166話 ログイン! 挿絵あり
「・・・、うわぁぁ!!!???」
「どうしたって、血が滝みたいになって凍ってますよ鞍馬さん!?」
スマホをクリクリしていたら鼻腔に届く血の匂い。ヒョイと顔を上げると両肩に頭のない鹿を担いだ鞍馬さんが!頭をかち割ってそのまま運んできたのか、服が血塗れなら顔も赤いから鞍馬さんがぬらりひょんに何かされたのかと疑いたくなる。
「えっと・・・、お怪我は?」
「ない。血抜きしようにも凍ってできぬ。」
「あぁ・・・。」
山男と言うものをよく知らないけど、多分これは普通の山男ムーブじゃないよな?いや、そもそも人を担いで空飛んだりする時点で人に馴染めてるのかも微妙なんだろうけどさ・・・。そんな鞍馬さんは鹿をドサリと雪に投げ出して辺りを見回した後、そのまま火酒を一口飲んでドカリと座り込んだ。
「寒くありません?」
「・・・、慣れている。」
まぁ、冬の境内で雪降中水行するような人と言うか天狗だしなぁ・・・。ただ、本人は俺の方に『やることがあるならさっさとしろと』という風な視線を送ってくる。とりあえず・・・、鹿を捌く?
刺身で食うのはいいにしても、目の前の鹿は革も血もモツも残ってるわけだし・・・。なんとかこう・・・、食わずにどうにかならないものか。いや、それはそれで贅沢な悩みか。最悪、意識飛んでしまえば食ってる実感は後から追いついてくるだけなんだし・・・。
「うっし、腹括ったぞ。」
そんな悩みを横に木本さんが頬を叩いた。ただ『パンっ!』と気合を入れたかったのだろうが、ワセリンのせいで音は響かずぬちゃっとしてそうだし、頬は凍傷負ってるから叩かないほうが・・・。
「俺は・・・、明るいギャルっぽい奴を選ぶ!」
『なんと!?』
『イェーイ!』
「・・・、ここまで生きて初めて知った・・・。馬鹿は移るものなのだな。」
「鞍馬さん。それ、暗に私をバカって言ってません?」
「クックック・・・、それはお前の自覚だろう。俺は誰とは言っていない。」
更に火酒飲んで笑ってるけど・・・、酔っ払い?まぁ、多分これでいい風も吹いてきた。辛くてもキツくても笑ってればそれだけ余裕もできる。そして、余裕ができれば余白もできる。そして、余白ができればそこは隙間だ。スマホをドローンモードで浮かせて・・・。
「AR神社展開!さぁ・・・、ここはどこともしれない神社です。ただのボロい神社じゃぁあありません。ちゃんと祀る巫女がいますからね!」
横で鞍馬さんが火酒でむせてるけど、そんな事はどうでもいい。宇津田さんはポカンとし、木本さんはなにやらヤバい!って顔してるけど、既に準備は済んでいる。なら、後はやるだけやってみよう。
「おい待て!それは・・・。」
「神前結婚式!え〜・・・、宇津田姫さん?貴女は木本さんを夫としますか?」
「します!イェーイ!私の婿・・・。」
「逆、貴女が嫁。」
「私の婿・・・。」
「あっ、ご予約ない方の式はちょっと・・・。うち、神社なんで多分イザナギさんとか見てたら怖いんで。あと、狐は嫁入りしかしないんで。」
「・・・嫁で。」
「はい。嫁ですね。」
(アレは・・・、巫女・・・、か?しかし、一応は神社・・・。しかし、押し通しつつもイザナギ神話・・・。)
「木本さん、宇津田姫さんを妻とし、嫁としますか?」
「さっき言った性格の奴なら・・・、まぁ。嫁にする。」
神社の前、巫女は俺で参拝者は両方を知る鞍馬さん、供物は鹿2頭で嫁入りの話も付いたし後は・・・。俺がどれだけ今までのことでこの能力を使えるか、か。法則はトラブルオンライン、ただそれは現実世界の解釈で色々と変わる。でも、受肉はちゃんとできていた。
「緊急換装!桃!ささ、宇津田姫さん食べて下さい。」
「これ・・・。」
「ささ、ガブッ!と。三々九度したくても今はできないでしょう?」
「・・・、食っとけ。」
「は〜い、旦那様〜♪」
宇津田さんが桃を食う。足りないからと更に桃を渡して食わせる。腹の具合はまだ大丈夫。更にもう1つ・・・。ちょっと小腹が空いてきた。桃1つが500gとすると、これで1.5kgの強制ダイエット!
「まだ食べるの?」
「種・・・、飲んでください。それと、そこの鹿肉食べて下さい。祝の料理です。」
「料・・・、理?」
「鹿刺しです!」
「活きのいい祝い膳!」
そのまま鹿にかぶり・・・、つかずになにやら氷を包丁みたいにして切って食べてるけど・・・。何か違う。何か足りない・・・。俺もプロテインバーを開封してバクバク食べつつ、違和感がなにかを考える。
「これで・・・、いいのかマリちゃん。」
「ダメだ木本。」
「なんだ鬼一、なにが足りねぇ?マリちゃんはなにも言わねぇし。」
「コレは宇津田姫だ。」
「そりゃぁ、本人がそう名乗ったからそうだろうよ。って、なんだよマリちゃん。」
「・・・、ログイン。」
「ログイン?今ゲームしてる場合じゃねぇよ。」
「違う!アレは宇津田姫!だから宇津田姫なんです!」
「だから宇津田姫だろ!」
「あぁ!華澄ならわかるのに!」
感覚を言葉にして話せ!今までやってきた!どうプレゼンして、どうやれば相手の購買意欲を刺激できるか!それを今やれ!すぐやれ!頑張れ俺の脳!早くしないとなんかヤバい気もするし!
「柊テイマーと従魔柊が通じてんのは後でやってくれ・・・。」
「違う!・・・、そう!名前!宇津田姫は宇津田姫って言う多くのプレーヤーネーム!だから全部の宇津田姫が入り込める!だから、そこからさらに木本さんが名付けて切り出して!木本さんの宇津田姫さんを固定して!」
「それがログイン・・・、顕現させて固定して個人にまで落とせってか・・・、本人との話し合いは?」
「多分今は無理。あの肉を食べてますけど、供給よりも分解の方がはるかにエネルギーがかかる。それは妖精王でも見たでしょう!下手したら疲れたじゃなくて、足りないからとよこせになる!」
「ちっ!な、名前だな!?よし・・・、女の子の名前ってなんだ!?流行りとかは!?」
「知らん。」
「知りません!」
「そこは頼らせろよ2人とも!ツキとか名づけるぞ!」
「それはちょっと・・・、ツキマークツーとかならいいですよ?トラブルオンラインなら名前の後に数字を羅列しますし。」
マークツー・・・、黒いなら敵で白いなら主人公。ロングなビームライフル手に入れたら火力アップ?まぁ、大麻は結構長いんだけどさ。いや、すでに俺が白だから後続は敵か?と、ガンダムネタはいいとして・・・。早く決めないとヤバい気がする。
「しねぇよ!俺だって今混乱してんだよ!名前・・・、名前、名前!」
「木本の初恋の相手でいいだろう。」
「するかよ鬼一!名前・・・、宇津田姫たろ?宇津?それは名字っぽい・・・、姫?いや、アイドルか!なら・・・、なら・・・、姫子!」
「残念なネーミングセンスはいいとして・・・。」
ブンッ
スッ
「よけんな。それと、嫁の名を残念呼ばわりするな。」
「それは失礼。あと、急に叩こうとしないで下さい。耳の長さ分、他の人より当たり判定が大きい。宇津田姫さーん!貴女は正式に結婚して木本 姫子さんになりました!しっかりと地に足つけて2人で歩んでください!」
「・・・、私は木本 姫子・・・?」
「はい。貴女は木本 姫子さんとして現実世界にログインしました。死にゲーなので、死ぬまではプレーヤーとして嫁プレーをしてください。残念なことに回復はあっても復活はありません。くれぐれも事故には気をつけるように・・・、下手すると火達磨ですから・・・。」
実際俺は事故に合って火達磨になって狐巫女になったけど、そんな風になっても助かる保証なんてどこにもない。多分、本当に助けてくれる人がいたとか、助かるだけの機材があったとか・・・、そんな幸運が重なって生きている。
「木本 姫子♪木本 姫子♪旦那様!旦那様の名前をおせーて?」
「あ〜・・・、幸喜だ。木本 幸喜。」
「ならこーちゃんだね!」
「後は若い二人でごゆるりと・・・。」
「狐、宴もたけなわか?なら、俺は帰る・・・。」
(ぬらりひょんめ・・・。あやつ、見ているな?)
「えっと・・・、私たち足がないんですけど・・・。」
「・・・。ふんっ!」
手を大きく広げて一振り。アレって天狗のうちわのかわりだろうか?それだけで突風が吹き抜けて車に覆いかぶさっていた雪も吹き飛んでしまった。鞍馬さんの底が分からない。そんな鞍馬さんに軽口叩く木本さんもやはり業のもの?
「これでよかろう。」
「はい、ありがとうございます。」
「・・・、構わん。これがお前の戦い方なのだろう?しかと見た。」
そう言うと鞍馬さんは文字通り飛んでいってしまった。宇津田さん改めて姫子さんは鹿肉食ってるから口元には血がついてるけど、先に華澄たちを・・・。
「な、なんですか!?なんか突風で雪が飛んでいったんですけど!?・・・、犯罪ですか?」
「込み入った話は後にしません?先に華澄を病院に連れていきましょう。」
「それは・・・、そうですね!人命優先。私が運転するので乗ってください!」




