176話 グラビア?
「おはようございますマリちゃん。」
「おはようございます敷田さん。いや〜、昨晩は配信用のいい材料が手に入りましたよ。」
敷田さんが運んできてくれた朝食をモキュモキュ食べつつ話を振る。今日のメニューは目玉焼きに鮭の塩焼きに白米に味噌汁。白和えが甘目で、うまく食べれば塩味も引き立って美味しい。
「それって、トラブルオンラインで空割れたやつですか?」
「・・・、もしかして?」
「早い人はもう配信に乗せて『この時、カップルの甘い雰囲気が消し飛んだ!』とか、テロップ入れたりコメントしながら流してますよ?」
「くっ!市場の動きが速い!と、いうかその人たちって寝てないんですかね?」
「運営の正式トレーラーより先いかないと、目新しさも減りますからね。」
「う〜ん・・・。駄弁り配信しながら私が撮影した動画解説とかどうでしょう?」
「目新しさはありませんけど、駄弁り配信自体は結構して欲しいみたいですね。そんなコメントも来てますし。ただ、空割れの動画だけだと・・・。」
確かに敷田さんがいうように二番煎じだけでは弱い。駄弁り配信そのものは楽しいけど、今度はイベントやってるとコメント返しもつらくなる。と、いうか今日1日でそれ以外の材料揃えろって方が無理!
どうせガチ勢はリローデッドからの杭ドロップ率はこれくらいだ!と、考察したり、交換品見ながらこれは最低限確保した方がいい!とか解説してるんだろうしなぁ・・・。と、いうかリローデッドの仕様そのものが明記されてないから、レイドなのか何なのか分からない。
う〜ん・・・。お祭り騒ぎするならレイドなんだろうけど、トラブルオンラインのレイドは割と変わった感じのレイドが多いからなぁ〜。
デカいボスを普通に集団で殴る。それって、大型モンスターでよくない?なら、強い1体をプレーヤーたちで殴る。今度はプレーヤーたちが押し合いへし合いで動きづらい。
一度やられたのは、ボス本体から分体が山ほど出てきての集団戦。言ってしまうと、領地防衛戦を運営VSプレーヤーでやってる感じかな。なによりお助けポイントがあって、レベル低い人を助けたら色々交換できたりしたし・・・。
「あっ!演者紹介!それができますよ?」
「演者紹介?妖精王さん以外いましたっけ?姫子さんは好きそうですけど。」
「いや、その妖精王に正式な名前を付けたんですよ。」
「正式な名前?姫子さん2号とかなりませんよね?」
「桃あげなければ多分?」
「配信前に一度AR表示と神社出してみません?それの方が安全だと思いますよ?っと、三枝主任からだ。」
敷田さんがなにやらメッセージのやりとりをしている横で、朝食を食べ終えてデータ確認。新型スマホストレージも大きくていいよね〜。前のならパンパンになっただろうデータ量でも、まだ空きがある。
ARデスクを表示して、デバッグAIにAR神社のデータを参照させるけど、これと言った破損はない。破損は・・・、ない?敷田さんもデータいじれるけど、小型表示すると入り口に小さな雪だるまがあった。冬らしさを出してるのかな?
まぁ、ボロいAR神社がクリスマス仕様でツリーにされるよりはいいか。そもそも雪山では展開しただけで、本当にぶっ壊れてないかを疑うならデータよりもスマホの方なのよね・・・。電子機器だから暑いよりも寒い方に強いんだろうけどさ。
「一度、本格的に神社を展開してみようかな。」
「その前にマリちゃんもついてきてもらえますか?」
「ついていくってどこへ?」
「姫子さんが入院しているのはしってますよね?」
「まぁ、ここにも遊びに来るから知らないことはないですね。どんな検査をしてるかとかは知らないですけど。」
山から下りてそのままここに入院って話になってるけど、本人が元気に歩き回ってるから病人と言う感じもない。まぁ、本当に元気そうなんだけどさ。
「その検査に立ち会ってもらいたいと、三枝主任から応援要請がありまして。」
「立ち会うのは良いですけど、特に何か言える立場ではありませんよ?まぁ、ナノマシンと言うか桃は渡しましたけど。」
「それでもですよ。マリちゃんに使ったバイオナノマシン、どうもコレが変質してるようなんですよね。」
「変質ですか?例えばどんな?」
「う〜ん・・・。言葉こそ変質としてますけど、私としては進化の方がしっくり来ると言うか・・・。」
「ぼかさなくていいですよ。多分、私の体って全部その変質したバイオナノマシンなんでしょう?」
「・・・、まぁ。今までの流れでそれは気付きますよね・・・。ショックを受けるといけないからと、頃合いを見て話そうかと思ってましたが・・・。大丈夫ですか?」
「そこで頭ごなしに大丈夫と返すのは、かえって不安を煽りそうですけど、コレと言ってストレス的なものとかはないんですよね。毎日寝て起きて食べてゲームして、誰かと話す。それって普通だと思いません?」
自分が特別な人間なのか?例えばスパイダーマンは特別か?それを考えたときに能力こそ凄いんだろうけど、根本的な部分。食べもするし悩みもするし、寝もすればトイレへも行く。なら、その能力って単純に個性なんじゃない?
そしてその個性を使うかどうかは自分で決めることだし、主体性さえ残って考え方が変わらなければ、大きく悩む部分も少ない。なにせ前に知り合った岩戸さんとかそんなタイプだしなぁ・・・。
「普通・・・、マリちゃんの普通は日常なんですね。」
「逆に日常が普通じゃなかったら、それはもう世紀末とかディストピアじゃありません?嫌ですよ、いきなりゾンビに襲われて走って逃げ回るのとか。」
「なるほど。私はその言葉を信じるしかありませんけど、大丈夫なら立ち会ってもらっても?」
「いいですよ。保護者ってわけではないですけど、その選択をしたのもまた私ですからね。」
話もまとまったからさっさと着替えて『マリー・ガンディー』のIDをぶら下げて、何回か着た白衣を羽織ってから敷田さんと部屋を出る。この姿になってからそこまで出歩いたわけじゃないけど、ぬらりひょん騒ぎやら山に行くために病人の中を歩いたりしたから、そこまで注目はされない。
はっ!なにげに俺って今妖怪の広告塔なのでは?配信の理由も存在証明だし、こうして俺が出歩けるなら、ちょっと変わった感じの妖怪とかも入り込める?
・・・、よそう。そんなこと考えてると、ぬらりひょんがスルリと入り込んできそうだし。と、いうかぬらりひょんは何がしたいんだろ?姫子さんの件を考えると、やってるのは仲人っぽいことなんだけど、なんか裏もありそうな・・・。そんなことを考えつつ、三枝先生の部屋にはいると・・・。
「・・・、グラビア撮影なら帰りますよ?」
「私もコレは想定外でしたね。木本さんの趣味ですか?三枝主任。」
「・・・、おい。なんで俺に直接聞かねぇ?」
「木本さんの趣味ではないですよ敷田さんにマリちゃん。」
「医療ポッド使うのに水着か下着になるのは分かりますけど、その水着って自前か病院で用意するでしょう?姫子さんの場合、持ってるわけないから借りるんじゃ・・・。」
まぁ、最悪全裸で入ることもある医療ポッドだけど、姫子さんは水着で入っている。ただ姿がね、ショッキングピンクの溶液の中でもなお、その水着が紅いと言うのは分かるし、やたらと水着の面積が小さい・・・。
いや、普通なのか?ビキニタイプの水着とは言え、普通に服着ててもボンキュッボンのモデルボディは分かるし、それが脱げばこうなる?ご丁寧に頭の後ろで手を組んで胸も張ってるしさ。
「ほら、マリちゃん。趣味じゃなくて贈り物って話かもしれませんよ?クリスマスでしたし。」
「なるほど、クリスマスプレゼントに水着・・・。」
「だから、俺に直接聞けよ!空気じゃねぇんだよ!」
「っ!今ぬらりひょんの声が!」
「俺だよ!変なボケすんな!マリちゃんよぉ。」
「はいはい、分かってますよ木本さん。あら?華澄は?」
「柊なら別件で血涙流しながら飛行機に乗ってっよ。」
「別件?」
「おう。なんでもでちょっと変わった事象があるとかで別の部下から連絡がな。」
「へ〜。まぁ、組織だから部下もいるんでしょうけど、いつも華澄と2人だから、この地域の現場担当は2人だけだと思ってました。ちなみにその方のお名前は?」
「ん?岩戸だ。岩戸 千穂。俺の直接的な部下っつうよりは、宮内庁としてのサポート役って方が正しいがな。って、どうしたマリちゃん。」
「いや・・・。多分、他人でしょう。」
ばっりばりに心当たりのある名前だけど、岩戸と言う姓も千穂という名もいる。まぁ、岩戸と言う姓は珍しいよりだけどさ・・・。そんな俺の思いとは裏腹に医療ポッドの中の姫子さんが、こちらに向かって手を振っている・・・。




