37・青春の一ページは美しい
あとがきに、大切なお知らせがあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
「ヘ、ヘルムート殿下!?」
突然の襲来に、私は目を丸くしてしまう。
「なんだ、そんな顔をして。俺がここに来ちゃいかんのか?」
「そういうわけではないんですが……」
部室を包んでいた甘ったるい空気は、すっかりなくなっていた。
フェリクスも私から手を離し、ヘルムートと向かい合っている。唐突な殿下の登場に、彼も戸惑いを感じているようだ。
ほんと、ヘルムートったら……良いところでも悪いところでも、登場のタイミングが絶妙なのよね。
まあそれに今まで助けられてきたわけだから、不満なんてないのだけど。
「そ、それで……殿下はどうしてここに?」
「うむ」
フェリクスの問いかけに、ヘルムートは一度頷いて、
「これを持ってきたのだ」
と、胸元から一枚の紙を取り出した。
それは……。
「「入部届!?」」
私とフェリクスは揃って声を大にする。
それに対して、ヘルムートは満足そうにニヤリと笑みを浮かべた。
「くっくっく、楽しそうにしているお前らを見ていたら、部活動というのもそう悪いものではないと思えてきてな。俺も献身部に入ってやる。有り難く思え」
ヘルムートが掲げている入部届を引ったくり、そこに記載されている内容を私は凝視した。
……うん。『希望部活動』の欄には献身部。そして氏名とクラスにはヘルムートとAクラスと書かれている。正真正銘、入部届。目の前にしても信じられなかったけど、こうして手に取ったら嫌でも理解する。
「あの時に、お前からもらったビラには助けられたぞ。あれがなければ、お前らが入っている部活動の名前を忘れていたかもしれぬ」
「あの時は部活動には絶対に入らないと言ってた気がするんですが……」
「そんなこと言ったか?」
とぼけるヘルムート。
彼の真意が本気で分からない。
それほど、彼の入部は私にとって予想外だったのだ。
「それともなにか? 俺が献身部の部員になることは、認められない……と。俺だけ仲間はずれか?」
「いえいえ、そんな……それに決めるのは私じゃなく──」
「こんにちは」
急に声がしたのでビックリして振り返ると、扉の前には部長──その隣にはモニカさんの姿もあった。
「部長!」
「なにやら騒がしいと思いましたが……あなたはヘルムート第三王子ですね。どうしてここへ?」
「これだ」
とヘルムートは私の手から入部届を奪い返し、部長たちの目の前に突きつけた。
「え……?」
感情表現に乏しいモニカさんでも、さすがにこれには目を見張る。
部長にいたっては、それを見て固まった。全く動揺していない? いや、逆だ。動揺しすぎて思考と体が停止してしまっているのだ。
「部長」
「……はっ!」
モニカさんの呼びかけに、部長は意識を戻す。
「ヘ、ヘルムート殿下が献身部に入部していただけるんですか!?」
「そうだ、ダメか?」
先輩相手でも敬語など一切使わない、不遜な態度のヘルムート。
「い、いえいえ! そんなことはありません。殿下が入部してくれるなら、これ以上の光栄なことはありません。殿下の入部を認めます」
「当然だな」
とヘルムートは指を鳴らす。
ああー……訳が分からないわ。ここのところ、色々と事件が起こりすぎていたから理解が追いつかない。
頭痛を感じて、私は頭を押さえるのであった。
「ごきげんよう! 今日の献身部はどんな活動を……って、ヘルムート殿下!?」
そうこうしていると、オレリアも部室に顔を出した。
「どうしてヘルムート殿下がここに!?」
「そのやり取りはもう済んだのよ。実はかくかくしかじかで……」
「まあ!」
私が手短に説明してあげると、オレリアは手を組み目を輝かせた。
「なんて、素敵なことでしょうか! 殿下も入部してくれるなら、これからもっと楽しくなりますわ。わたくしはオレリアと申します。殿下、よろしくお願いいたしますわ!」
「うむ、よろしくな」
先ほどから、どこか上機嫌のヘルムート。
基本的にヘルムートという男は、いつも不機嫌そうにしている。
そんな男が機嫌よく話しているのだ。明日は雨が降るのかしら? それとも季節外れの雪?
「…………」
「どうした、クラリス。まだなにか引っ掛かりがあるのか?」
私の視線を感じたのだろうか、ヘルムートがそう問いを投げかけてくる。
「いえ……やはり、急に入部したくなったというのが、どうしても違和感があるといいますか。どうして、そんなに百八十度考えが変わったのか……」
「お前らが楽しそうに見えたというのは、本当のことだがな。だが……あえて理由をもう一つ挙げるなら」
ビシッ!
そんな感じで、ヘルムートがフェリクスを指差した。
「ぼ、僕ですか?」
「そうだ」
困惑するフェリクスに、ヘルムートは首を縦に振った。
「お前と本格的に勝負がしてみたくなってな。先日のような光景を見せられたら、俺とて黙っていられない」
勝負……あっ、体育の模擬試合の一件かしら。
確かに、あの時はヘルムートはフェリクスと良い戦いを演じていた。フェリクスといつでも戦いたいから、献身部に入部したってこと?
それをフェリクスも理解したのか。
彼も顔を引き締める。
「それはそれは……まさか、殿下がそんなことを言うとは思っていませんでしたよ」
「しかし俺はあの性悪女のように、卑怯な手を使うつもりはないぞ? 正々堂々、真っ向勝負だ」
「いいでしょう。受けて立ちましょう。これくらいの障害、乗り越えられなければ、僕はクラリスにふさわしくないでしょうから」
どうして私の名前が、ここで出てくるのだろうか?
頭の中でいくつもの『?』マークが浮かんでいると、ヘルムートは次に私に顔を向ける。
「まずはその手始めに……クラリス。先日から言おうとしていたが、俺にその敬語はやめろ」
「……はい?」
「いつまでも敬語を使っていたら、いつまで経っても距離が縮まらないだろうが。クラリスだけじゃない。フェリクスも……だ。俺の前で敬語を使うことを禁ずる」
こ、こいつっ!?
入部に続いて、またとんでもないことを言い出した!
「そ、そんな失礼な真似はさすがに無理ですよ。殿下を友達のように扱うなど……」
「なんだ、いつもは度胸があるのにこういう時だけ、しおらしくなるのか? ゴリラみたいに面の皮が厚い女だと思っていた」
「ちょ、ちょっと! 誰がゴリラって──」
部室が笑い声で包まれる。
前世のことを考えたら、こんな風にみんなで笑い合える日々が来るとは思っていなかった。
その光景は黄金の青春の一ページとして、私の心に深く刻まれるのであった。
【作者からのお願い】
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
これで【一章完結】となります。
作品はまだまだ続いていきますので、
もし、ここまで読んでいただき、少しでも、
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「次が気になる!」
「二章も楽しみにしてるよ!」
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