157話 雪が凄い吹雪いてる
「・・・。木本さん、帰りましょう。」
「防寒着なら後ろだ。」
「いえ、異常事態なので出直しを・・・。」
「その異常事態を知ってっから出張ってんだよ!装備品も積んだ、防寒着もある。なら、残りは?」
「私と木本さんの運が悪い。」
「・・・、座敷童子かよ・・・。」
「そうじゃな。」
「っ!やれ!」
知らん声、いないはずのなにか、そして2人いる密室。ちっ!それが男女で夜なら家だ!国有林に分け入って早々にずいぶんな歓迎だなぁ、おい!
「ほひょ!」
「待て腐れジジイ!」
背後から声がした。一瞬前に見たバックミラーには空の後部座席、次に声がして見ればどこにでもいて、若干顔のいいしかし、なんの特徴もない老人。振り向きながら柊が伸ばす手をスルリと抜け、ぬらりひょんの野郎は窓から外に抜けた出やがった・・・。
・・・、妙だ。街にいるなら分かる。居酒屋で知らん間に座って酒のん出るっつうシチュエーションも分かる。だが、こんな人気も民家もないところに、なんでコイツは現れやがった・・・?
開いた窓から流れ込んだ冷気を遮るために窓を締め、車のドアを開けようとする柊を急いで止める。なんだ?なにか俺達は見落としたか?
「出るなぁ!柊!!」
「しかし、殴らないことには・・・。」
「絶対に出るな。」
「なんじゃ?こんのか?」
「・・・。お前、なんに使われてやがる?」
「さぁ?なんといっとる?ちと、耳が遠くての。」
「ちっ!」
「防寒着を着て殴・・・。」
「だから出んなっつってんだろ柊ぃ!いいか?ここは山だ。何度も教えた普通の山ならいい。だが、妖怪がいる山は異界だ。俺達はいま、迷い家に強制的に閉じ込められてんだよ!」
「ならどうしますか?朝まで持ちこたえて逃げますか?一晩程度ならどうとでもなりますが。」
「分かってるよ、そんなこたぁ。だが、なんの備えもなくどうにかなるもんでもねぇ。俺は一旦後部座席で資料を漁る。お前はぬらりひょんを睨んどけ。」
闇雲に走って引き返せば?無理だな。既に雪とぬらりひょんの野郎のせいで道は分からねぇ。普段なら走り慣れた道でどうとでもなるんだろうが、確実にぬらりひょんの野郎が邪魔してきやがる。なんだ?ぬらりひょんの野郎はなにを狙ってやがる?
「分かりました・・・。ちっ!雪が・・・。最悪、外に出て排気口の確保は?」
「それも俺がやれと言うまでは待て。」
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「柊さん帰ってきませんね。」
「仕事が長引いてるんじゃありません?木本さんもいるから大丈夫だとは思いますけど・・・。」
ハヤトさん達とクエストに向かうとはして、一旦夕食やらを済ませてからやろうと、こうして敷田さんとご飯を食べてるけど、まだ華澄が戻らない。一応、先にご飯食べるとメッセージも送ったけど、なんの反応がないから忙しいのかな?
「この辺りは木本さん達もよく知ってるみたいですし、鞍馬さんとかもいるから大丈夫でしょう。」
「ですね。私達がなにかするにしても、知らない土地で吹雪の山やら街を歩き回るのは逆に迷子やらの危険がありますよ。多分、事務所でなにか資料整理とかしてるんでしょう。」
そうは言いつつも伝えに来た木本さんが急いでる感じがしたから、ちょっと不安もおぼえる。まぁ・・・、急ぎの資料作成とかだと俺達に手伝える事はないんだけどね。
「そう言えば三枝先生の方はどうでした?」
「今回のデータをある程度送ってディスカッションしましたけど、やはり不明点は多いですね。最大の問題というか方向性というか・・・、空腹限界時をどうするのか?やはりそこが焦点になってきます。」
「やっぱりですか・・・。単純に食えば大丈夫だとは思うんですけど・・・。」
「それはそうなんですけど・・・。なら、食べることができなければどうなるのか?そこが問題で、餓死なのかそれとも・・・。」
敷田さんがいい淀むけど、その先は想像できる。獣のように走り回ってなにかを食おうと暴れるのか・・・。いや、それはまだ優しい。虫を食うとかネズミやら鳥を取って食うと言うのも、嫌なのは嫌だけどまだ我慢できる。
本当の最悪は人を食い物として見ること。昔雪山で探検隊が遭難して、食い物がなくなって人を・・・。と、言う映画を見たことがある。見た時の感想をいうなら、仕方がないとか供養して手を合わせて生き残ってから、また墓に手を合わせるなんて考えていたけど、それが当事者となったらどうだろう?
納得して食べるのか?生きるために食べるのか?それさえ考える間もなく、気が付いたら食べていたら・・・?流石にそれは許容できない。そこに俺の主体性がない。なら、今の俺にできることは・・・。
「無闇矢鱈と僻地に行かない?」
「流石に知らないところに行かれると、回収も難しいですね・・・。」
「回収?人を襲うって話なんじゃ・・・。」
「そこが分からないんですよ。流石に今すぐ餓死するまでご飯抜き、なんていう事はしてもらいたくありませんし。私や主任が話したのは、最終的に残るものです。」
「最終的に残るもの?」
「ええ。マリちゃんは桃を出して種が残った。今回は指輪を出そうとして指輪が出た。旅館なので明確な分析は帰ってからになりますけど、仮に・・・。仮にですよ?マリちゃんの選択したルールがゲームに沿ったものだとして、復活の挙動ってどうなると思います?」
「復活の挙動・・・。ナイトメアキャッチャーって言う1人1つだけ持てる復活アイテムを自動で使いますね。オン・オフはできますけど。」
「そこですよ。ナイトメアキャッチャー、日本語に直すと悪夢を捕まえる。色々な考えがありますけど、人はおしゃべりな夢遊病者で死ぬ前のあいだ、ずっと夢の中を歩いている。それとは別に、今が夢の中で死んだらそこが目覚めで新しい世界に入る。つまり、悪夢を捕まえるって言うのは文字通り子を捕まえて、なかったことにするとも考えられるんですよね。ゲームでの挙動もその場での復活ですし。」
「・・・。こう・・・、その話だけ聞くとニョッキリ生えてきそうですね。」
「樹木葬とかはそんなイメージの人が多いですよ?ただ、よく覚えておいてください。私も電気精神体とかは初心者ですけど、脳波で挙動するアバターを明晰夢、或いは自己が連続した幽霊とするなら、帰るべき肉体がある限り現実世界には多分、帰ってくると思います。」
「なるほど・・・、確かに私は帰ってきた。いや・・・、ものぐさが祟って連れてきた・・・?」
確かに俺は俺として現実世界にいる。なら、ツキは?ツキは俺のアバターで、ゲーム世界で3年間走り回って動かし回って、冒険してフレやらと知り合った存在。言ってしまえば本当にもう1つの肉体と言うか自分とも言える。
ただ、そこには壁があって電気世界と現実世界と言う隔たりがある・・・。いや、あった?座敷童子大先生は俺が境界を跨ぎまくって恐ろしい存在と言っていたけど、確かに木本さんの説明を聞くと電気精神体にとって俺はかなりヤバい。なにせ隔たりをぶち抜いて、現実世界に落とし込んで固定できるんだし・・・。
やっぱり桃やらカボチャは簡単に使わないほうが多分いい。なにせ電気精神体側は曖昧が好きでAIが嫌いで、下手に定義とかされたくないんだし。
「「ごちそう様でした。」」
2人での食事を終えてそれぞれの部屋へ。明かりがついていればと思ったけど中は暗く華澄はまだ戻っていないようだ。まだ18時半頃だし、窓から外を見ると雪も凄いから事務所に引きこもってるとか?4WDで木本さんは迎えに来たけど、流石に吹雪の中を車で走るのは危ないし・・・。
「21時頃まで待ってみて、それでも帰らなかったらもう1度連絡を入れてみるかなぁ。あんまりメッセージ送るとじゃまになるだろうし。」
ハヤトさん達との待ち合わせもあるので、ゲームにログイン!アレイスターで分かれたのでそのまま一旦領地に向い、妖精王と少し話してからアレイスターのポータルを使って、集合場所のトルネコへ。地形的な場所を言えばジャイロから南側、更に森を進んで若干湿地帯っぽくなったところにトルネコはある。
「そうはいってもクリスマスムード一色だから、半袖短パンのサンタコスしたNPCがウロウロしてるんだよなぁ〜。」
「人族の催しだろう?我としては妖精郷で静かにフェアリーダンスを見ながらパーティーの方がいい。」
「ん?妖精郷でもパーティーするの?」
「妖精は娯楽が好きだ。」
赤い服に白い内張、クルクル腕枕すればその内張が見えてサンタコス。ただ、とんがり帽子の上にねじり鉢巻きするのは意味があるんだろうか?ラーメンが有名と言いつつも、食事系のラインナップは豊富で、『早い、安い、旨い!』と書かれたプラカード持った人もいる。まぁ、デイリーミッションが店の宣伝なんだろう。
そんないい匂いがしつつもシダ植物っぽいものが巻き付いたり、街路樹としてヤシの木っぽいものが生えている街中を進み待ち合わせ場所へ。神族中心の街ということもあり、エルフやら半裸でテルマエっぽい服着た人、或いは腰巻きに棍棒から果ては着物を着た人等々、古今東西の神様関係の衣装のNPCが多い。
ちなみに、大体西洋風の神族はヒゲが生えてる割合が高いと言うか、偉くなればなるほどヒゲを蓄えるらしい。まぁ、神族と言う種族なので本当に神様なのかは分からない。王様もお忍びでラーメン食ってたりするし、なによりその王様のスタイルが腰巻きスタイルでガチムチマッチョの大男である。
「おっまた〜。と、言いつつも予定時間内に参上仕る!」
「おお!来てくれたか2人共。とりあえず先ずは中に入っから2人を紹介しよう。」
受注所の扉を抜けて中に入れば、時間帯の関係もあって人が多い。確かに季節クエストは貢献度がそこそこ高いからなぁ〜。無料ガチャ回したい人はガンガンクエスト回して貢献度稼いで、来月貰えるポイントで一気に引くんだろう。と、言うか妖精王がめっちゃ見られてる。
ユアンさんがメインコア出ないって言ってたし、
「助っ人の助っ人って大丈夫なのかな?」
「そこまで変な人を連れてくるとは思わないけど・・・、そもそもハヤトって人とは今日知り合ったから分からないよ・・・。ハヤトさんも濃い人だけど・・・。」
「確かに悪い人じゃなさそうだけど濃い。でも、緊張するなぁ・・・。私のレベル低いからやっぱり辞めるとか言われないかな?レベル82だし、そこまで魔法とかアーツがあるわけでもないし・・・。」
「どうだろう?そこはもうハヤトさん次第じゃない?流石に現状を話してるだろうし、それで来てくれる人なら多分大丈夫?」
「お〜い、2人共〜。」
壁側で話している2人に向いハヤトさんが声をかける。見た感じ魔族と神族?片方は角と尻尾があるから分かるけど、もう1人は何族か分からない。まぁ、アバター作る時に種族隠しなんかもできるしなぁ。ただし、供物族は除く。あそこは単眼やらロボっぽさがアイデンティティだし。
「ハヤトさん!と・・・、えっ?モンスター?亜人族?」
「我はモンスターではない。妖精王である!」
「亜人族のツキで〜す。ほら妖精王、2人が訝しんでるから。この出会いを祝して大麻を振っておきましょう、フリフリと。」
「あっと・・・、えっと・・・。濃い人達ですね?」
「そうか?」
「そうですかね?」
「我は薄味が好きだ。」




