185.有線式オールレンジ攻撃
コバルトダンジョン、地下一階。
新しい力の把握の為にダンジョンに潜った。
ダンジョンの外でのチェックはすんだが、やっぱり実戦の中じゃないと分からない事もある、って事でここにきた。
銃をもう一丁増やした。
追加料金を払って、直送でマグロをもう一頭取り寄せてもらって、それをハグレモノにして、銃をドロップさせた。
今、俺の手元に四丁の拳銃がある。
ゾンビデーモンが現われた。
全弾通常弾装填の二丁拳銃で連射、モンスターの上半身が蜂の巣になる。
拳銃を手放した、すると視界に別の拳銃が二丁入って来たので、受け取って更に連射。
銃交換の連射。
元々リボルバーの連射力は、熟練した者が使えばマシンガンを上回るが、リロードで大きく時間を取られる。
レイアのアームでのリロード、それを使った連射は、マシンガンの連射力を軽く上回った。
まったくのオーバーキルで、ゾンビデーモンを倒した。
「いいぞレイア」
「ありがとうございます、マスター」
胸もとのあたりから声が聞こえてくる、プロテクターになったレイアの声だ。
彼女の返事とほぼ同時にアームが伸びて、ゾンビデーモンがドロップした鉄塊を回収した。
回収した鉄塊はそのまま俺のポケットに入る、グランドイーターのポケットは何事もなかったかのように重くてでっかい鉄塊を呑み込んだ。
そのままダンジョンを闊歩する。
エンカウントして銃を連射するだけの仕事になった。
打ち切ったらレイアがリロードして渡してくれるし、ドロップ品もレイアが拾ってくれる。
効率が格段と上がった。
リロードの手間がなくなった銃はリペティションに迫る程の殲滅力で、ドロップ品の回収は今までに編み出したどのやり方よりも早かった。
今までで最高の効率、別の次元に足を踏み入れたとさえ感じる。
「レイア、あれ」
立ち止まって、ダンジョンの壁をみる。
レイアのアームが伸びていって、そこに軽く触れた。
何もない所に触れた。
俺の意思で、声に出さなくてもレイアのアームはその通りに動いてくれる。
「すごいぞレイア」
「ありがとうございます」
レイアの声は無感情のままだった。
ちょっとだけ寂しい気がするけど、そういう性格なんだから、しょうがない。
思い描いたもののチェックが一通り済んだ、大体想像した通りの動きが出来て、想像以上の結果が得られた。
満足しつつ、レイアに話しかけながらダンジョンをでる。
「こうして俺が装着してる間は何か消耗とか、消費したりするか?」
「しません」
「装着の時間に制限は?」
「ありません。私が休眠しない限りはずっと続きます」
「休眠するのか。それって人間の睡眠と同じ感じ?」
「はい」
今までに聞かなかったこと、細かい事を色々聞いてみた。
マスターとして事細かに把握しておきたいからだ。
そうしてダンジョンの外を出ると、ニコラスの姿が見えた。
ポケットに手を突っ込み、木に背中をもたせかけて暇そうにしていたニコラスは、俺の顔を見るなり大喜びで駆け寄ってきた。
「よう、待ってたぜ」
「俺を? 何かあったのか?」
「ちげえよ。喧嘩、しようぜえ」
ニコラスは笑顔で――ヤバげな笑みを浮かべていった。
「またかよ」
「あたりまえだろうが。お前さん、もうすぐシクロに戻るんだろ。だったらその前に喧嘩溜めしとかねえとよ。こう、体がむずむずするんだ」
ニコラスはサルのようにあっちこっちをかきむしりながら、体をくねくねさせた。
やっかいな人だな……悪意はないから別にいいんだが。
「喧嘩溜めとかそんな言葉ないから。というかもう何回も負けてるだろ? やっても同じだと思うけど」
「ちっちっち。分かってねえな。喧嘩はするだけで意味があるってもんだ」
「なるほどわからん」
「それによお、今日の俺はひと味違うぜえ?」
「え?」
どういう事だと戸惑っていると、ニコラスはポケットから小さいガラス瓶を取り出した。
入ってるのは琥珀色の液体……ニコラスの事だから間違いなく酒だろう。
蓋を開けて、天を仰いでグビグビ飲み干していく。
俺は警戒した。まさか何かのポーション系か!?
次の瞬間、ニコラスは瓶を地面にたたきつけて割った。
「かぁ――、クソまじい!」
「……へ?」
「やっぱ新しい酒はクソまじいぞこんちくしょうが!」
なんかよく分からないキレ方をして、ニコラスは殴りかかってきた。
「――っ!」
鋭さに驚き、とっさに避けた。
あたりはしなかったがその鋭さに危うく尻餅をつきそうになった。
「ああもう! いらいらするぜこの野郎!」
そう言って更に攻撃をしかけてくる。
今までのニコラスの攻撃よりもワンランク上の鋭さだった。
先手を取られて押されてしまうくらい早くて、鋭かった。
「よけんじゃねえ、当たれよチクショーが!」
悪態をつきながらも、それと反比例する程の鋭い攻撃を繰り出してくるのをみて。
「まさか……酒がまずくてイライラするからパワーアップ……とかじゃないだろうな」
「ごちゃごちゃいってんじゃねえ!」
多分推測通りだと思った。
古いもの大好きなニコラスだからそうかもしれないとおもった。
深呼吸して、ニコラスの拳を迎え撃った。
パーン!
ズボンの裾がビリビリするほどの破裂音を上げて、拳と拳が打ち合った。
その勢いを借りて俺はいったん飛び下がって、深呼吸して体勢を立て直した。
そして、ニコラスに向かって跳んでいく。
「よーし、かかってこいやあ!」
ニコラスに肉弾戦を挑んだ。
至近距離で彼と殴り合う。
拳をガードして膝を蹴り込んで、頭突きをスウェーで躱してサマーソルトキックをあごに叩き込む。
二人を中心に竜巻が起きるほどの勢いで殴り合った。
次の瞬間、銃声が立て続けに響いた。
上下左右、ニコラスの周りから銃弾が彼をめがけて打ち込まれた。
「いってぇええ、なんだこりゃ」
撃ったのはレイアのアーム。
俺に装着したまま彼女はアームを伸ばして、ニコラスの拳が届かない射程外から四丁の拳銃で銃弾を撃ち込んだ。
俺の意思、口に出さない攻撃の意思。
それをくみ取って、レイアがオールレンジの攻撃を実現した。
銃弾が当たって、キョトンをするニコラスだが、それが俺から伸びたアームだと分かると。
「すげえもんもってるじゃねえか」
と、ご機嫌な表情になった。
ニコラスがご機嫌になるとそれはそれでやっかいだったから、更にアーム銃でオールレンジ攻撃をしつつ、懐に潜り込んだ。
全力のパンチをニコラスに叩き込む。
彼は楽しげな表情をしたまま縦に三回転してそのまま頭から地面に突っ込んで動かなくなった。
「ふう……終わったか」
「大丈夫なのですかマスター。もしかして死んだのでは?」
「この程度で死ぬような人なら苦労はしてないさ」
レイアの疑問に俺は苦笑いして答えたのだった。