07-05
ミルの企みに乗るべきか、乗らざるべきか。そして。
(どこまで、仲間を守るべきなのか。)
あの時は乗せられてつい啖呵を切ってみたけれど、実の所はよく分からない。実際、皇帝に直訴しろと言われて初めて事の重大さに気が付いた。命は大切、そんな当たり前の事ですら安全地帯ではないと言えない事なのだろうか。それは、命を懸けて守るべきなのか。皇帝に訴えてまで、身を危険に晒してでも守るべきものなのか。
(うむむ。)
難しい事ではない、二択だ。しかしその結果、皇帝を怒らせたり取り返しがつかなくなってしまったら?ウィードやミユが何も言えなかったのは、そんな事情があったのかもしれない。思考の堂々巡り。結局、大した答えを出せずにナナは翌朝を迎えたのだった。
登校中、レドと一緒にいるミユを見かけ、ナナは早速と声をかける。
「おはよう!」
「あ、おはよ。」
ミユの語気は普段と変わらないものの、心なしか、若干落ち込んでいるようにも感じる。
「やっぱり、まだ気になるの?」
聞きにくい話題だったので恐る恐る尋ねると。
「大丈夫。シアは女神セーレスの導きにより守護星ヴィーナスの名を与えられたわ。これからは守護天使となって私たちを見守ってくれる。だから、平気。」
少しこわばってるものの、ミユは気丈に答えた。
「それはよかった。」
まだ落ち込んでいるものと思っていたから、今後どう声をかけていいか分からなかったナナはひとまず安心する。
「……ところでさ。女神セーレスって何?」
予想もしてなかった返答にミユはずっこけ、レドは突っ込んだ。
「あっきれた!勇者アレスと女神セーレスの話よ!?それくらい知っときなさいよ。」
「失礼ね!神様の名前ぐらい知ってるわよ!守護天使とかがわからないだけ。」
「うーんとね、ナナはさ、7英雄くらいは知ってるよね?」
ナナは頷いた。
英雄譚といえば、真っ先に挙げられるのが勇者アレスを廻る7人の英雄の物語だ。学園に来る前のナナも宿に泊まりに来る冒険者たちに良く聞かされたものだ。それはもう、入学前にすでに聞き飽きたくらいには。
「そ、あれも守護天使の一節なのよ。7つの星の力をそれぞれ与えられた7人の英雄。えーとね、つまり守護天使というのはその英雄たちの眷属になったってことなんだけど。」
「ふむふむ?」
どうもわかってなさそうなナナである。
「……わかってるのかな?」
「全然。神学なんてさっぱりなんで。」
ポリポリと頭を書くナナ。
「ま、神学なんでわからなくていいのよ。神書だって正しいかどうかもわからない。あれって神様が書き残したわけじゃないしね。」
「そうなの!?」
「そ。あれは聞いたものをうろ覚えで書いたようなもの。中には弟子の弟子の、そのまた弟子から伝え聞いた、なんてものもあるくらいよ。だから、語り継がれる間に、都合よく書き換えられることもあり得るわけだし。それに、教えがすべて正しいとも限らないわ。大体、あいつらが偉そうにしているのは神様のお陰じゃない。」
珍しくヒートアップしていく、ミユらしからぬ大胆な言動にレドが驚いた。
「おいおい、教皇批判か?」
「違うわよ。真理に到達してるわけでもないのに教えを押し付けてくる能無したちの話。大体、この世界にいくつ偽書が紛れてるとおもってるの?神を騙る事なんて悪魔でもできるわよ。」
と、レドとミユのやり取りを見ていたナナだが、どうにも付いていけそうにもない。
「ごめん、さっきから何を言ってるのか、頭がパージしてポカーンよ。」
対抗してナナは知ってる限りの難しそうな言葉を並べてみたものの。
「……何それ?」
通じなかったようだ。




