E-2
「随分と仲がいいじゃない。」
ミルは親密にそうに登場したウィード達を頭からからつま先まで眺めた後、不平を口にした。
「……で、なんでこんな事するのよ。特急ってなに?」
「ま、いいわ。答えてあげる。セントラルへ行くわよ。」
「知ってるわよ。それはいつなの?まだ聞いてないけど。」
「今よ。」
「今!?」
「ええ、今よ。上をごらんなさい。」
言われたとおりに空を見上げると、はるか彼方に豆粒ぐらいの物体が見えた。
(あれが飛行船?)
しかし、今とは、急すぎる。何も用意していないし、チケットや道具は置いたままだ。
「でも、何も用意してないわよ!着るものがないし!」
「制服があるじゃない。足りなければセントラルで買えばいいわ。」
「でもチケットがまだ部屋に!」
「あれはいらないわ。あなたにあげる。いつでも好きな時に使ってちょうだい。」
「え!?本当!?」
随分と大盤振る舞いである。
「ええ。前払いよ。その代わり、あなたの働きに期待しているわ。……転売は禁止よ?あなたに成りすまして飛行船に乗り込んでごらんなさい。どんな危険があるか。もし、そういう事があれば即効で処刑だからね!」
「わかってるわよ。でも、こんな事しなくてもいいじゃない。言ってくれればすぐに駆け付けたのに。」
「では聞くけど。あなたが教室にいてくれる保証はどこにあったの?」
「うっ。」
確かに、最近は授業をさぼってばかりだった。でも、それはいろいろな理由があったからで、普段からサボるつもりはないのだと反論したかったが、答えにはなっていない。何も言えずナナは言葉に詰まった。
「あなたが思ってるほど皇帝は待ってくれないわ。こちらが調整するしかないのよ。詳しい話は船内でね。」
と一通りナナに説明した後、ミルはウィードに体を向けた。
「ね、パ……ウィード。」
「大丈夫です、お嬢様。」
ミルは手を広げると、ウィードはミルの体を包み込んだ。そのまま抱擁する。
「ちょっとちょっと、何してんの。」
「見てわからない?別れの挨拶よ。」
「そんな、大げさすぎよ。今生の分かれじゃないんだし、…」
と、言いかけてと思いだした事がある。
「ひょっとして、飛行船が落ちたりすることってあったり?」
前々から思っていた。魔法のお陰とは言えあんな巨大な重いものが空を飛ぶなんておかしいのだ。今更だが、急に不安が募ってくる。
「ちょっ!馬鹿!直前に不吉なこと言わないでよ!これだから躾のなってない猿はっ!」
ミルは激怒した。
「そんなことあったら、王族の移動手段として相応しくないことぐらい、わからないの?」
「じゃ、なんでそんなにしつこく抱きついているのよ。」
「いいじゃない!それはそれ、これはこれ、よ!」
見かねたウィードが仲裁に入る。
「乗る前から喧嘩するんじゃない。」
「ウィードもウィードよ。この待遇の差。不公平だわ。私にもちょっとくらいは愛情を示してくれてもいいじゃない。」
これから、学園の為に行くのである。ミルの言葉を借りるならばそれは愛。見返り位貰いたいものだ。
「愛情か。そうだな。」
ウィードが考え込むと、お姫様抱っこの例もあってナナは慌てた。
「あ、抱きしめる、とかは無しね!私はそんなのいらないから!」
「わかっている。ちょうど渡したいものがあったんだ。」
ウィードはコートの中から平べったい包みを取り出した。
(プレゼント?)
中身によっては許してもいいかもしれない。そうワクワクして包みをほどくと、入っていたのはノートと教科書と小さなメモ。メモには事細かくテスト対策の重要ポイントがいくつも書かれてた。
「……」
これが?と、ナナはウィードに目で訴えた。
「これが私からの愛情だ。」
「なによ!ただの宿題じゃない!」
しかも、低学年用のドリルまで入ってる。ナナの拳は怒りでぶるぶる震えた。
「長い間授業を抜けるのだからな、戻った時に差がついていると困るだろう。」
「今でも十分差がついちゃってると思うんですけどね!特に愛情の差が!」
やはり、こいつとは何から何まで合わないようだ。
「大体、これだけあっても無駄よ。誰が授業を教えるの。自慢じゃないけど、教科書ごときでこの私を理解させられると思ってるの?」
「大丈夫だ。今回はエリオがついている。」
ウィードが名指しすると、今まで沈黙していたその少年はナナの前に出て丁寧にお辞儀をした。
「こんにちは。エリオです。」




