21・入学初日は上々の結果
「は、入ってくれるんですかーーーー!?」
よっぽど驚いたのか、部長が前のめりになって大きな声を出す。
モニカさんにいたっては目を見開いて、言葉を失っている。
自分の三つ編みを、高速でクルクルと回していた。
「はい。そもそも最初から入るつもりでした。それとも……私が入部しちゃいけませんか?」
「い、いやいや! そんなことはないですよ! まさかクラリスさんみたいな有名人が、こんないつ潰れるか分からない部活に入ってくれるなんて……と」
「部長、本音が出ちゃってます」
慌てる部長に、モニカさんがツッコミを入れる。
「本当にありがとうございます。クラリスさんだけでも、献身部に入部してくれるなんて夢のようです。よかった……これで廃部は免れる」
ほっと胸を撫で下ろす部長。
「私だけでも……? フェリクスとオレリアは?」
「え……? でも、二人とも献身部にはあまり入りたがっていな……」
「僕も入ります」
「入りますわ!」
「ひええええええ!」
フェリクスとオレリアも即答で入部の意を示すと、とうとう部長は椅子から転げ落ちてしまった。
「全く……ちょっとは部長らしくしてくださいよ」
モニカさんは溜め息を吐き、部長に手を伸ばした。
それを彼は「あ、ありがとう」と握り、再び椅子に座ってハンカチで額の汗を拭った。
「え、えーっと……本当に大丈夫ですか? うち、大した活動してないですよ? 大会とかもないから、実績を積めないですし。卒業後の進路は、そういった活動でも重要になってきますが……」
「卒業後の進路は、自分で切り開きます。それに……」
私は部室を眺めながら、こう口を動かした。
「あまり自分たちのことを卑下しないでください。ここは立派な活動をしています。もっと胸を張ってください。こういった献身的な活動は、見ている人は見てくれていると思います」
「──っ!」
私の言葉になにかを感じ取ったのか、じーんと胸打たれた様子の部長。
「モニカくん……どうしましょう。こんなことを言われたのは初めてです」
「部長、もっと毅然としてくださいよ。側から見たら、クラリスさんの方が年上に見えます」
とモニカさんは呆れた様子で言ってから、次に私たちに視線を移して。
「献身部への入部、ありがとうございます。あなたたちが入部してくれて、私も嬉しいです。献身部はあなたたちを歓迎します」
「こちらこそ僕たちを迎え入れてくれて、ありがとうございます」
そう言って、フェリクスはモニカさんと握手をする。
彼女はフェリクスに触れられているのに、表情を変えない。
彼と手を握れば、世の令嬢たちは例外なく頬を朱色に染めるので、彼女みたいな反応は珍しく感じた。
「わたくしもよろしくお願いしますわ! わたくし、将来はクラリスさんのお屋敷でメイドになるのが夢なのです。そういった経験をここで積ませていただきたいんですわ」
「メイド……? どうして?」
オレリアの言ったことにモニカさんは困惑している様子だが、彼女とも握手をした。
「私のことはどうか、クラリスと気軽に呼んでください。モニカさんは先輩ですから」
「い、いや……それはでも」
「爵位の違いを気にされているんですか?」
私は伯爵、モニカさんは一代貴族。これだけを聞くと、身分に隔たりがある。
しかし。
「ネコナシュリア学園は、そういったことを気にせず、あくまで平民と同じようなシステムで学園を運営しているのでしょう? だったら、ここはそれに則りましょう」
「……分かりました」
そう言って、モニカさんは手を差し出す。
「あなたのような可愛い後輩が出来て嬉しいです。クラリス、これからよろしくお願いしますね」
「はい。モニカさんのような先輩と知り合えて、私も嬉しいです」
私はモニカさんとがっちりと握手を交わす。
献身部の唯一の懸念は、部員がどういう人たちか……ってことだったけど、モニカさんも部長も良い人そうだ。これなら問題ないだろう。
「は、ははは。一気に賑やかになったね。今までの献身部だったら、想像すらしていなかった事態だ」
と部長は先ほどからずっとハンカチで汗を拭っていたのであった。
「ただいま!」
献身部へ入部届を提出した後。
私はフェリクスとオレリアと別れ、自宅に戻ってきた。
すると……何故だか玄関にお父様とお母様、さらにはメイドのリタ──だけではなく、他の使用人も揃って私を出迎えてくれた。
「え……? どうしてみんな、集まってるの? なにかあった?」
と私の問いを無視して、
「おお……私たちの天使。ようやく戻ってきてくれたね」
「クラリスちゃんが無事に戻ってきたわ! みんな、クラリスちゃんを褒めてあげて!」
お父様とお母様がそんなことを言い出した。
さらに二人の言葉を皮切りに、使用人たちが寄ってきて「よくぞ帰ってきました」「素晴らしい」「やはりクラリス様は他の令嬢と一味違う」と口々に私を褒めてくれた。
「ちょ、ちょっと! なによ、これ!?」
もみくちゃにされながら、私はリタを問い詰めた。
「はい。みなさん、朝からずっとクラリスさんのことを心配していて……」
「心配?」
「はい。『友達は出来るだろうか』『悪い男に騙されないだろうか』『もしかしたら、泣いて帰ってくるかもしれない』などなど……」
「か、過保護すぎるわよ!?」
もう私も小さい子どもじゃない。十六歳なのだ。それなのにここまで心配するのはいかがなものなのか。
「それに……大丈夫! 友達も出来たし、献身部っていう部活にも入ったわ。献身部の先輩も優しそうな人たちだったし、みんなはなにも心配する必要なんてないのよ!」
「な、なんと入学初日で友達が出来たのか!?」
「大変よ、お父さん! 今日は『クラリスちゃんが友達出来た記念日』にしましょう! 領内に周知を徹底して……」
「記念日はやめて!」
どうして私の両親はそんなに記念日が好きなのだ!?
「と、とにかく。今日は疲れたから、自分の部屋に行くわね」
「ま、待ちなさい、クラリス! もっと学校での出来事を私たちに教えて……」
「それは晩御飯の時に、いくらでも聞かせてあげるから!」
ここにいると、またもみくちゃにされる。
みんなから逃げるようにして、私は自室まで駆けるのであった。
「ふう……みんな、本当に過保護なんだから」
制服のまま、ベッドで横になって先ほどのことを思い出す。
「……あっ、そういえば友達が出来たなんて豪語しちゃったけど、よくよく考えれば嘘を吐いちゃったかも? フェリクスとオレリアは元から知り合いだし、部長とモニカさんはまだ友達とまでは言えないだろうし……」
それなら、晩御飯の時になにを話そう……。
しかし友達と言われて、一人の人物の顔が浮かんできた。
『お前の名前、覚えておく。俺の名はヘルムート。忘れるな。次にテストがあった時、勝つのは俺だ』
……いやいや、違う。
「ヘルムート殿下のことを友達だなんて、恐れ多いわ。あっちは私のことなんて、なんとも思っていないだろうし……」
それに前世のことを考えたら、ヘルムートとお近づきになるのはあまり良くないような気がする。
だけど逆に考えると、仲良くなって味方にするという方がいいかもしれない。ものは考えようだ。
「とはいえ、ヘルムート殿下と仲良くなれる気がしないけど……」
なにせ、あの性格だ。嫌いじゃないけど、距離を詰めるのは時間がかかりそう。よってこの案は保留だ。
それよりも問題は。
「ロレッタ……ね。前世とは色々違ってたけど、なにを企んでいるのかしら?」
放課後でもなにかしらの行動を起こすと思ったが、ロレッタはそれをせず教室から出ていった。
しかし彼女のことである。
副学級委員に名乗りを上げたことも含め、油断はまだまだ出来ない。
「まあ考えるのは後にして……晩御飯までちょっと寝ようかしら。さすがに眠い」
正直、瞼が重くて動くのも億劫だ。
制服姿のまま仮眠なんか取ったら、後で怒られるかもしれないけど……バレなきゃいいわよね?
私はそう自分に言い聞かせ、目を閉じた。すぐに意識がぼんやりとしてきて、眠りに落ちたのであった。




