表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
195/611

195.二百万と二万

 加速した世界の中、ドロップしたのは剣。

 錆びた剣だった。


 いわゆるロングソードとかダガーとか、柄と刃が異なる材質で出来てるものと違って、その剣は柄も刃の部分も、まったく同じ材質で出来ている。

 一つの金属の塊から出来たような錆びた剣だ。


 その剣の横に女がいた。

 フィギュアサイズの、留め袖を着た女。

 加速した世界の中で、女は俺をじっと見つめていた。


「なるほど、そういうことか」


 いうと、女は静かにうなずいた。

 俺のつぶやきに反応した形だ。


 鏡ときて、勾玉ときて、今度は剣。

 あきらかにあの三種の神器だ。


 そして、全九階の中の地下七階、ドロップしたのは錆びた剣。


「後二階攻略しろって事なのか?」


 また静かにうなずき、ふっと微笑んだ。

 やっぱりそういうことか。


 どういう経過なのかは分からないけど、残り二階も攻略したら、この剣が錆びてない元の姿になっていく。

 俺はそう推測して、女――ニホニウムは認めた。


「わかった、もう少し待っててくれ」


 女はにこりと、穏やかに微笑んだまま姿を消した。

 俺は剣を掴み、来たるべき日までポケットの中にしまうことにする。


 そういえばどうなんだろう。

 HPと力と体力、この三つは鏡を手に入れて、限界のSを突破してSSになった。

 MPと速さと知性は、勾玉を手に入れて同じように限界突破した。


 そしたら、剣は?


 さっきダンジョンをでようとしたとき、俺が「今はまだ無理」と思ったのは剣を手に入れてないからだ。


 本来の剣を手に入れたら間違いなくSSになれるだろう、けど、この錆びた剣は?

 気になって、加速した世界の中でマミーを見つけて、瞬殺した。


 種は……なかなかドロップしなくてやきもきした。

 早く……早く……。


 しばらくして、種のドロップとともに加速の効果が切れた。


『マスター?』


 訝しむレイアをひとまずおいといて種を取る、が。


ーー精神が0あがりました。


 まだ、限界突破は出来ないみたいだ。

 やっぱり剣の本来の姿を取り戻してから、三つまとめて解禁、って事らしい。


     ☆


 午後、いつもの様にテルルダンジョンを周回した。


 午前中にニホニウムでやったときとはまた違う周回。

 テルルのドロップはレイアにも拾える、むしろレイアに拾わせた方が効率が上がる。


 その効率のいい周回を模索してたら……逆にちょっと効率が悪くなった。


「今日の合計は214万ピロです」


 屋敷に戻ってきて、エルザに合計金額を聞いてやっぱりと思った。

 仕方がない、こういう日もある。


 挑戦するって事は失敗とも隣り合わせだ、今日のやり方は効率悪い、それがはっきりわかっただけでもよしとしよう。


「なんか冴えない顔ですけど、大丈夫ですか?」


 どうやら完全に割り切れてなくて、顔に出てたのか、エルザに心配された。


「ああ、周回のやり方で色々試したけど今日のはダメだったみたいだ」

「でもすごいですよ。一日で二〇〇万ピロも稼ぐなんて」

「そうだな。でもせっかくレイアがいるんだ、もっと上を目指したいんだよ」

「リョータさん……すごい」


 エルザは感動したような、尊敬したような目で俺を見た。

 そんなに立派なものじゃないけどな、言ってみればただの負けず嫌いだ。

 だからそんな目で見られるとちょっと申し訳なくなる。


 何かごまかす台詞を探してると、助け船が外からやってきた。


「ご主人様ー」


 ケルベロスの声だった。


「呼ばれてるからちょっと行ってくる」

「はい!」


 エルザの所を脱出して、庭にでた。

 するとそこに俺を呼んだケルベロスだけじゃなくて、クレイマンの姿もあった。


「どうした」

「ご主人様に報告」

「報告?」


 首を傾げて、ケルベロスとクレイマンを交互にみる。

 クレイマンが一歩前に出て、俺をまっすぐ見つめて口を開く。


「無事に今日の仕事終わりました、報酬もいただきました」

「そうか、よかったな」

「それで、私とみんなで相談して、これをサトウさんに持ってきました」


 クレイマンはそう言って、封筒を差し出した。

 受け取って中を見ると、一万ピロ札が二枚はいっていた。


「これは?」

「今日の報酬を、みんなの分を引いた残りです」

「これをご主人様にって」

「いや、こんなの気にする必要は――」


 クレイマンは真顔で、俺の言葉を遮った。


「あそこで静かに暮らせる事になりそうです。それもこれもみんなサトウさんのおかげです、その気持ちとして」

「インドールのみんなと同じだって」

「インドールのみんな……税金か」


 確かに、今でも定期的にインドールから俺の口座に振り込みがある。

 砂金の村として冒険者が稼いだ税金の一部だ。

 それと同じ事を、クレイマン達もするってことだ。


「そうか」


 気持ちは嬉しい、断るのもなんだから、俺はその二万ピロを受け取った。


「分かった、受け取る」

「これから毎日渡しに来ます」

「それは面倒じゃないのか?」

「僕たちの足だとそうでもないよ」

「なるほど、モンスターだもんな。普通の人間よりも体力は高いか」


 俺は少し考えて、二人に少し待ってくれといった。

 屋敷の中に入って、エルザの所に戻ってくる。


「エルザ、申し訳ないけど、買い取りを一部キャンセルさせてもらえるか」

「はい、いいですけど。何をですか?」

「全部少しずつ……ざっくり二十万ピロ分引いてくれ」

「わかりました」


 エルザにそう言ってから、俺は二十万ピロ分の野菜をポケットに入れて、庭にでた。

 そしてポケットの野菜をクレイマンの前に出す。


「お裾分けだ、持っていけ」

「え? いいんですか?」

「お裾分けに良いも悪いもないだろ?」


 にこりと笑って見せた、するとクレイマンは少し迷ったが、同じように笑顔で答えた。


「ありがとうございます、みんな喜びます」


 さすが元モンスター、ハグレモノ。

 クレイマンは二十万ピロ分の野菜を一人でもって、屋敷から立ち去った。


 それを見送った後、ケルベロスが俺にむかって。


「ご主人様、優しいね」

「そうか」

「それに太っ腹」

「元手ほとんどゼロだからな」

「それでもすごい」

「そうか」


 ケルベロスはそう言って、尻尾を振って俺にじゃれついてきた。

 サーベラスの巨体はちょっと重かったが、悪い気はしなかった。

 こうして、俺はインドールに続いて。

 魔物達の村からも税金収入が入るようになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] >気持ちは嬉しい、断るのもなんだから、俺はその二万ピロを受け取った。 ゴミ処理から得られる加速弾の回収だけで、充分だと思うけど。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ