172話 戦わなくっちゃ現実と 挿絵あり
三枝先生も病室を出ていき、荷物整理をする気も起きずにベットに寝転ぶ。まぁ、うつ伏せなんだけどさ。川端さんが今すぐ整理できないように、俺もまた整理できてない部分はある。それは恨みとか、許す許さないの部分じゃなくてこれからどうするのか?その部分がやっぱりまだ整理できない。
「ちょっとARデスクで現状整理するか・・・。」
仕事について。それはもう依願退職と言う形をとる。問題点があるとするなら、今の病院側との契約だろう。少なくとも俺は出向社員と言う形で病院に来ているのだが、社員じゃなくなれば一から契約をし直す必要性がある。
まぁ、この点は三枝先生を通じて、天野医院長や八百理事と話せば相応の契約ができるとは思う。できなかったからできなかったで、サブプランは投資家かな?少なくとも慰謝料が入ったから今すぐ金欠で首が回らないと言うこともない。
ただ投資家ルートに入ると、病院にいる必要性もなくなるんだよなぁ・・・。確かに不思議ボディでモル狐としての価値はある。ただ、それは俺の価値ではなく研究対象としてだろう。それならこうして病室にいる必要性もないし、逆に必要な時に呼ばれて診察してもらってもいい。
そうなると新しくアパートを契約するか、華澄のところに転がり込むとか?言っちゃなんだが、華澄は本質を話すからなぁ・・・。前に『家に来て家事してくれればいい。』なんて言ってたけど、配信者しながら家にいるなら文字通り家で家事することになる。最悪通販で色々買えば済む話だし。
ただ、今回凍死しかけた華澄を見たから、なにか自分にもできることはないかとも思う。思うけど、華澄たちの仕事・・・、ぶっちゃけて言えば、警察がやってる仕事なんだよなぁ・・・。木本さんも警官で宮内庁の職員なら、華澄も警官で宮内庁の職員。
そうなると一般人である俺にはなんの権限と言うか、協力したいと申し出たとしても、一般人だからと追い返される。本当に一般人かは別だとしても、データ的には一般人なんだよね。
「・・・、そうなると鞍馬さんはどういった立ち位置なんだ?」
妖怪・・・。それこそもう空飛んだり鹿担いできたり、果ては雪まみれになった車の雪を吹き飛ばしたり・・・。あれが俺にできるのか?う〜ん・・・、空は飛べないよなぁ〜。でも待てよ?
魔法は使えた。水蜘蛛訓練やってたから、水の上で足踏みもできた。そして、緊急換装の秘伝書で緊急換装を覚えたら指輪も出せた。つまり、新しくゲームで覚えれば、それがそのままできることになる。
・・・、はい。舞空術チックなスキルやらはありませんよねぇ・・・。今更そんなもの実装したらゲームの方が破綻してしまう。でも、ゲームとしてのアップデートやら新武器、新しい魔法なんかは定期的に増えている。
流石にチーターになる気はないし、悪い文明の運営がなんか変なもんとか使いやすい魔法やらスキルを増やしてくれるのを待つしかないか。と、ここまでは受け身な姿勢。攻めの姿勢を考えるなら、今の自分の体を本当に理解するとか?
腹が減った、暴走した。結果、辺りには血の海が・・・。流石にそんな事態は避けたい。避けたいけど、空腹バロメーターなんて便利なもんはない。
「・・・、確かまだプロテインバーあったよな?と、言うかここも空気がうまい。空気ソムリエ的に言えばあの旅館やらよりもうまい・・・、気がする。なんにしても、考えることは多いなぁ・・・。」
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「天野医院長、木本です。」
「あぁ、入っていいよ。」
医院長室とネームプレートが掲げられた部屋の扉を開く。さて、どうしたもんかなぁ・・・。ウチの上司とは病院側と連携を密にする。それで話の片が付いた。
姫子を連れて入れば、多数のウォーターサーバーに簡素な机でキュウリを食う男と・・・。付き合いという話をするなら知らない仲じゃねぇ。知らない仲じゃねぇが・・・。
(ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛・・・。)
「お久しぶりです。」
「前置きはいいよ。あらかた君の上司から話は聞いてあらましは知ってるしね。で、横の彼女が?」
「木本 姫子です。夫がお世話になってます。」
「あ〜・・・、もう雪女とも宇津田姫とも名乗らないか。うん。君はこれからどうする?どう生きてどう過ごし、なにを考える?」
「それはもうこーちゃんの妻として、良妻賢母を目指しつつ、熱い巫女さんに言われたラブハートをあたりに見せつけつつ、どこまでもHOTな家庭を築くであります!」
「・・・、木本くんの趣味にとやかく言うことはないけど・・・。彼女を、電気精神体を切り分ける意味、それを理解してるんだよね?と、言うかマリちゃんにちゃんと説明してるんだよね?」
(ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛・・・。)
「そこはまだとしか。妖怪と人間とAIの関係、そのあたりは人間目線では説明しました。ですが、こうして切り分けたることの意味は・・・。」
なぜ電気精神体を完全固定せずに追い払うのか?答えは簡単で、総量の問題だ。電気精神体そのものが・・・、例えば雪女がどれだけいるかははっきりとは分からない。鬼一も知らないなら座敷もそれこそ天野も知らない。
誰も知らない本人達も知らないが、1つだけ確かなことがある。それは減れば濃くなる、だ。10人で分散して伝承としての力を振るっていたものが、今度は9人でその能力を使う。その時の出力が上る。元々倒せるわけでもねぇ払うだけの電気精神体。
マリちゃんがネームド、それは伝承基盤を1人で全部抱え込んでるからだ。どんな人間だってそうだろ?100kgの石を1人で運ぶのは無理か、かなり厳しい。だがそれを多数で分散するなら、小さな力でも運べる。でもマリちゃんはそれを1人でこなしてしまう。
「分かっています。ですが雪女・・・、今は姫子ですが、総体としての願いを考えれば彼女より他、受肉させて対話できる電気精神体もいない。」
(ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛・・・。)
「それはまぁ・・・。しかし、このトリガーは大きいよ?マリちゃんにとっても、AIアマテラスにとっても、なにより電気精神体にとっても・・・。三枝くんからも話は聞いていたけど、受肉についてはかなり限定的で、妖精王と言うAIが受肉してもマリちゃんは首を切った。結果だけ見れば境界を壊さないと言う話なんだけど、それが今回は本気でぶち抜いた。」
「分かっています。自分だって雪山に囚われる覚悟でした。しかし、こうして危険性を見ないことには、注意も誘導も制限も付けられない。」
「それは分かるよ。分かるけどね?ここが吹雪になったり、異常気象ばりにここだけピンポイントで年中雪が積もってるなんて話にもなりかねないよ?なにせ、念願成就した1がでたんだし。そこは?」
(ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛・・・。)
「・・・、座敷をここに置こうかと。」
「それは拒否しても?流石に座敷童子は困る。」
「・・・、こーちゃん座敷童子いるの?激ヤバじゃん!えっ!こーちゃんの寿命ないの?死ぬの?」
「今は依代にいる。だからそうそう危なくもない。」
「そのあたりはよく分からないけど・・・、あそこにいる徳の高そうなのが座敷童子じゃないよね?」
「わ゛だじばぢがう゛よ゛〜゛。」
「・・・、八百さんマッサージチェアそろそろ止めない?割と重要な話してるんだけど?」
姫子も姫子でほっとけばいいものを・・・。確かにいるとは思っていたが、本人が静観を決め込むならそれでもいい。だが話しかけられて問われれば尼は答える。それが破壊的でも・・・。と、言うかアロハシャツに短パン健康サンダルて・・・。お前、まだ生きるつもりかよ。死ぬかも分からねぇが。
「ほい、ぽちっとな。で、改めて名乗るならそこの医院長の妻の八百だぜ!姫子ちゃん。」
「おぉ〜、半分仲間?」
「さぁ?宇津田姫なら私は拝む方。行き倒れで雪山で死んだんなら、やっぱり拝む方。そうでもないなら・・・、縋られる方。まぁ、今はマリちゃん経由で来てると言うか、ここにいる姫子ちゃんだから仲間じゃないかなぁ。で、そんな小難しい話よりもさ。この子の今後、どうすんの?」
「私はこーちゃんの妻として・・・。」
そう言う姫子の言葉を遮るように八百が手をパタパタと振る。そりゃぁそうだろう。姫子の話している問題と、八百が話している問題は根本が違う。
今の世の中、個人データを保たない人間は本当に空白で、いないものとして社会から弾かれイレギュラーになる。これが戦争でもあって難民ならまだ分かるが、そんなものは今の世の中どこでも起きてねぇ。
「宮内庁側としてそこは処理する。突然現れた人間だが、それを通す手立てがないわけじゃない。」
「AIアマテラスいじんの?やめたがいいよ?やるなら真正面から電気精神体が受肉したって方がまだ、いいと思うけど?」
「それはまだ本決まりじゃない。ただ、戸籍やらその他のデータやらを入れる、その場合も協力お願いします。」
「それは・・・、まぁ?五郎ちゃんいいの?私は勝手にしてもらうならいいけど。」
「いいんじゃない、八百さん。その見返りと言ったらおかしいけど、姫子さんの検査とかも一手に引き受けるからね。」




