45・献身部は今日も変わらず平和
奉仕活動などを行い、献身的な精神を学ぶ部活。
それが『献身部』だ。
私は将来的にロレッタやフェリクスが敵に回った時のために、一人でも多くの味方を作ろうとした。
そのために献身部の活動は使えると思ったのだ。
私みたいな貴族令嬢が奉仕活動をするのよ? 好感度爆上がりである。
……と、ちょっと打算的な考えに罪悪感を覚えつつも、なにもしないよりは社会のために役立つだろう……と自分に言い聞かせている。
「期末テスト、おつかれさま。クラリスくんはまた、学年一位の座を射止めたみたいですね」
献身部の部長が紅茶を飲みながら、私を労ってくれる。
「クラリスは努力家ですからね。普通の人なら怠けてしまうところを、何十倍も努力出来る。私も見習わなければなりません」
とモニカさんは表情を変えずに、眼鏡を中指でくいっと上げた。
この献身部には私たちが入る前よりも、元々部員が二人いた。
それが部長とモニカさんである。
部長は優しげな雰囲気を纏っている男性。
一方、モニカさんは三つ編みで眼鏡をかけている真面目そうな女性だ。
ちなみにどちらも三年生。
入部してからもう、三ヶ月くらいは経過しようとしているが、未だに部長の名前を知らない。
教えてもらおうとしても、「名乗るほどの名前じゃないから」と盗賊に襲われた商人を助けて、颯爽とその場を去るヒーローみたいなことを部長は言う。
でも卒業までに部長の本名を知ることが、私の密かな目標でもあった。
「部長とモニカさんはどうだったんですか?」
フェリクスが二人に質問する。
そして現在、献身部には部員が六人。三年生は部長とモニカさん。
そして一年生は私とフェリクス、オレリア……そしてヘルムートだ。
ヘルムートは若草祭が終わってから入部してきた。
当初は「絶対に入らない」と言っていたので、どうして急に気が変わったのかと聞いたら「楽しそうだったから」と答えが返ってきた。
いまいち腑に落ちない答えではあったが──そんな今の彼は、窓際の席に座って欠伸をしている。
この男、献身部に入ったというのに、まともに活動しない。
たまにふらあっと部室に来ては、そこにあるお菓子を摘み食いした後、下校の時間が来ればそそくさと帰ってしまう。
こいつ、なんのために入部したんだ……とますます謎は深まるばかりだが、どうやら当の本人はこれでも楽しんでいるらしい。彼の真意が相変わらず読めない。
「ボクはいつも通りでしたね」
……あっ、そうそう。今はヘルムートのことより、部長とモニカさんだわ。
「丁度、総合得点のクラス平均でした。いやはや、フェリクスくんやクラリスくん、ヘルムート殿下と比べたら不甲斐ない成績でお恥ずかしい」
「あれ……? 部長。中間テストもクラス平均ぴったりと言っていませんでしたか?」
とオレリアが首を傾げる。
「中間テストだけではありませんよ」
モニカさんがそう口を挟んできた。
「部長、一年生からずっとクラス平均ぴったりなんです。全く……どうしてこんな時にも目立たない地味な成績なのか……」
「ははは、モニカくんは手厳しいね」
部長が苦笑する。
一年生からずっとクラス平均ぴったり……?
それって逆にすごいんじゃ?
まさか狙っているんじゃ……と思って問いただそうとするが、部長のニコニコした顔を見ていたら、何故だかどうでもよくなってくる。
以前から感じていたけど、底が知れない先輩である。
「私もクラリスたちに比べたら、大したことありません。せいぜい、上から数えて二十番目くらいでしたから」
「それでもすごいですよ。一学年、三百人くらいはいますからね。二十番目でも十分誇るべきことです。君もそう思うだろ? ヘルムート」
「いきなり俺に話を振るな」
溜め息を吐くヘルムート。
「そうだな。俺から見たらまだまだだが、凡庸な生徒の中では比較的マシだろう。モニカと言ったな。大したものだ。褒めてやる」
「ありがとうございます」
モニカさんは恭しく頭を下げた。
……こうして見ると、どっちが年上なのか分からなくなってくるわね。
だけどヘルムートはたとえ相手が先輩だろうとも、敬語を使わない。
だからといって、下に見ているわけでもないと思うが……たまに部長とモニカさんが怒り出さないかとヒヤヒヤする。
まあ二人とも人間が出来てるし、こんなことで怒らないけどね。相手は一応、王子なんだし。
「あっ、そうそう。せっかく、みんなが揃っているんです。君たちに話をしたいことがあります」
「話?」
「はい。まずはこれをご覧ください」
そう言って、部長が引き出しから一枚の紙を取り出す。
紙の一番上には『教会への支援のお願い』と書かれていた。
「どういうことでしょうか?」
オレリアが目を丸くしながら、部長に問う。
「ここに書かれてある教会は慢性的に人手が足りていないようでね、たまにこうして献身部へ協力の要請がくるんです」
「献身部……にですか? いくら奉仕活動を主にしているとはいえ、一生徒にこんな依頼がくるのは違和感がありますが……」
「なんでも、献身部が今よりもっと活気があった頃からの伝統らしいです。しかし……しばらく、この献身部にはボクとモニカくんしかいませんでした。依頼も急にくることが多く、毎度行けるわけではありません。今回も教会で働いているシスターの方が体調を崩したみたいで、今朝に話がきたんです」
「なるほど……だけど今は私たちがいる。これを機に教会への支援活動をしようというわけですね」
私の言葉に、部長は首を縦に振った。
「そういうことです」
「ですが、支援活動とはどのようなものなのでしょうか? わたしくし……宗教に関して、あまり造詣が深くないのですが……」
とオレリアは不安そう。
しかしそんな彼女の不安を払うように、部長は優しげな声音でこう続けた。
「この教会は孤児院も兼ね備えています。ボクたちに求めていることは、孤児たちに勉強を教えたり、一緒に遊ぶこと──らしいです」
「そうなんですわね。それなら……わたくしにでも出来そうですわ!」
パッと表情を明るくするオレリア。
「それで……どうしますか? あなたたちもテストが終わって、疲れていると思います。無理にこの依頼を受けなくてもいいと思いますが……」
部長がみんなに問いかけるが、私の心は既に決まっている。
「ぜひ、行きたいと思います」
困っている教会の人を助ける、素晴らしい活動だ。
しかし私にはもう一つの考えがあった。
この活動をすることによって、ヘルムートの好感度は上がらないだろうか?
教会を訪れ、孤児に勉強を教える。
まさにこれぞ、社会貢献って感じ。
子どもたちに優しいヘルムートが周知されれば、みんなの彼に対する視線も変わるかもしれない。
それは今までの彼のイメージからとは、全然違っているだろうからね。
……という打算的な考えだったが、
「さすがクラリス。迷いがないね。うん、僕も当然その活動に参加させていただきたいです」
「慈悲深いクラリス様らしいですわ。わたくし、クラリス様からもっと色々学ばせてくださいまし!」
フェリクスとオレリアは私の言葉に感動しているようだった。
「ヘルムート、あなたも行くわよね?」
「俺か? どうしようか……じゃっかん面倒臭」
「行・く・わ・よ・ね?」
「お、おう」
私が威圧すると、気押されたヘルムートは渋々頷いた。
「後輩たちの献身的な精神に感謝いたします。では、教会の方にはボクから返事をしておきましょう」
部長は笑みを浮かべて、私たちを眺めた。
「予定通りに進むなら、日にちは一週間後になります。それまで各自、テストの疲れを癒してください」
「一週間後……」
部長の言葉に、何故だかフェリクスは考え込むように俯き加減になった。
「どうしたの? なにか予定があるの?」
「え……? 君は覚えていないのかい?」
「私?」
「だってその日は──いや、覚えてないなら言わなくていいか。それならそれで、ビックリさせられるだろうし」
……?
フェリクスは一人で納得しているようだが、私の方は疑問が解消出来ずにむず痒い。
一体なんだというのだ。
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