36・勝利のあと
あれからのこと。
ロレッタが酷く動揺してしまったため、光魔法は途中で解除された。
今回のことで大きな被害はない。
操られた人々は誰も傷ついていないし、なんなら記憶すらも残っていなかったからだ。
光魔法が解除された人の中には「どうして、ここにいるんだろう?」と首を傾げた者もいたが、後遺症が残っているわけでもなく、そういう意味では平和的に解決したと言えるだろう。
しかしそれでロレッタの罪がなくなるわけがない。
今回のことはフェリクスとヘルムートも、王家に抗議した。
王家もロレッタが光魔法を悪用したことを重く受け止め、彼女をネコナシュリア学園から退学させることにした。
ヘルムートから聞いた話によると、これからのロレッタは王宮で半ば幽閉じみた扱いを受けるらしい。
なんだかんだで彼女の光魔法は強大で、国にとって有益だ。
だが、彼女の光魔法はまだ不完全だし、また今回のように力を悪用してもらっては困る。
ゆえに他の王子との接触も禁止され、彼女はこれから光魔法を使いこなすことにその人生の大半を消費することになるだろう。
そして晴れて光魔法の使い手として認められても、一生国のために尽くすことが義務付けられている。
仮にまたロレッタがフェリクスにちょっかいをかけようとも、彼女の悪行は知れ渡っている。今更、まともに取り合わないだろう。
さらに今回の功績も認められ、王家から私は恩賞を受けることにもなった。
これなら──断罪されることもないはず。
前世では十八歳で断罪されることになるが……十六歳にして、その道の消滅に大きく一歩前進したと言える。
──もしかしたら、十八歳のロレッタは光魔法を完全に使いこなせるようになっていたかもしれない。
ゆえにフェリクスとヘルムートも、彼女の光魔法に完全に操られていた……と推測することが出来る。
しかし今回のロレッタは暴走し、自滅し……不完全なまま、光魔法を使ってしまった。
さらには私に光魔法が効かなかったことも、大きな誤算と言える。
そういったことが彼女の敗因となったのだ。
これから王宮で監視され、今までみたいに自由な生活を送れない彼女のことを考えると、ちょっと不憫に感じるが……同情はしない。
だって、私の大好きなフェリクスを取ろうとした泥棒猫なのよ?
これくらいの報いは受けて当然だと思うからだ。
◆ ◆
若草祭終了後、学園は少しの間休校になった。ロレッタの事件の後処理に動いていたんだろう。
しかしほどなくして授業も再開し、放課後──私は献身部の部室を訪れていた。
「あれ? 他のみんなは?」
私より少し遅れてから、フェリクスも部室に現れた。
「まだ来てみたいなのよ」
「珍しいね。大体は部長がその席に座っているというのに……」
と彼が奥のテーブルに視線を移すが、そこは空席。
二人きりで、部室でこうしているのはなんだか不思議な気分がした。
「ねえ、フェリクス。あの時、あなたにはなんの変化もなかったの?」
「またその話かい? なにか思い出していないのか……って話だよね。何度でも言うよ。あの時に僕に残っていたのは、君への深い愛情だけさ」
そんな情熱的なことを、さらりと言ってのけるフェリクス。
あの時……どうしてフェリクスがロレッタの光魔法を打ち破ったのか、私なりに考えてみたのだ。
私とフェリクスの愛が、ロレッタの光魔法に勝ったのだ……なーんて、ロマンティックな結末は私たちに似合わない。
だから私はこう思った。
フェリクスも世界の理の外側の人間なんじゃないか。
一時的にはロレッタの光魔法が効いていたので、それは途中からだったかもしれない。
しかしフェリクスの頭の奥深くで、私と同じように前世の記憶が眠っていた。
そしてなにが切っ掛けだったのか分からないけど、あの場面で記憶が蘇った。
結果、フェリクスも私と同じ外側の人間となったことにより、ロレッタの光魔法を解除出来た……と。
だけどあれから、フェリクスにはそれとなく何度も問いただしてはいるが、芳しい答えは返ってこない。
彼の表情を見るに、本当になにも思い出していないらしい。
これはどういうことだろうか?
あの時、一時的に蘇っただけで、また記憶が奥深くで眠ってしまった?
それとも私の推測が間違いで、本当に私と彼の愛がロレッタの光魔法を打ち破った?
……と、謎は色々残っているが、これからゆっくり考えていけばいいだろう。
ロレッタも退学になったし、私にはまだまだ学園生活を楽しむ時間が残っているからだ。
「クラリス、またなにか考えてるね」
急にフェリクスの顔が真剣味を帯びる。
「前から思ってたんだ。君は僕には言っていない秘密を抱えている。その秘密が、君を悩ます原因になっている……って。僕にその秘密を教えてくれる気はないかい?」
「……ごめん」
私も真剣に答える。
「まだ心の準備が出来てないの。あなたに変な目で見られるかも分からない。それに……あなたが傷つくかもしれないから」
前世でフェリクスは私を裏切って、ロレッタに付いた……と聞かされたら、彼はどう感じるだろうか。
責任感の強い彼のことだ。心が壊れてしまうかもしれない。
「そうかい」
だけど、フェリクスはそれ以上私を問いただすわけでもなく、柔らかく微笑む。
「だったら、いくらでも待つよ。君が言う気になったら、いつでも言ってくれ。人には誰しも、言いにくいことを抱えているものだからね」
「……ありがとう」
本当にこの男は優しい。
前世では──ロレッタの光魔法のせいだとはいえ──彼は私を裏切って、離れていってしまった。
しかし彼はもう一度、私のところに戻ってきてくれたのだ。
──やっぱり私は彼が好き。
これは何度死に戻ったとしても、変わらない事実のように思えた。
「クラリス」
彼が私の両肩に手を置き、名前を呼ぶ。
その様は、あの屋上の時と酷似していて──。
「フェリクス……」
私も彼の瞳を見つめ返す。
そのまま私は引き寄せられるかのように、彼と唇を合わせ──。
「失礼するぞ」
その時。
ノックもなしに扉を開け、部室に入ってくる不届き者が現れた。




