7・お茶会当日!
お茶会当日。
都合よく嵐が来て、お茶会が中止にならないかしら……と期待していたが、当日は雲一つない快晴だった。
「最悪……」
でも運の悪さは前世からだったので、今更クヨクヨしても仕方がない。
「どうしましたの? なにか考えごとをしているようですが……」
肩を落としている私を気遣って、一人の女性が声をかけてくれる。
彼女の名はオレリア。
見事な縦ロールの髪型が特徴的で、上品な喋り方をしている。
私と同じ貴族で、彼女は男爵家の一人娘。
幼い頃から近所付き合いをしている関係で、私の数少ない友達の一人だ。
「え、ええ。なんでもないわ。ちょっと緊張しちゃっただけ」
そう言いながら、私は辺りを眺める。
お茶会はアシャール公爵家の中庭で行われた。
中庭だからといって、舐めることなかれ。そんじょそこらの家より広い。青々しい芝生は太陽の光を受けて、輝いているかのよう。
やはり公爵家ともあったら庭師の方も一流なのか、そこは一種の楽園のようだった。
そして……周りには人人人人!
人が多すぎて目が回っちゃう!
ほとんど令嬢だけど、中には男も混じっている。婚約者候補を探すためのお茶会とはいえ、さすがに令嬢だけだったら露骨すぎると思ったのだろう。
彼ら・彼女らは思い思いに会話に花を咲かせていたり、出されたお菓子を味わっていた。
「クラリス様がそう言うのも仕方ないですわね」
オレリアがこう続ける。
「さすが公爵家ですわ。ただのお茶会なのに、まるでパーティーみたい。わたくしみたいな貧乏男爵家では、到底実現出来ません……」
「オレリアもそう思うんだね」
「もちろんです」
とオレリアは首を縦に振る。
元気で可愛くて……良い子だ。
高飛車な私なんかと友達になってくれるし、彼女の人柄は信頼している。
しかしそんな彼女も前世(正しくは死に戻ったわけだから、前世と言うのはおかしいかもしれないけれど)で、私が断罪された時には「友達だと思ってたのに……」と顔を青くしていた。
それもこれも、あの泥棒猫が私の友達にまで悪い評判を広げたからだ。
思い出す度に胸がムカムカする。
「でも緊張していると言う割には、今のクラリス様はとても落ち着いているようにも見えますわ」
「そ、そうかな?」
まあ……体は十歳でも、中身は十八だからね。
フェリクスと婚約してからは、こういうお茶会やパーティーにお呼ばれする機会は多かったし。
ゆえに今更、これくらいのお茶会で慌てふためいたりしないのだ。
「さすがクラリス様ですわ! 伯爵令嬢となれば違いますね。わたくしも早く、クラリス様のようになりたい……!」
うっとりした様子で私を見るオレリア。
うーん……この子、何故か私に憧れている節があるのよね。私が使用人に厳しくしているのを見ても「毅然とした態度ですわ!」と目を輝かせてくれていたし。
「あっ、見てください。フェリクス様ですわよ」
オレリアがそう言って、視線の先を指差す。
そこには十歳のフェリクスが中庭に出てきて、周囲の大人たちと会話を交わしているところだった。
中庭にいる令嬢の視線が、一斉にフェリクスの方を向く。
表面上は取り繕っているけれど、私からしたらまるで獲物を狙う肉食獣のように見えた。
「フェリクス様……やはりカッコいいですわね」
「…………」
「クラリス様?」
「な、なんでもないわ」
「やはりさっきから様子がおかしいですわ。なにか悩み事でも……」
オレリアが心配そうに私を見る。
いけない。フェリクスに気を取られてしまって、つい上の空になってしまった。
それに、十八歳になった時のフェリクスの姿を知っている私からしたら、十歳の彼にはカッコいいというより『可愛い』という感想を抱いてしまう。
そんなことをオレリアに言えるはずもなく「大丈夫よ」と答えておいた。
「それだったらいいのですが──わっ!」
オレリアが目を見開く。
「み、みなさん! フェリクス様の元に向かってますわ!」
彼女が言うように、令嬢たちがこぞって彼の元へ殺到している。
少しでも他の令嬢と差を付けようとしているのだろう。
だが、悲しいかな。
そうすることによって、他人と同じような行動を取ってしまっている。まあだからといって、行かないという選択肢は普通有り得ないんだけれど。
「わ、わたくしたちもご挨拶に行くべきなのでしょうか!?」
とオレリアが私を見る。
「そうね……オレリア、行ってきなさいよ」
「クラリス様はどうされるのですか?」
「わ、私はいいかなー。フェリクス様となにを喋っていいか分からないし」
私は作り笑顔を浮かべる。
挨拶? そんなことしたら、フェリクスと接点が出来るじゃない!
もしなにかの間違いで彼に気に入られたら、ジ・エンドだ。
しかし。
「なにをおっしゃっているんですか!」
オレリアが語気を強くして、私の腕を掴む。
「クラリス様、ずっと言ってたじゃないですか。『フェリクス様のような素敵な人と結婚したい』……って。今はその千載一遇のチャンスですわ!」
「そ、それはそうかもしれないけど……やっぱり私じゃ、フェリクス様にふさわしくないかなーって」
「どうして弱気になっているんですか!? クラリス様らしくありませんわ。さあ!」
オレリアが強引に私の腕を引っ張る。
「ちょ、ちょっと待ってってば、オレリア!」
「クラリス様の美しさは、わたくしが保証します! きっとフェリクス様もクラリス様のことを好きになるはずですわ!」
好きになられたら困るんだってば!
だけどよくよく考えてみれば、お茶会に招かれておきながら、挨拶の一つもしないのはそれはそれで失礼かもしれない。
目立つ理由にもなる。
このお茶会で『空気』に徹しようとしている私にとって、それは不都合だ。
挨拶くらいならいいか……。
それくらいなら、印象に残らないと思うし。
やがて彼のすぐ近くまで行くと、オレリアは足を止めてくれた。
他の令嬢がフェリクスを囲っているため、幸運なことに、彼の意識はまだ私たちに向いてない。
「──はい、そうですね。立派な父上の跡を継ぐため、日々精進中です」
と彼の声。
ふんわりとした風に乗って、私の耳に入る。
「──っ!」
手を伸ばせばフェリクスに届きそうな位置。
そして彼の優しそうな声。
それらの要素が絡み合い、過去の映像がぶわーっと頭の中に流れ込んできた。




