41・寝付けない夜には
「もちろん、みんなの部屋も用意してるわよ」
公爵家のフェリクスや王族のヘルムートには及ばないが、私の屋敷も無駄に広い。だから使っていない部屋もたくさんあるしね。
「私はオレリアと、ここで一緒に寝るわ。色々と話したいことも多いし」
「ふふっ、夜通し喋りましょうね!」
ウキウキ気分のオレリア。
「フェリクスとヘルムートには別々の部屋を用意してるわ。それでいいわよね?」
「うん、問題ないよ。ありがとう」
「クラリスはオレリアと一緒か……なら、問題なかろう。フェリクスと二人きりの部屋に……と言ってたら、全力で止めていたぞ」
「み、みんながいる前でそんなこと、するわけないじゃない」
ヘルムートがまた変なことを言い出すから、私もたじたじになってしまう。
「僕はそれでもよかったんだけどね。なにせ、僕とクラリスは婚約者同士なんだし」
とフェリクスが私ではなく、何故かヘルムートの顔を見て言った。しかも『婚約者』という部分を強調して……だ。
それに対して、ヘルムートはむっとした顔。
彼の感情が読めない。それに先ほどのような不穏な空気も感じ取った。さっさと部屋に移動させよう。
「さあ、さあ! ここからは女子だけの時間よ! 男子は部屋から出ていきなさい」
「そうだね。おやすみ、クラリス。オレリアも……クラリスをちゃんと見張っておいてくれよ」
「そうだぞ。もし部屋から出ようとしても止めるんだぞ。こんな夜遅くに出歩いたら、野獣に喰われるかもしれん」
「かしこまりました! クラリス様の身の安全は、わたくしが保証いたしますわ!」
二人の言葉に、オレリアは敬礼で答えた。
そしてフェリクスとヘルムートも無事(?)に部屋から去っていた後、私とオレリアはある服に着替えていた。
「こうして、クラリス様と喋るのはいつぶりでしょうか? わたくし、昨日クラリス様からこのお話を聞いてから、楽しみで夜は八時間しか寝れませんでしたわ!」
「私も楽しみだったわよ。学園に入学してから忙しくって、こういう時間をなかなか取れなかったもんね」
と私は微笑む。
オレリアの家族の人も、私のことを信頼してくれている。
ゆえに小さい頃から、彼女が私の家に泊まりにくることもしばしばだった。
そしてこういう時──私たちは決まってモコモコのパジャマに身を包み、眠くなるまで夜通し話し続けるのだ。
オレリアのパジャマは兎をモチーフにしているらしく、頭の耳がピーンと立っているのが可愛らしい。
一方の私はペンギンのパジャマだ。フードの部分がペンギンの顔となっていて、間抜けな目元がとってもチャーミング。
家ではあまりこういうのは着ないんだけど……私だって女の子。こういう女の子らしくて可愛らしい服を着たい。
だけど一人で着るのも寂しいし、両親やリタに見せたら色々と騒がしくなりそう。
というわけで、これはリタとお泊まり会をする時だけに着る特別な服となっている。
「ねえねえ、オレリア。あなた、気になっている男の子とかいないの? 前、実家から釣書を見せられたって言ってたけど……」
「そうなんですよ……」
オレリアが頬に手を当てて、困り顔になる。
「お父様とお母様は、わたくしに早く婚約者をあてがいたいらしいんですけれどね。でも、どれもピンと来る方じゃなくて……」
「そうだったのね」
「もちろん、わたくしも貴族ですわ。いつかは嫁がないといけない身であることは、重々承知しています。しかし結婚すれば、クラリス様の家でメイドが出来なくなることがネックなんです」
「だーかーら! どうして、オレリアがメイドをしなくちゃいけないのよ!」
この子……学園に入ってから委員活動として、『掃除係』になったんだけど、一人ですごい張り切っているらしいのよね。
どんなことでも目を輝かせて「これも勉強ですわ!」……って。
そんな前向きな彼女に、周囲の人たちもほっこりしているらしいんだけど、その張り切っている理由が「私の家のメイドになりたいから」と知ったら、どんな顔をするかしら?
……怖くて言い出せないわね。
「まあ、そう焦らなくてもいいんじゃないかしら? 貴族の結婚とはいえ、好きな人同士で結婚するのがお互いにとっていいでしょうしね。のんびりいきましょう」
「ですわね!」
オレリアがパンと手を叩く。
「それに比べ……クラリス様は羨ましいです」
「私?」
「ですわ。フェリクス様とあんなに愛し合っていて……理想のカップルです」
いきなり私の話になったものだから戸惑う。
「わ、私のことはいいじゃない」
「よくありません! どうしてクラリス様は自分のことになると、途端に喋らなくなるんですか!」
だって恥ずかしいもの。
「フェリクス様となにか、進展はありましたか?」
「うーん、ないわね。一応、卒業したら正式に結婚しようって話になっているけど……具体的にはまだ」
「そうなんですわね。わたくしも結婚式に呼んでくださいね! 盛大に祝いますわ」
「もちろんよ。じゃあ、この話は終わりにして──」
「終わりにしません! もっとフェリクス様とのラブラブ話を聞かせてくださいませ!」
「そんなのないわよ!」
こんな感じで。
楽しい夜は更けていった。
その後、深夜に差し掛かったところで、恋バナ──とはいえ、ほとんどオレリアが喋ってたけど──もお開きとなった。
それから同じベッドで、オレリアと並んで寝てたんだけど……。
「眠れないわね……」
そう呟く。
オレリアは、
『わたくしには、クラリス様を見守る大事な役目があるのです! あなたが寝るまで寝ませんから!』
と何故か意気込んでいたが、ベッドに入った瞬間に眠りこけてしまった。
今も気持ちよさそうな彼女の寝息が聞こえてくる。
早寝傾向にある彼女にとって、ここまで起きていることの方が珍しかったんだろう。
私も眠気は感じていたんだけど……やっぱり、今日という一日が楽しすぎたためか、体は興奮状態にまだあった。
頑張って寝ようと目を瞑るけど、どうも上手くいかない。
「仕方がない」
上半身を起こす。
こんな夜遅くに部屋から出るのは、あまりいけないことだと思っているけど……朝まで眠れないのは耐えられない。
だから夜風にでも当たろうと思い上半身を起こしてから、そっとオレリアの頭を優しく撫でてあげる。
「んんん〜、クラリス様……大好きですわ。ずっと友達でいましょうね……」
「うん。ずっと友達」
彼女の寝言に、そう答える。
私はパジャマ姿のまま、部屋の外に出る。
こんな姿を見られたら、両親になにか苦言を呈されるかもしれないが……バレなきゃいいのだ。
私は月明かりを頼りに廊下を歩く。
すると──中庭から、風を切るような音が聞こえた。
「……? なんなのかしら?」
窓からこっそり中庭を眺めると、ある一人の男がいた。
「こんな時間にどうしたのかしら」
私は好奇心に押されて、そのまま中庭に出る。
そして彼の背中に向けて、こう声をかけたのだ。
「なにをやってるの? ヘルムート」
ヘルムートはゆっくりとこちらを振り向いた。
【作者からのお願い】
「更新がんばれ!」「続きも読む!」と思ってくださったら、
下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります!
よろしくお願いいたします!




