168話 嵐の後
朝起きてボサボサの髪に櫛を入れ、タクシー呼んで診療所へ。華澄の命に別状はないにしても心配だし、木本さんや姫子さんのことも気になる。ただ、昨日までとは打って変わり鈍色の空はそのままだけど雪は降っていないし風も穏やか。
流石に吹雪の全部が全部妖怪と言うか、電気精神体のせいではないにしても、こうも穏やかになるとやはり疑いたくなるのが人の気持ちかなぁ・・・。ただ、チラチラタクシーの運転手がバックミラーで俺を見ているのもまた、世の定めか・・・。
「はい・・・、ええ・・・、え!?」
「こーちゃん、なに?誰と話してるの?・・・、女なら・・・。」
「さみぃよ姫子。仕事だ、仕事。上司と話してるからちっとばかし黙ってろ。」
「キリッとしたこーちゃんもカックイイ〜♪」
白い着物にジャケット姿の姫子さんと、昨日の服と言うかジャケットを脱いだ木本さんが診療所の前でイチャイチャしてる・・・。と、言うかあの着物ってなんなんだろうか?う〜ん・・・、俺は尻尾が毛むくじゃらだし毛織物とか?
俺の体は多分全部がバイオナノマシンと入れ替わってるし、そこから考えるとアレもナノマシンなのだろうか?なんたってナノ単位のタンパク質が集まって形を形成してるんだから、下手するとあの着物も姫子さんの一部・・・。俺のお祓い棒と言うか焦げが集まってできた大麻的な?
「おう、マリちゃん。」
「巫女さんちーっす。」
「おはようございます、お2人とも。それで、華澄は?」
木本さんも凍傷負ってるから無事とは言えないけど、治療用のナノテープを両頬やら両手の指に貼ってる辺り、それで事足りたのだろう。まぁ、婿候補で今は夫だし・・・。
「命に別状はない。それは敷田さんから聞いた。もう2、3日もすれば全快するだろうよ。それと・・・、コイツどうする?」
そう言いながら木本さんは親指で姫子さんを指差す。どうすると言われると・・・、どうなんだろう?確かに華澄を傷付けたのはよろしくない。よろしくないけど、ならそれを頭ごなしに怒ったとしてなんになる?
無茶苦茶難しい話なんだよなぁ〜・・・。個人のやらかしなら個人に責任がある。なら、総体や種族のやらかしなら?途端にスケールがデカすぎて責任の所存が曖昧になる。
なにせ今の姫子さんがそれをやらかしたと言う確証もなければ、宇津田姫全体がやらかした、雪女がやらかしたとすれば、過去にまで遡ってその罪を怒ることになる。でも、それはもう俺がどうこうすることじゃない。ある意味今の姫子さんは、宇津田姫から切り取られて、引き継がれた後の後継者と言う形なんだろうし・・・。
「私からはどうも。仮に怒るなら華澄でしょう。個人として華澄を傷付けた、その部分に思うところがないとは言いません。でも、そこを最初に怒るのは私ではなくて当事者の華澄です。」
「そうか・・・。いや、お前が怒り狂ってコイツの首を斬るなんて言い出したらどうしようかとな。」
「こーちゃん守って!その狐はヤバい狐だから!ガチヤバ、メチャヤバ、ヤバかっちゃインフェルノファイヤー!!」
「ちーっすとか挨拶した後にその言い草はなんですか、その言い草は。狐火ぶつけますよ、狐火。それに、今の夫兼責任者は木本さんだから、私は首を突っ込まないですよ。まぁ、相談には乗りますけど。」
見た目だけなら40過ぎの木本さんとギリギリ20歳に見える姫子さん。犯罪的と言われればそれまでだけど、年の差カップルと言うか夫婦ならありなんだろか?強いて言うなら姫子さんの容姿が目立つとか?
ボンキュッボンで童顔美人。アイドルグループとかにいそうな感じで、話した感はこう・・・、誰にでも優しそうなギャル?或いは勘違いを量産するキャバ嬢?まぁ、その本人は木本さん一筋なんだろうけどさ。
「それはまぁ・・・。いや、先にコイツは天野医院長に見せる。」
「医院長に?」
「おう。はっきり言っちまえば、今回の件は俺の手には余る。だから俺の上司にも隠さず話した。その結果として姫子は俺の預かりにはなった。」
「ほう。それはまぁ、おめでとうございます?」
「話はそれだけじゃねぇんだよ。分からないことは多いものの、うちの上司はお前さんにも会わせろと言ってきてんだよ。元々現場の預かりは俺だが、事が事だけに、な。」
「まぁ、妖怪事案に首突っ込んじゃいましたからね・・・。」
座敷童子大先生に鞍馬さん、ぬらりひょんに雪女と天野医院長夫妻も含めると結構関わったのかな?それを考えると部外者面するのは厳しいし、なにより姫子さんが受肉してしまってるしなぁ・・・。
「首突っ込んだっつうか、台風の中心にいると言うか・・・。なんにせよマリちゃん含めて病院側とも本格的に協力関係を作る。まぁ、後日その話は行くだろうさ。あと、千円な。」
そう言うだけ言って、木本さんは姫子さんと車に乗り込んで走り去ってしまった。話と言われてもどうしたものか。俺の手には千円札があるものの・・・。と、そんな事より中に入って華澄を確認しよう。いくら大丈夫と言われても自分の目で見ないとね。
「柊 華澄さんの見舞いに来ました。」
「そちらの端末に個人データを・・・。はい、雁木 真利さんですね。その格好は病院に相応しくないのですが・・・。」
「あ〜・・・、医師の敷田と言う者に取り次いでください。それで大丈夫だと思います。」
「少々お待ちを・・・。はい、許可があります。病室は102号室になります。」
「ありがとうございます。」
やはり目立つ。まぁ、狐娘のコスプレして病院に来れば当然か。そう考えると姫子さんは普通の人間っぽいから制約も少ない?まぁ、ナンパとかはありそうだけど。
『そこの彼女〜、ちょっとお茶しない?しない?なら、一緒にゲームしない?被るゲームあれば、そのクエストでもやろうよ!』
とかさ。対面でなにかする事のハードルが高ければVRでなにかする。一者にいて身の危険を感じるくらいなら、相手のゲームデータ取った方がはるかに安全だしなぁ〜。余程マイナーでもない限り、個人データに紐付いた部分はあるんだし。
(痒いです。)
(掻いたらダメですよ柊さん。再生中だとしても下手に刺激すると再生不良って話もあるんですから。)
(なら、睡眠薬をください。)
(それは寝られない時に処方しましょう。ただ普段通りの生活はしてください。寝ると無意識で指先を触ったり掻いたりするかもしれませんからね。それこそゲームしてもいいですし、仕事しててもいいですから。)
(・・・。報告書を作製して気を紛らわせおきますよ、敷田さん。)
「失礼しま〜す・・・。」
「おっ!マリちゃんおはようございます。」
「おはよう真利。」
「おはよう。華澄・・・、大丈夫?」
「大丈夫よ、ただちょっと痒いかしら。」
ベットに座る華澄は患者衣を着て、両手は包帯でぐるぐる巻にされている。頬や鼻にもナノテープが貼られてるから、そこも凍傷を負ったのだろう。
敷田さんの方をチラリと見ると、箇条書きの電子メモが送られてきた。流石に診断書を医者でもない俺に見せるわけにはいかないし、敷田さんなりの心遣いだろう。内容と言うか容体的には両手足の重度の凍傷に顔やらの軽度凍傷、その他は寒さによる体力低下。
医療ポッドでの治療はほぼ完了して、後はナノテープなんかでの治癒と体力回復に努めるらしい。なんにしても切断までいってなくてよかった。そこまで行くと、更に回復に時間がかかる。
「華澄は・・・、雪女をどうしたい?」
「雪女?あぁ、姫子のこと?あのままでいいわよ。下手に追い返すと余計にややこしくなるし。」
「それで・・・、後悔しない?」
「どうかしら?いつ後悔するかも分からないし、思い返して腹が立ったら明日張り倒しに行くかもしれない。でも、今はここで回復に努めて全快してからでも遅くはないわ。」




