169話 尽くすギャルは良妻なのか?
「それよりも真利はこれからどうするの?」
「どうしようか?敷田さんはどうします?」
「私は一旦旅館に帰って身支度した後は、退院までこの診療所で柊さん担当ですね。木本さんからもそういう手筈で話を通したと聞いてますし。」
「なるほど・・・。なら、私は本当にどうしようかな?」
宿泊期間は終わるし、新しく部屋を取ろうにも今の部屋は次の客が入るから出るしかない。なら、別の宿に移るかと聞かれると、吹雪騒ぎのせいでどこも満室。う〜ん、流石に吹雪で足止めされたから滞在延長って話もできないんだよなぁ〜。
今朝のニュースでは記録的な大雪と同時に、雪雲抜けて快晴。地面の凍結に注意してお出かけを!なんて話が地域の話題として上ってたし。そうなると華澄は心配だけど、一旦木本さん達と共に病院へ帰ろうか。
あの事務所やら鞍馬さんところに転がり込むというのも手なんだろうけど、流石に色々あった後で気を使わせるのも悪い。なら、やはり木本さんにお願いするか、この格好で電車やらを乗り継いで病院へ・・・。
「帰るなら木本さんと一緒に帰るのよ?」
「そこまで見透かされたら木本さんにお願いするけど、1人でも帰れる宣言はしとこうかな。時間ズラせば満員電車やらにも当たらないだろうし。」
「あら、マリちゃん見てません?この辺りの電車やバスは明日まで運休ですよ?」
「マジですか?」
「ええ。除雪が間に合わないから公共交通機関は運休。帰るなら車になりますね。」
「地域ニュースではお出かけとか言ってたのに!」
はい。地域のニュースだから、県外遠征とか考慮せずに街中での買い物するとかって話ですよねぇ。なんにしても木本さんに連絡取って、帰れるなら挨拶回りして帰るか、それがダメなら事務所に泊まらせてもらおうかな・・・。
小児病棟に親が泊まるところはあっても、大人と言うか一般的病棟にはないし、ここも小さくはない診療所だけど泊まるほどの余裕もないし。
そんな事を思いつつ木本さんに連絡を取ると、送ってくれるというので、先に鞍馬さんに挨拶してから旅館に戻り荷物の整理。荷物自体はそこまで多くはないものの、華澄の物と分けて診療所に届けてから別れを告げ、チェーンを巻いたタイヤで車がノロノロと走りだす。
「こーちゃん喉乾いてない?」
「さっきコーヒー飲んだ。」
「こーちゃんお腹空いてない?」
「さっきまんじゅう食った。」
「・・・、ここで姫子の小話を・・・。」
「隣の屋敷に囲いができた、へーならもういいぞ?」
「いや、隣の柿はよく客食う柿だとか?」
「化物じゃねぇか!たんころりは柿ばらまくだけだろ?」
「おぉ〜、こーちゃん物知りぃ〜。」
はい。なんと言うか温度差夫婦の後ろに座っていると、気配消さなきゃ!と思ってしまいますよねー。甲斐甲斐しいと言えばそれまでなんだろうけど、念願の夫を手に入れた姫子さんは雪女であることを忘れたのか、木本さんに構いまくっている。
まぁ、そんな事をされてる木本さんは木本さんで、顔に出さない辺りは大人の対応と言ったところかな?顔に出して暴れたら・・・、暴れたらどうなるんだろうか?
俺は木本さんたちがやってきたことを、何一つ知らないわけだし・・・。ただまぁ、そんな姫子さんはチラチラとバックミラー越しに俺を見ているような・・・。
「なにか?」
「えっ?なにが?」
「バックミラー越しに私を見てませんでした?」
「鏡でちゃんと綺麗かは見てたよ?こーちゃんの妻として、変なところは見せられないし。」
「・・・、寝よう。」
「マリちゃん起きとけ!俺だけでこのテンションはきつい時もあんだよ!」
「え〜・・・。夫婦喧嘩は犬も食わないなら、夫婦喧嘩円満に狐は不要でしょう?化かしたり誑かしたりとか。黄金クッションとでも思っててください、尻尾をブラッシングしときますんで。」
「その順応力はどっから来るんだよ・・・。」
「強いて言えば3年間の積み重ねとか?あっ、姫子さん。ここに私の髪の毛置いとくんで昼ドラごっこしたかったらどうぞ〜。」
「巫女さんありがとう!こーちゃん!この髪の毛誰のよ!私というものがありながら!」
「そこの駄狐のだろうが!」
「いや!どこの狐よ!」
「では、私は別世界へ旅立ちま〜す。後はごゆるりと・・・。」
木本さんと姫子さんがワーキャー言うのを聞きつつゲームにログイン!ハヤトさんたちのクエストは大丈夫だっただろうか?無事に終了して鍾乳洞を出ていれば、俺は領地に戻ってると思うけど・・・。
「おぉ〜、無事に終わった?」
「契約者か。」
「お!おはよう妖精王。クエストどうだった?大丈夫だった?」
「目標は達成した。ただ、契約者には終始キノコが生えていたが・・・。」
「まぁ〜、胞子とか気にせず突っ込むばかりだからねぇ。それも採取対象だからいいでしょう。と、メッセージが来てる。なになに?」
ハヤト:
クエストは無事に終わって高品質のキノコが大量に取れた。まさか壁をぶち抜いて育ててから取ると品質が上がるとはなぁ〜。詳しくは撮影してたデータを見るといい。
報酬面はどうしようかと悩んだが、部位破壊した分とキノコとした。足りないや、なにか問題があったら連絡してほしい。
と、そこまで読んだけど壁をぶち抜く?品質が上がる?何の話だ?あのクエストは攻略してないけど、範囲魔法で胞子焼きながら、寄生したキノコを取るんじゃないのか?長くやったと思ったけど、未知の攻略法やらはやっぱりあるもんだな・・・。
インベントリを開くと中には大量のオニフタケとベニフナックルが・・・。どうやらあの時破壊した腕はそのまま装備品としてドロップしたらしい。せっかくだからと装備してみると・・・。
「契約者がまた寄生された!」
「ちゃうねん、装備やねん。」
まぁ、両手から白いキノコ生えたらビビるよね?拳を合わせると鉄製の装備なら『カチン』と鳴るのに、キノコせいなのか音はならずに代わりに『ボブン』と胞子が舞う。埃っぽいなぁ、おい!使うか分からんけど、一応テキスト読んどくか。
ベニフナックル:
ベニフエンペラーの腕をもぎ取ってそのまま装備した一品。その生命力から未だに胞子をばら撒き、種を増やそうと狙っている。
防御時、炎耐性低下。連続で攻撃をヒットさせ、寄生が成功した場合、相手の速度低下。
ふむ・・・。相手をスローダウンさせるのはいいし、ナックルは手数勝負なところもあるから性能的な相性もいい。目の前の妖精王をちょっと殴ってみる。すると『ボブン』と胞子が舞う。やっぱりこれ毎回出るのかぁ〜・・・。
「今度はキノコを植えるのか?それと、鼻がかゆい。」
「いや、頑張れば寄生するらしいよ?これ。」
「なぜ我に寄生させようとしている!」
「違うよ、多分一発寄生じゃないからキノコは生えないよ。その代わり毎回胞子が舞うか知りたくて・・・。」
「胞子が舞うとなにかまずいのか?」
「まずいと言うか、単純に視界が悪くなる。」
視界ゼロじゃない。ゼロじゃないけど、傘の下からも胞子が舞うせいか一瞬、霧の中にいるみたいな感じになる。まぁ、これがノーリスク装備だと高速アサシン御用達装備だよなぁ〜。なにせ、殴れば殴るだけ相手が遅くなるんだし。
それに見た目も知ってれば炎系攻撃で迎撃する!って、やれるからなぁ〜。多分、鍛冶とかで外観変えても胞子だけは消えないんだろう。
「なら外しておけ。キノコは見飽きたし食い飽きた。」
「えっ!?報酬食べちゃったの!?」
「キノコ取り放題だったからな。スノーボールラーメンも食した。確かにアレは王家が欲しがる味ではあったな。焼かれて溢れた濃厚なキノコのスープ。中に入れられたラーメンの程よい食感とトマトの旨味、表面を覆うチーズは多少塩気が強くとも、中のチャーシューの甘味がそれを中和する・・・。気付いた時には器のキノコまで食していた。」
スッと手をさしだす。ポンと手がおかれる。そのまま握手・・・、じゃない!インベントリを見てもキノコはある。だが、肝心のスノーボールラーメンはない。
「・・・、私の分は?」
「ないぞ?最高品質のオニフタケを納品した時のみ食べられるらしい。」
「食いそこねた!いや、色々あったから仕方ないけど、食いそこねた!」
「知らん。魂を抜くのが悪い。」
「くっ!」
元凶の姫子さんは現実世界なら目の前にいる。いるけど食い物の恨みと襲いかかる訳にもいかないしなぁ・・・。って、ちょっと待てよ?キノコのスープ、ラーメンの食感にトマト、チーズにチャーシュー・・・。
「・・・、ピザ?」
「似ているが旨さは数段上だ。」
「ぐぬぬ・・・。と、そう言えば妖精王は名前欲しい?」
「ゼンゼンマンならいらぬ!」
「それはもういいって。真面目な話として、ちゃんと考えた名前が欲しいかって話。」
試金石と言うと悪いけど、雪女は宇津田姫になり、宇津田姫は姫子さんになった。そもそも日本の名字システムって、遡ろうと思えばかなり昔まで遡れるし、人でもなく血でもなく名字と言う記号を見てるんだよなぁ〜。
確かに同じ血筋で跡取りを!という話はある。あるけど、養子縁組とかして名字を継がせてもOKだし、自分の子よりも優秀ならそちらに家を継がせたいなんて話も・・・。
そう考えると妖精王にもキチンと名前を付けないとまずい気もするんだよなぁ〜。木本さんみたいに安直に子を付けるにしても、王から王子だと怒るだろうし、男だから郎を付けるにしても王郎ってなに?いや、カタカナでオウロウならオベロンモジリっぽく聞こえる?
「欲しいかと聞かれれば・・・、どうなのだろうか?それは契約者が決めることだろう。」
「・・・、二郎とか?」
「ラーメンから離れろ!馬鹿者が!」
「いや、本当は三郎とかがいいんだけどさ。」
「・・・、なぜだ?」
「末子成功譚というものがありましてですね、はい。」
「我は既に王ぞ!」
「ですよね〜。」
姫子さんを1号とするなら妖精王は2号だから二郎。それで怒られたなら、昔話にあやかろうとしたけどそれもお気に召さないらしい。う〜む、真面目に考えてるんだけどなぁ〜・・・。
「・・・、一旦保留!デイリーもやってないし街に行こうぜ!妖精王!」
「逃げるな!逃げるな卑怯者!」
「くっ!私は命名と言う名の太陽から逃げてなど!」
キノコ両手に付けて走り出す。流石に街中じゃ外しとかないとなぁ〜。




