160話 オベロンではないらしい
「雪女・・・、どうぞ木本さん外へ。」
「俺を速攻で生贄にすんな!」
「しかし、この時期に雪女なら婿取りでしょう?私は婿にはなれません。」
「なにが悲しくて妖怪の婿にならなきゃならん!このままここに引きこもって一泊・・・、ちっ!気付くのが遅すぎたか・・・。」
「その場合、問答無用で私が凍死するのですが?」
「若ぇ奴が普通は生き残る。」
「婿になれないなら価値なしです。」
確かに雪女がどっちを選ぶかと言えば俺だ。鬼一の奴がぬらりひょんだから動かないっつう話をした時にもっと考えとくべきだった。下手に追っ払って山に入れば、今度は鬼一が婿にされて追い返して社務所に帰っても、今度は雪女が追っかけて来てストーカーになりやがる。
本人のことを話してないか?それを知るなら近くがいい。今ならネットも漁れるし、より強固な監視ができる。なら、俺か婿として車を降りれば?最悪来春まで閉じ込められて、2度と雪女に手出しできなくなる。
昔話もそうだろう?生きて返す。返す代わりに口に出させない。なにより柊は抵抗しようにも分が悪い。ここが昼の雪山ならまだ追っ払えるが、今は夜で寝てエンジンが止まれば氷漬けだな。
「さてどうする?お若い2人。大人しく出て来ぬか?」
「ふざけんなジジイ!俺はなぁ、ボンキュッボンのねぇちゃんが好きなんだよ!」
「じゃ、そうじゃぞ。」
「・・・。」
「っ!」
「木本さん・・・、目から・・・。」
「構うな。一昨日のが治りきってねぇだけだ。」
目尻からドロリとしたものが頬を伝う。流石に何本もこのペースで目の血管が切れれば、入院して療養か?医療ポッド一発で治れば御の字だが、電気精神体絡みは体が治ったとしても一時的な後遺症も残る。
「それは・・・、ただ今現れた雪女がどんどんボンキュッボンになっていますが?」
「仕方ねぇだろ・・・。俺みたいな電気精神体を固定して触れ合える奴は少ねぇ。それこそ、鬼一みたいな奴が大人しく番になればいいが、肉体持つ妖怪も妖怪で電気精神体と関われねぇ奴も多い。」
「ほら、ワシも御暇したいんじゃよ。出るか?出らぬか?それとも狐を呼ぶか?」
「・・・、狐?」
「おうおう。狐・・・、確かマリちゃんと言った・・・。」
「黙れジジイ!落ち着け柊!」
ここで真利かよ!いや・・・、あのジジイは!ぬらりひょんは真利の両方を見て体験した!なにを狙ってやがる!なにを考えてかやがる!本気で・・・、本気で現実世界再構築でもおっ始めるつもりか!?
「どうせ死ぬならあのジジイと刺し違えますが?真利には・・・、適当に事故にあったとして下さい。」
「するかバカ!お前も早合点するな柊!お前が刺し違えでもどうせぬらりひょんは死なねぇし、俺もここから出られねぇ!なら・・・。」
どうする?上に話を繋ごうにも確実に邪魔される。なら、ここで寝ずに一晩明かすにしても、確実にイタズラという名の悪さをする。それこそ排気口に雪でも詰められた・・・。なら、呼ぶか?
病院から出したのはそもそも本人の能力検証と、妖怪に付いての知識を深めさせるためだ。なら、ここにマリちゃんを呼ぶ?だが、呼んだらどうなる?腹減って暴走するならまだ、飯を食わせればいい。
だが・・・、仮に他の方法を取るとしたら?AIを受肉させて、電気精神体も受肉させるバグみたいな存在だぞ?宮内庁・・・、俺の上司にしても話を聞いて、柊が嫁に納まって上手く操縦して何事もないのが1番と考えるような奴をここに呼ぶのか?
「ぬらりひょん・・・。」
「なんじゃ?」
「婿殿はどれくらいのムチムチが好みだと思いますか?」
「さぁのぉ・・・、デカけりゃいいんじゃないか?横におるおなごよりも大きければ・・・。」
「アレは・・・、どうせ凍らせる。」
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「コレが伝説のキノコ・・・。採取すればいいんですよね?」
「裏側覗き込んで白かったらいいよ?茶色いと胞子ばら撒いて他のモンスターが寄ってきて襲われる。私はちょっと採掘ポイントで掘ってくるからなにかあったら呼んでね〜。」
その話を聞いたイサキさんとメバルさんが2人でしゃがみ込んで、デカくて丸いキノコの裏側を見る。流水鍾乳洞は相変わらずジメジメしていて、そこでひざまずくのも嫌ならモンスターじゃなくて、演出として壁をムカデやらゲジゲジっぽいなにかの影がカサカサ言いながら動く。
下手な騙し絵よりも騙されるし、鍾乳洞系は虫も多ければ水音がしてるから地底湖があればマーマンやらも・・・。なんにしてもここではゴブリンよりもスライムの方が強いので、スライムの中にゴブリンの骨が浮いてるとかも・・・。
「茶色いような?」
「いや、白っぽいような?」
「確かテキストには水をかければいいってありましたよね?」
「茶色いのはそれで凹むんでしたっけ。ウォーターバレット。」
離れて掘りながら見ていると、メバルさんが魔法で水をぶっかけてキノコが凹む。まぁ、攻撃魔法だから凹むのは当然なんだけどね。木っ端微塵じゃなければ採取してもいい。ただ、オニフタケ:品質低となるだけで・・・。流れている水を掬って掛ければいいんだけど、そこにもモンスターがいるし、量を取ればどうにかなると思う。
「コレはダメなやつですね。」
「毎回コレをするのはちょっと骨が折れるなぁ〜。」
「ジメジメしてるところでひざまずくのも、なんか嫌ですね・・・。」
「ツキさ〜ん。結果は悪いキノコでした〜。先に行きましょ〜う。」
「了〜解〜。」
結構掘って宝石やら化石が出たからあとで分配するかなぁ。まぁ、それはいいとして華澄が帰ってないからメッセージを送ったけど、やっぱり反応がない。今が20時半だから、どこかで休憩とってメッセージを確認するくらいの時間はあると思うんだけどなぁ〜・・・。
ただまぁ、お互い子供でもないし俺と華澄の関係を言えばベタベタするようなものでもなかった。なんと言うか・・・、他の人から見るとちょっと変わってる感じ?お互いの仕事もプライベートも大切にする。
大切にするからこそ、予定は事前に話して合わなければ仕方ないで済ませるし、合ったらあったで全力で遊ぶ。多分、お互いに無理がなくていい空気感だったから付き合っていた・・・。いや、いる?娶られた?なんにせよ、今も一緒にいて嫌じゃないからいいんだけどさ。
「ん?ツキさんどうかしたか?」
「いや〜・・・、配信アーカイブ見てもらったら分かるんですけど、今私って病院じゃないところに連れといるんですよ。で、その連れが用事で外に出て帰って来ないからどうしたのかなぁ〜っと。」
「それは連絡を取ればよいのではないか?」
「メッセージに反応ないし、電話にも出ないから考えてんだよ妖精王。ほら、妖精王だってティターニアと連絡取れなかったら心配にならない?」
「ティターニア・・・。ティターニア、か。」
「ほら、妖精王だって心配なんじゃん。」
「契約者とは別の心配だ。」
「別の心配?なに?また浮気?それとも痴話喧嘩?」
「我はオベロンとは違う。」
「えっ!違うの!?てっきりシェイクスピアの引用系の奴だと思ってたのに・・・。」
「俺もそう思ってたぞ?だからティターニアなんだろう?」
「やっぱりハヤトさんもそう思うよね。イサキさんとメバルさんはどう思う?」
「えっと、オベロン?」
「シェイクスピアは知ってますけど、文学までは・・・。確か真夏の夜の淫夢でしたっけ?」
「そんな話はない!」




