46・教会の支援活動
そして一週間後。
献身部による、教会の支援活動の日がやってきた。
「この度はお忙しい中、ご足労いただきありがとうございます」
教会に着くと、優しそうな神父さんが私たちを出迎えてくれた。
「いえいえ。こちらこそ、なかなか来ることが出来ずにすみません」
「なにをおっしゃいますか。それよりも、ネコナシュリア学園の学生さんに来ていただいて、光栄です。今日はよろしくお願いいたします」
ペコリと頭を下げる神父さん。
優しそうな部長と神父さんの雰囲気が相まって、早くも教会は穏やかな雰囲気に包まれていた。
「それで……確か今日は子どもたちに、勉強を教えるのがメインでしたね?」
いつもと変わらない様子で、モニカさんが聞く。
しかし神父さんはちょっと困った様子で、
「はい……そのつもりでした。ですが、不測の事態が起こりまして」
「不測の事態?」
「はい。実は……昨日、作業しているシスターが脚立から落ちて、腰をやってしまいましてね。本人は働く気でいるんですが、大事を取って休ませました」
「それは正解ですね。無理に働いて、余計に腰を悪くしたらそれこそ大変ですから。そのシスターさんは大丈夫なんですか?」
「ええ、本人からは問題ないとの言葉を頂いています。しかし……そのせいで、あることの開催が危ぶまれているんです」
「それは一体……?」
「お悩み相談です」
モニカさんの質問に、神父さんがそう答える。
「お悩み相談……ですか。懺悔室のような仕組みでしょうか?」
「懺悔室ほど、重い悩みではないんですけどね。そこまでには至らない悩みを抱えた市民の方々が教会に来て、私やシスターに相談するのです。私だけでなんとか対処しようと思っていますが、果たしてどこまでやれるのやら……」
くたびれた様子で神父さんが言う。
慢性的に人手が足りないと言っていたし、彼の心労もなかなかのものなんだろう。心中お察しする。
本来、こういうのは元々教会に所属している人たちにしか出来ないことだと思うけど……。
「よければ、そちらもお手伝いさせていだけませんか?」
と部長が火中の栗を拾いにいった。
「い、いいんですか?」
「もちろんです。まあ、僕みたいな若輩者が市民の方々の悩みを解決出来るのか……と言われると、また微妙なところですが」
「いえいえ、とんでもありません。それに悩みというのは人に打ち明けるだけで、その人も気分が軽くなるものですよ。お願いしていいでしょうか?」
「はい」
快諾する部長。
部長は包容力を感じさせる男性だ。
どんな内容を喋っても、優しく包み込んでくれそう。適任だろう。
「ですが、ボクだけでは心配ですね……モニカくん。君もボクの補佐に付いてくれますか?」
「私……ですか? 私、こういう悩み相談なんか受けた経験ないんですけど」
「だったら、してみるといいでしょう。それに……ボクの見立てでは、君はこういうのに向いていると思います。いかがですか?」
「分かりました。不安ですが、部長がそう言うなら……」
モニカさんも渋々了承した。
少し付き合ってみると、良い人だってすぐに分かるけど──部長に比べたら、モニカさんは冷たい印象を抱かせる女性だ。
彼女自身が言う通り、初対面の相手の悩みを聞くのは不向きなように思える。
しかしモニカさんとの付き合いが長い部長が言うことだ。彼の言うことを信じよう。
「じゃあ……私たちは子どもたちへの対応ね」
ようやく私たちの話だ。
「はい、お願いします。子どもたちは優しい子ばかりです。きっとあなたたちを受け入れてくれると思いますから」
「わたくし! 子ども、大好きですわ! 楽しみです!」
早くもテンションが高いオレリア。
「フェリクスはどうなの?」
「うん、僕も子どもは好きだよ。国の将来を担う宝だからね。しっかりと勉強してもらわないと」
フェリクスは気合十分。
彼が子ども好きだと言ってて、素直に納得が出来る。
子どもたちに対しても紳士的に優しく指導している彼の姿が、すぐに頭に浮かんだ。
問題は……。
「ヘルムートは?」
「俺は嫌いだ」
やっぱり……。
「き、気に入らないことがあっても、子どもたちを殴ったりしないでよね」
「おいおい、俺を魔物かなにかだと思っているのか? 子どもは俺の言うことを聞かないから、嫌いなだけだ。ちょっとムカついただけで、子ども相手にムキになるほど、俺もバカじゃない」
「そ、そう」
彼がフェリクスみたいに子どもに優しくしている光景が、パッと思い付かない。
まあでも、いくらヘルムートでも、子どもと喧嘩することはないだろう。そんなことをしたら、私の『ヘルムート好感度アップ作戦』も気泡に帰す。ここは彼を信じよう。
「は、はは、頼もしいですね」
ヘルムートの言葉を聞いて、震えた声を出す神父さん。
しかし王子殿下である彼を、直接嗜めるわけにもいかず、その笑いは引き攣っていた。
「みなさーん! 今日はネコナシュリア学園の学生さんが、勉強を教えに来てくださいました。みなさん、頑張ってお勉強しましょうね」
「「「はーい!」」」
シスターが呼びかけると、孤児のみんなは元気よく返事をした。
か、可愛い……っ!
歳としては、五・六歳の子どもが多い気がする。どうしてこれくらいの子どもって、こんなに可愛いのかしら。
雰囲気は孤児院といよりも、幼稚舎みたい。
しかしあれから神父さんに教えてもらったけど、ここは十歳になると自動的に卒業となって、養子として引き取られていくらしい。
なので必然的に幼い子どもが多くなってくる。
子どもたちを何人かのグループに分け、それごとに勉強を教えていくことにした。
「そうだね……だったら、君の好きな食べ物を教えてくれるかな?」
「うーん、蜜柑かな?」
「だったら蜜柑に置き換えてみよう。君は蜜柑を三個持っているんだけど、シスターから二個もらったら……」
「ぜんぶで、五つになる!」
「正解!」
フェリクスがそう言って、子どもの頭を撫でてあげる。
予想通り、優しいフェリクスは子どもたちに人気のようだ。
そしてそれは彼だけではない。
オレリアも楽しみながら勉強を教えているのが子どもにも伝わっているようだし、ヘルムートも意外と教えるのが上手い。
どうやら、最初の私の心配は杞憂だったらしい。
私も私で、子どもたちの可愛さに癒されながら勉強を教えていったんだけど……どうしても気になる男の子がいた。
その子は歳は十歳くらいに見える。
ここの中では比較的、歳上の方だ。
そして彼は子どもたちの輪に入らず、一人で退屈そうに頬杖を突いていた。
教科書に視線がいっていないのが丸わかりだ。
勉強が嫌いなのだろうか。
うーん、どうしたものか……。
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