161話 初見は楽しい。多分
真夏の夜の淫夢・・・。野獣が現れないのはいいとして、ティターニアまでいるのに妖精王はオベロンではないらしい。そうなると誰なんだろう?う〜ん、そもそもこのゲーム自体が色々混ぜられてるし、この名前だからこの人!と言うわけでもない。
そうなると単純に名前を借りただけなのかな?まぁ、妖精郷があったり、王であることは間違いないと思うから、下手に突っ込むよりはそのままのほうが矛盾もなさそうだしいいかな。と、言うか他の人配信見ると妖精王は普通にボスとして出て来るし・・・。違いがあるとすれば、うちの妖精王が2Pカラーみたいになってるとか細部が違うとか?
まぁ、ボスがそのままNPCになったら混乱する人もいると言うか、襲撃イベントだと思ってぶっ殺すって感じの人が多いから仕方がない。
「NPCと言うかモンスターも謎がいっぱいですね、このゲーム。」
「大体はトラブルで片付けるけどな。せいっ!」
「スライムがゴブリン食べて、スライムソルジャーになるくらいはやるからなぁ〜・・・。ここって水場も近いからスライムは大きくなるし。」
ただのスライムは弱い。ゴブリンも弱い。そいつらが戦ってゴブリンが勝っても弱い。なら、スライムが勝つと?有利な地形で骨格手に入れたスライムが、核を骨で隠しつつ武器やらを使い出す。割と初見だとビビるぞ?
スケルトンだと思って近付いたら腕が伸びてナイフで刺しに来るとか、棍棒バンバン振り回して近づかせないようにするとか。まぁ、骨ごと砕いたり魔法で蒸発させたりするんだけどさ。
「洞窟で出会った時は怖かったです・・・。ヌメヌメした緑のスケルトンで、下手するとただのゴブリンに見えるし・・・。あっ!宝箱!」
「それ近寄ったらダメ・・・!」
「えっ?」
『ハァイ・・・、稀人・・・。』
水辺里にあるやたら豪華な宝箱。それこそ、ラスボス倒したら出てきそうなくらい華美で、宝石があしらわれ金細工も丁寧に施された・・・、ミミック!普通開けようとしたら襲ってくるだろ?
トラブルオンラインのミミックは近寄ったら勝手に開いて襲って来る!しかも、ご丁寧にクラゲみたいな足で走りながら!まぁ、ドロップは美味しいよ?換金アイテムになるさ。でもねぇ・・・。
「影走り!火閃一線!大丈夫!?」
「メバル!無事か!」
「う、うん!多分毒貰っただけ。」
「それよりもマーマンやらスライムソルジャーやらがワラワラ出てきたぞ!・・・、いいサンドバックだな。」
「ほなしばき倒したって〜。メバルさん、呼吸法は?覚えてるなら使ってカウント減らすか、覚えてないなら解毒薬の生物系のやつ使って。ピンポイントシューター、メテオ、メテオ、も1つおまけにメテオ!」
「呼吸法は初歩ですけど覚えてます!イサキさんはハヤトさん達の方・・・。」
「手伝いいるのかな・・・?」
ハヤトさんかマーマン達をサンドバックにしているので、ピンポイントシューターを使って鍾乳石をズコズコ降らせてモンスターに刺す。大元は隕石降ってくるんだけど、洞窟内だから鍾乳石。まぁ、普通のメテオと違って残留ダメージがないから使いやすいと言えば使いやすい。
ただ、乱戦で背後から一撃入れようとするスライムソルジャーを骨ごと核を切り飛ばしてハヤトさんを援護。お互いフレンドリーファイアが怖いから、近寄って乱戦すると危ない。だから、そのまま背中を『ポン』と合わせた後は反対方向に駆け出しモンスターを駆逐する。
あまり前には出たくないけど、ダメージ貰ってるなら早めに掃討して呼吸を落ち着かせた方が毒抜きにはいいしねぇ。あらかたモンスターを倒しているあいだに、メバルさんの毒も抜けて更に奥へ。不用意に開けようとしてすいませんと謝ってきたけど、知らないなら仕方ないし、換金アイテムも割と出たから大丈夫と返しておいた。
そんなこんなで辿り着いたのは最奥のボス部屋の前。普通のダンジョンだから、こうしてバカでかい扉があるものの、最近見てなかったような気もする・・・。最後に見たのいつだっけ?ガンマ弐式の時?と、言うかもう21時か。
「準備はいいですか?」
「いいですけど、ボスを倒せば終わりなんですかね?」
「あ〜・・・、ハヤトさんは知ってる?」
「俺は知ってるよ。イサキさん達、種を知ってから攻略するのが楽しいならネタバレもするが、初見がいいならギリギリまで俺は言わないよ。」
「同じく。攻略本片手にやってストーリーを楽しむのもゲームの楽しみ方だし、こんな風に動き回るゲームだから失敗も合わせて楽しむのもまた、VRMMOの醍醐味だよ。」
「どうするメバル?」
「私は初見でもいいけど、イサキさんとか落ちた2人が攻略メインなら聞いてもいいと思うよ。あっ、でもレベルが低いから防御バフは持っておこうかな。」
「う〜ん・・・、初見で行きます。そして落ちた2人に先輩風吹かせたり、ツキさんの配信見ながら今回の冒険が割と濃いものだったと自慢しようかな。突入前に僕もバフ盛っとこ。」
「O〜K〜。なら、扉を開けようか。」
初見攻略はやっぱり楽しいよねぇ。ただ、華澄に入れたメッセージが未だに帰ってこないのは若干心配だなぁ・・・。木本さんに連れていかれて仕事してるにしても、そこそこ長い時間ぶっ通しで仕事するかね?警察だからある程度は仕方ないと思うけど・・・。
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Warning! Warning! Warning!
増殖する脅威 ベニフエンペラー 樹立!
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「えっと・・・、いない?」
「ボス部屋ですよね?あっ!白いキノコ!」
「待てメバル、先に調べよう。色とか周囲とか・・・。」
イサキさんがいいことを言う。ただ、ボス部屋はそこそこ広く、一面にキノコが生えている。それこそもう、白いのから傘も茶色いのから、デカく育ったのまで様々に・・・。相変わらず運営はいやらしい。なんでわざわざこんな鍾乳洞の底にキノコボスを置いたかって?上だよ上。
茶色い鍾乳洞の壁に見せかけた本体。それが今、キノコを覗き込んだメバルさんの背中にフワリと胞子を静かにばら撒いた・・・。本来なら突入前にバフを盛る。
その普通の行動がこのボスの感知に引っかかる。なにせ喋るキノコではあっても、目も鼻も口もない。その代わり、強い生命力やらにはすこぶる敏感らしい。
「マッスルアップ、砂上の盾、オーバーリビドー、インパクト強化、フィーリングオーバースペック・・・。」
「パンプアップ、ファイアエンチャント、我、魔導の極みに至る、刹那の見切り・・・。」
「ちょ!いきなり2人がバフ盛りだした!?えっ!一面に生えるキノコは!?コレが採取するやつですよね!?」
「そうそう。採取するやつされるやつ。大丈夫、大丈夫、トラブルオンラインには精神系の攻撃ってないから!」
「そうだな。下手に脳波使ったVRゲームで精神操作なんかしたらゲーム会社が潰れるからな!ほら、俺達は2人でバフ盛ってるからキノコを採取してくれ!」
「絶対なにか出るやつでしょ!メバル・・・、メバル?」
「お兄ちゃん・・・、なんか背中が重い・・・。」
「うわぁぁーーー!!!背中からキノコが!」
「それそのまま採取!それだけは確実に罠じゃない!」
イサキさんがブチリとメバルさんの背中からキノコをもぎ取る。重いと言うだけあって、そのキノコの大きさは人の頭ほどの大きさがあり瑞々しく白い。確実に取るならコレが1番。ただまぁ、コレするとデバフも貰うからフォローが必要なのよね・・・。
『おや?苗床ですか?実にいい。私の子供達をどんどん運んでくださいな。』
「ファイアサイクロン!」
「火真拳!」
嫌なキノコ!言うだけ言って胞子ばら撒いたら地中に逃げやがる!でも、確かにそうですよね〜。この世界は俺達プレーヤーの世界じゃなくて、モンスターやらNPCの世界。だから、俺達は稀人と呼ばれるんだし!
「モグラ叩き、はっじまっるよーー!!」
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「おい、柊。柊!寝るな!」
「・・・、寝てはいません。ただ・・・、なにもせずに睨み合う。コレが思いの外疲れると知りました。」
「慣れてるだろ?鬼一にしごかれて・・・。」
「それならまだ、外に・・・。いえ、この中も代わりませんね・・・。」
ジリ貧・・・、そう。ジリ貧だ。車のエンジンは切った。一酸化炭素中毒を懸念して。持ってきた防寒着も防寒具も全部使った。それこそオイルカイロにホッカイロに電気カイロ。それだけじゃなく、紐を引いたら温まる弁当を分解して簡易加熱パックにもした。
だが、車の中じゃ火が使えねぇ。更に言えば雪女の奴がどんどん熱を奪いやがる。どうする?俺にはまだ余裕がある。婿として見られているから。だが、柊に余裕はねぇ・・・。
顔は白く唇も紫・・・。手袋で指は見えねぇが、重度の凍傷を負っている可能性もある。重度の凍傷だろうと生きてりゃ治る。それこそナノマシンによる再生医療は元通りにする。だが・・・、先ずはここを生きて切り抜けられれば、だ。
柊が仮にここで死ぬ。その場合、雁木 真利と言う男・・・、女?もう面倒だから狐巫女でいいか。あれはどう動く・・・?飄々とした奴だとは思う。執着心もそこまでないとは思う。だが・・・、なにも知らず、助けられる可能性も教えられず、結果だけを渡されたらどうだ?
大人として領分が違うから仕方なかった、コレで納得するのか?更に言えば・・・、文字通り死者復活なんてバカげた事を、本気でやりだしたら?
「ほれ・・・、寒かろう。呼ばぬのか?」
「ぬらりひょん・・・、もう待てない。」
「それはいかん。ワシがお前さんに協力しとるのは、ワシの用事もあるからじゃて。」
「知らない。私は婿殿が欲しいだけ。後はいらない。」
「待て!雪女・・・、名は?名がなければ呼べねぇよ。」
禁忌・・・。電気精神体に・・・、現象として現れた者を逸脱させ、そこにある者として扱うと言う禁忌。本当なら破りたかねぇ・・・。破りたかねぇが・・・、腹括るか。狐の窓を作り雪女を捉え、言葉を紡ぐ・・・。
「・・・、私の・・・、名?」
「おう、そうだ・・・。考えろ、思い出せ、遡って、自己を見ろ。いつ現れた?いつからそうあった?現世と幽世のはざまにありて、誰とする?」
「私は・・・。」
「・・・、時間稼ぎか?」
「おう・・・、寒くて敵わねぇ。ぬらりひょん・・・、真利を呼ぶぞ。」




