173話 自分を見つめるという事
「そう言えば依願退職だけど、届け出どうしようか・・・。」
本来なら会社に出向いて対面。まぁ、届け出の送達とかでも大丈夫なんだけど、お世話になった会社だからこそ、対面で話してから円満にやりたい。
ただそれがまた、できないのも分かる。う〜ん・・・、次も同じ業界で働くわけでもないし、キャリアを気にしなくていいのはプラスなんだけどなぁ・・・。と、言うか今時対面の方が少ないか。
業務資料的なものは会社にあるし、対応やらもマニュアルがある。病休に有給に欠勤にと、そのあたりを考慮してるから、いざ抜けたとしても会社は回る。なら、なんで正社員なんてものが今だなあるかといえば、個人技能的な部分なんだよなぁ〜。
対人スキル、相手との関係、個人としての繋がりに、実績に信頼。要は数値化できないところに会社は金を払うし、社員としてのアピールポイントはデータ処理量ではなく、どれだけ人と繋がっているかなんかになる。
「色々考えたけど、やっぱり1人で決めるのは無理があるか。っと、どうぞ〜。」
「おう。」
「巫女さんヤッホー。」
「木本さんに姫子さん、もう医院長との話はいいんですか?」
「あらかたな。でだ、お前さんこれからどうする?」
「いや〜、それを今悩んでたんですよ。退職するのは前々から考えてはいたし、前の会社に戻れないのも分かってたからいいといえばいいんですけど・・・。」
「なんだよ。したら金がないって話か?」
「いや、それはもう解決してます。慰謝料を分散投資する予定ですし。ただ、ネックなのが退職届けをだすのと、病院側との再契約なんですよねぇ。下手すると今あるデータで足りるから再契約しないって話もあり得ますし。」
「金の心配がねぇのはいい。」
(下手に貧乏で首が回らなくなって、思い詰めて突飛なことやら腹減って暴走それても困る・・・。ただまぁ、ある意味今は提案時か?)
「なに?巫女さん辞めるの?」
「違いますよ姫子さん。そもそも私ってなんちゃって巫女ですし。」
「なんちゃって?巫女なんて名乗って、巫女っぽいことしてれば巫女だよ?だって人じゃなくて神様が認めて、それを認める人がお参りしてるところにいれば巫女なんだし。」
「なんという緩さ・・・。まぁ、バイトでできるくらいだから、それくらい緩くてもいいのかなぁ・・・。」
座敷童子大先生も確かに似たようなこと言ってたし、掲示板なんかでも俺を語るスレに書き込む人は巫女だからと、通りすがりの参拝者って表記されてるしなぁ・・・。
「ならよ、マリちゃんウチの協力者にならねぇか?」
「えっと、それは警察の?それとも宮内庁の?」
「一応宮内庁・・・、いや・・・、一般人の協力者・・・。多少込み入ってんだがな、御神楽舞えるだろ?」
「御神楽?さぁ?見たこともないからなんとも・・・。」
「バカいえ。鬼一と舞ってたのは変則的だが御神楽だ。通しも矯正されたりして普通に舞ってただろ。と、言っても文化庁が断片化して勝手にゲームに通し込んでんだろうけどよ。」
「まぁ、確かに大魔法の踊りは文化庁監修とは聞いてますね。」
「おぉ〜、やっぱ巫女さんじゃん!今時神楽舞える人は少ないし、伝統だー!女人禁制だー!とかで勝手に首絞めて躍起になって今ここだよ?」
「やけに詳しいですね姫子さん。」
「えっ?だって優雅に舞ってる姿って、男の人好きじゃん。扇子持ってミニスカで踊り狂うのも好きだし、裸で飛び回ったり柱をぐるぐる回るのも。」
姫子さんが言ってるのって大昔にあったジュリアナとか、ストリップとかだよな?木本さんと視線が合うけど、互いに若干目を逸らす。まぁ・・・、好きだよねぇ。男だし。
「その辺りの協力者枠っていう話なら、文化保存の観点から給料もでる。と、言うかお前を簡単に病院が手放すかよ。オールSだぞ?お前のバイオナノマシンは。国営AIとしてもそれがある以上、簡単には離れられねぇよ。」
「あ〜、なら再契約は大丈夫かなぁ。なら対面退職をどうするかか・・・。」
「はぁ?対面?古風だな。確かに礼儀としては残ってるが、今ときはほとんどデータのやりとりだろ?」
「そうなんですよねぇ。それは分かってるんですけど、大学出て今の会社に入って8年。30になるまでお世話になったから、データだけじゃ味気ないなぁと。まぁ、物理的に無理って言うのは分かるんですけどねぇ。」
ストレートで大学出て右も左も分からない社会人。それが8年経ってそこそこ優秀な社員。それは自己研鑽だけじゃなれないだろうし、サポートしてくれた人たちがいたから色々経験できた部分もある。
本当にデータやらプログラムとにらめっこする人なら悩まないんだろうけど、俺の場合営業やらもやってたから、人との繋がりは財産と言う認識も強い。と、言うか今も人に助けられてるからやっぱり財産なんだよなぁ・・・。
「なら、考え込まねぇ方がいい。変に考え込めはそれだけ覚悟が鈍る。鈍れば鈍っただけ明日しようになる。マリちゃんの人生だから悩むなとは言わねぇが、なにが大切かははっきりさせとけ。それがあれば軸もできる。」
「まぁ、それは確かに。」
「なんにしても退職するなら一報くれ。じゃあ、俺はこれで帰る。」
「分かりました、姫子さんは?」
「コイツは一旦入院だ、入院。なんもねぇところから人はニョッキリ生えてこねぇ。生えてこねぇが、それをどうこうできるのは病院だ。」
「あぁ・・・!私はこーちゃんと共にいたい・・・。」
「・・・、着の身着のままのお前の世話はちゃんとしてやる。」
「こーちゃん・・・!」
「あっ、ラブファイヤーは他のところで燃やしてください。ここだとお焚き上げになって、成就すると灰になりますんで。」
「こーちゃん行こう!本気だよ巫女さん!」
「本気って、言葉のあ・・・。」
木本さんが言い終わる前に姫子さんが引きずって行ったけど、結構元気だな。いや、まぁ、同じナノマシン構成体なら健康ではあるし、日常生活に支障はないんだろうけどさ。
さて軸か・・・。それはもう決まってる。どう言う形であれ華澄を支えたい。この姿になって出会った華澄は、当然疑いはしたけどすぐに受け入れてくれた。まぁ、性格的な部分もあるんだろうけど、それでも別れて探して見つけて、また会って歪かもそれないけど関係は再開した。
そして、その華澄がどんな仕事をしているかも間近で見た・・・。仮に俺が今の姿ではなく、こうなる前の俺だったら華澄に『職を変えないか?』と聞いていたかもしれないし、そもそも見ること自体が叶わず、何も知らないまま、ただ『死亡しました』と言う通知を受け取るだけだったかもしれない。
いや、別れているからそれもないか・・・。どこかで誰かが死ぬ。それはありふれたことで、誰もが死にづらいようになったとしても変わらない。
変わらないけどさ・・・。変わらないからといって何もしないのはやっぱり違う。うん。特別な力なんてなくたって、俺は助けてもらった。ならそれと同じように誰かのためになるように生きよう。
なにせ医者には成れなかったけど、医療機器仲介業者で営業マンには成れたしね。




