177話 難しい話 挿絵あり
岩戸さんのことは一旦横においとこ。変に話しても仕方ないし、そもそもまだ会社員だから守秘義務もある。辞めたからと言って解除されるわけでもないけど、言いふらすことでもない。
「そう言えば医療ポッドがなんでまた2機も?」
「片方は調整中なので、気にしないでください。」
使われてないのは、この前俺が入ったポッドで今使われてるのは新しいポッド。多少部屋が狭くなってるけど、調整中なら技師呼ぶか引き取ってもらって本格的なメンテだろうな。
ただ、今はもう年末に差し掛かってるし来年やるとか?ポッド自体は他にもあるし、本当に急を要する時があるとするなら、それはもう天災とか大規模災害で病院がフル稼働してるとき。それ考えると白波先生のやりたいことも、分からんでもないのだが・・・。
「調整するのはいいですけど、今ってなんの検査中なんですか?」
「その前に前置きをしておきましょう。」
「前置きですか?なんです三枝先生。」
「謎掛けにもなりますが、人1人を作るとしてなにが最大の問題点になると思いますか?」
「そりゃぁ・・・、魂とか?21gらしいですけど。」
「ダンカン・マクドゥーガルの実験ですね。ただ、それは被検者も少なく正確とは言えませんが、否定もできません。そもそも、人の意識や脳がどうやって機能しているのか?意識は量子状態と言う仮説が今は主流で、人体ネットワークもそこにリンクしています。」
「はぁ・・・。なにがリンクしてるかさっぱりなんですけど、なにか繋がるところってありました?」
ちんぷんかんぷんです、助けてください。木本さんに目を向けると首を竦められ、敷田さんを見ると逆に頷く。大麻出して握ったらなにかわかる?いや、そんな回り道より知ってる人に素直に聞けばいいんだけどさ。
「人がなぜ崩壊せずに人として存在できるのか?不思議に思いませんか?ガラスなら亀裂が入れば砕ける。でも人や動物は小さな怪我をしても崩壊せず、逆に元の姿に再生しようとする。その原型復元作用を細胞回復としてみるのではなく、脳、或いは脳波がその部分を検知して、情報補填として見るという点です。」
「ものすごく難しい話と言うのは分かりました。」
とりあえず、そう話して頷いておく。なんでそんなことするかって?医者に営業やってると山ほど難しい理論とか、新しい研究の話を聞かされる。その話を打ち切るなら、話すだけ話させるか、理解できない態度を示す。
まぁ、理解できない態度を示すのはあまり使わない。なにせ、それは自身の理解不足を示し、任せていいかという不安を煽るから。
「そうやって逃げようとしないで下さい、大切な話です。ただ、専門的なので噛み砕きますが・・・。意思が情報で、肉体が情報を固定する器。そう思って下さい。」
「なるほど・・・?・・・、あっ!だから電気精神体?」
パズルのように、今までのできごとがハマっていく。火達磨になって、復活する前辺りはゲームのこと考えてたし、桃が出せたのも自然なことだと思えたし、妖精王改めブライトが受肉しても違和感はなかったし、今の姫子さんも・・・。
要は器がなかったけど、意思があった者が必要な器を得るだけという感覚だったのか。なるほど、そしてその材料が細胞ではなくナノマシンと・・・。
「そうです。ですが・・・、不思議なのは姫子さんの中身です。」
「中身?」
「ええ。マリちゃん、マリちゃんが最初に医療ポッドに長々と入っていたのは覚えてますね?」
「確か2時間くらい入ってましたね。」
「おまえ、それに違和感なかったのかよ・・・。」
「この姿ですよ?今更2時間溶液漬けにされても違和感なんてないですよ。なんかずっと映像見てた気もしますけど・・・。」
「そこです。その映像と言うかなぜ2時間かかったのか?マリちゃんは知っていると思いますが、医療データや治療データ、他にも遠野物語等々、なにが繋がるか分からないデータをダウンロードしていました。て、その結果だと思いますが、姫子さんの中身はちゃんと人としての器官がある。」
「・・・、それって鹿を丸々2頭食べたからじゃありませんよね?」
力説している三枝先生に水を差したかも・・・。生き生きしていた目が、今は眼鏡が反射して見えない。と、言うか胸の前でグッと握り込んだ拳が、そのまま開かれずに止まっている・・・。
「・・・、鹿?マリちゃんが?丸々2頭?」
「いや。姫子さんが丸々2頭。敷田さんは・・・、あの時華澄を見てたから知らなかったんですかね?」
「なにがゴソゴソしてるとは思いましたけど、まさか本気で鹿食べてるとは・・・。逆にマリちゃん的にはその光景に疑問を抱かなかったんですか?いくらなんでも異様ですよ?」
「異様・・・。いや、腹減って意識が飛ぶと危ないから、むしろ食えって感じでしたけど?だって、中身スカスカなんですよ?桃分のナノマシンはあっても、それ以外が足りないって、風船じゃないですか。だから、木本さんにも5〜60kgのお肉をお願いしましたし。」
「・・・、待ってください。」
「なんですか?」
「その話だと姫子さんは、デバイスなしに受肉して動いていると言う話になります。」
「えっと、その理由を調べてるんじゃ・・・。」
「違います。そもそも私だって電気精神体は未知の存在です。だから、本人が何らかの力を使って今の姿を固定していたと考えていました。だから、こうして医療ポッドを使うのを先延ばしにし、観察と問診をしていましたが、前提が変われば結果も変わる・・・。」
確かにその話はわかったけど、帰って2日だしなぁ・・・。普通にうろうろして元気にしてたし、俺の方にもあんまり話は来なかった。と、言うか木本さんの方がそのあたりは話してると思ってたし・・・。
「あ〜・・・。俺から言わせてもらえば検査することも、医療ポッドを使うことも反対だった。」
「なんでまた。姫子さんが病気とかになったら治療でしませんよ?」
「それはそうなんだがな敷田さん。その前の前提、姫子には個人データがねぇ。それはつまり国民として認められてねぇし、ここにいても国としては幽霊として扱う以外の方法がねぇ。それを医院長とウチの上司に頼んで、今回は例外枠として検査してもらってる。」
例外枠がなにを意味するかは知らないけど、確かにデータがないと国営AIアマテラスは詮索すると言うか、どういった事態が起こってるか究明しだすしなぁ。まぁ、だから密入国とかすればすぐに見つかるし、他の国のAIと連携して国際指名手配犯とかも見つける。
それだけ個人データがないというのは重い。俺?健康診断データは間違って捨てたけど、俺と証明する他のデータはあるしね。まぁ、そのデータが体を示すものではなくて、脳波データとかなんだけどさ・・・。
「そこにいるけどAI的にはいないものですもんね。」
「それだけじゃねぇけどな。なんにしても、姫子はどうなんだ?」
「レントゲンやCT、その部分の話をするなら骨格も器官も・・・。端的に言えば人間と変わりません。その代わり、心臓にシコリの様な物はありますが・・・。」
「シコリ?悪性腫瘍とかか?」
「断定ができないのでなんとも言えません。過去データもないので、生体組織を採取して詳しく分析しないことには・・・。」
「・・・、それって種なんじゃありません?」
「種と言うと桃の?」
「多分ですけど、それが濃厚だと思います。」
「マリちゃんなんでか分かります?それ。」
「私も感覚としか言えませんけど、心臓にあるって時点で同じなんですよね。ほら、バイオナノマシンデバイスって心臓に癒着して、その鼓動を利用して動き続けるって話じゃないですか。なら、それの代用になってるんじゃないかと。なにせ、妖精王は食べても弱ったし、ぬらりひょんも食べても弱った。違いがあるとすれば種を飲み込んでちゃんと食事したことくらいしか・・・。」
「それはもう・・・。別方式で増える・・・、増える?増えられる?」
三枝先生が頭を抱えだし、敷田さんも話を聞いてなにかをスマートレンズでメモをしているようだな。ついでに、木本さんは腹を・・・、顔色悪く胃を押さえている。・・・、うん。後悔はしない。なにせ、姫子さんには現実世界にログインしてもらったんだし。




