7-1 シンでいい人駄目な人
翌日。
王子たちが来ているのにも関わらず、相も変らぬ日常。いつものようにナナは窓からいつもと変わらぬ風景を見ていた。座学は相変わらず退屈だ。学んだからといって英雄になれるわけじゃない。早くこんな窮屈なところは飛び出して、あの鳥のようにー。
と、突然、ひゅるるる、と打ち上げられる白い光の球を目撃した。
「信号弾?」
戦士は初めに発声法を習う。これは、戦闘には号令が不可欠だから、という説明だったが、まだ小さかったナナにはよくわかっていなかった。しかし、今でこそ怠け者のナナではあるが、当時は冒険者になるために懸命に練習したものだった。
戦士が呼応砲をはじめとした発声による連絡手段を持つならば、魔術師はどうするか。一般的なのは様々なエネルギーに変化する前の、魔法の力の源を上空などに展開したりして、周りに知らせるといった手段をとる。それが信号弾だ。それは色によっていろいろな意味を持ち、例えば、魔物に注意、怪我人が危険だ、もしくは遭難している、など様々だ。そして、白は『何も意味を持たない』。
「私、行ってくる!」
ナナはそう叫ぶと、近くの窓から飛び出した。
授業を教えていたミランダ先生や、授業に集中していた優等生たちは、ナナが飛び出したことによってようやく事態に気が付いたようだった。出遅れた先生や彼女たちは、事態を把握次第、学内の警備に当たるだろう。
『何も意味を持たない』とは。それは、練習用であったり、訓練だったり。『持たせても意味がない時』ぐらいしか使われない。しかし、戦場では違う。『何も意味を持たない』とは、戦場において『何も意味を持たせられなかった』と解釈される。つまり、それほど切羽詰まった事態、緊急中の緊急。これはナナが習った時に、そんなの当然じゃん、と思っていたからナナでもすんなり頭に入っていたことだけども。
信号弾が発せられた方向を目指し、山道を一目散に駆け抜け上がる。昼といっても森の中は視界が制限され、また、到着した時にも戦えるように体力を残さなくてはならず、全速力で駆け抜けられないのがもどかしい。
一般的に魔法科の生徒は冒険者になんてならない。魔法という便利な技術は日常であっても利用価値が高く、就職先に困ることはない。そんな中で、わざわざ危険な冒険者なんて志してる物好きはミユぐらいなもの。つまり、あんなところで授業を行っているのは……。
ナナの頭の中で符合する、いやな予感。
(ミユ!無事でいて!)
道なき道を駆け抜けると、やがてナナは複数の人影を見つけ、その中にウィードがいるのを確認した。
「……ウィード!何があったの?」
しかし、その質問に返答はなかった。代わりに発せられる警告。
「来てはいけない!」
「大丈夫よ!あの時は遅れは取ったけど、あれは武器がなかっただけ。私は強いから!敵はどこ?」
「違う!来るんじゃない!」




