩戸の耳に口を寄せる。相変わらず苔むした岩の様な、ボサボサの長髪に前髪で隠された顔。いつから出しているか忘れたが、形の良い鼻だけが暗い海に浮かぶ灯台のように見えている。
(特殊な形で禁忌が破られました。場合によってはアマテラスを弄ってもらいます。)
>> !? それは本当ですか?
「ええ。ただ、その判断は木本さんでも私でもなく上がします。」
>> ・・・、嫌なものですね・・・。
登録抹消して最初から存在せず、生まれもしなかった
者として処理するのは・・・。
AIアマテラスはそのために作ったのではなく
人をサポートしてより良く過ごしてもらう。
人は健康であるべき、コレを根幹とした
システムなのに・・・
「いえ。抹消はないと木本さんが言っていました。」
>> 禁忌を破ったのにですか?
「ええ、破ったのにです。特殊な状況が重なっているので、下手に処置すれば均衡が崩れます。それよりも、岩戸さんが見つけたものはなんですか?」
>> ・・・、物凄く怖い可能性があるんですが
妲己や玉藻が復活してるかもしれません。
「・・・、は?」
私の声に辺りが振り向く。多分、それ程までにアホな声を上げたのでしょう。事実として、自分でも自分の声がアホっぽいと感じたのだから間違いない。ただ、そんな大物がいれば嫌でも歪みがでる。
私は電気精神体が固定できず、木本さんが固定してそれを追い払うばかりだが、それでも妲己や玉藻がでれば社会的な不和がどこかに生じてくる。なんだ?宮内庁からはなにも指示されていないが、上で処理しているのか?
>> コレを見てください。
「コレは?」
『イェーイ!ツキちゃん見てる〜?参拝料払えよー、参拝者諸君!!』
『露骨な賽銭要求w』
『ほら、5円。』
『俺も良縁希望、5円。』
『家内安全とか?5円。大麻振って〜。』
『私の夫だ!1000円!1000円!ほ〜ら、お小遣いよ!』
収益プログラムにより、指定された上限を超える浄財は出来ません。このチャンネルは1度の配信につき、上限を1000円に固定されています。
・・・、後頭部をぶん殴られた気持ちとはまさにコレのことだろう。私が真利へのお小遣いとして投げた1000円が返されたときの悲しいアーカイブが・・・。
>> この方・・・、なんか変なんです。
「なにが変なんですか?」
>> 変なおじさんじゃなかったはずなんです!
「おじさん?どういうことですか?」




