換金します!
それからの俺はすごかった。
金の亡者だった。
ダンジョンに入ったら、左をチラッと見て初期配置を確認。スライムの初動パターンから聖水ドロップを見抜いて行った。
ハズレ。
再入場。
お?
二匹いるスライムの左側が奥にジャンプ。
おまえじゃない……。
再入場。
このパターンはっ!!
……。
うん。再入場。
こんなことを一日中、ひたすら繰り返した。
*
一週間が経った。
一日十時間、ひたすら再入場を繰り返した。
あのダンジョンを選んで正解だった。
四十五秒ごとに現れては、死んだような表情で再入場を繰り返す冒険者……。
不審者以外何者でもない。
しかも、ごく稀にニッコニコで出てくる。
何百回と繰り返すうちに、俺はなんとなくのドロップ確率がわかるようになってきた。
どうやら最初の確率はだいぶ上振れていたらしい。
思っていた以上にレアドロップパターンが出る確率は渋かった…
しかーし。
俺の手元には今、六本の美しい瓶がある。
四十二万円×六本。
二百五十二万円。
素晴らしい。
今日は華の金曜日。冒険者ギルドに行く。
そう。
換金の儀なのである。
*
「すみません。これ、買い取ってもらえますか?」
買取カウンターに水色の聖水を一本置いた。
「はい。お預かりしますね」
対応してくれたのは、髪をきれいに編み込んだお姉さんだった。
優しそうな笑顔が印象的な人だ。
うん。非常にかわいい。
「水色の聖水ですね。少々査定にお時間をいただきますので、こちらでお待ちください」
「わかりました!」
元気よく返事をして、俺はギルド内を見て回ることにした。
*
冒険者ギルドには、武器屋や防具屋、アイテム屋も併設されていた。
まずは武器屋。
壁には剣や槍、斧がずらりと並んでいる。
値札を見る。
三万円。
十二万円。
五十万円。
「たっか……」
さらに奥には、魔法の力を宿した剣や希少な魔物の素材で作られた武器が展示されていた。
百万円を超えるものも珍しくない。
防具屋にも革鎧や金属鎧、魔法の防護が施されたローブなどが並んでいる。
装備を揃えるだけでも、相当な金が必要らしい。
そんなことを考えながら店内を歩いていると、奥にひときわ目立つ展示ケースがあった。
黒を基調とした鎧と、それに合わせた剣。
細かな装飾に、青白く輝く宝石。
明らかに別格の品だった。
値札の代わりに置かれていた説明板には、こう書かれていた。
『参考展示品』
『想定価格 三十億円』
「…………は?」
三十億円。
桁を数え直しても三十億円だった。
「そちらは参考展示品です。素材の希少性や製作技術、付与された魔法などを考慮した想定価格ですね」
店員が教えてくれた。
「あ、そうなんですね……」
三十億。
俺が一週間かけて手に入れた水色の聖水、約七百十四本分。
……比較するのはやめよう。
金銭感覚がおかしくなる。
俺はそっと展示ケースから離れた。
続いてアイテム屋を覗いてみる。
回復薬や解毒薬、魔力回復薬。携帯食料や野営道具まで揃っていた。
冒険者って、何かと金がかかる仕事なんだな。
そんなことを考えながら、買取カウンターへ戻った。
*
「お待たせしました」
「査定が終わりました。水色の聖水は一本四十二万円で買い取らせていただきます」
「ありがとうございます!」
「それで、こちらは残りの五本でしょうか?」
「はい。全部お願いします」
お姉さんは瓶を一本ずつ確認し、手続きを進めてくれた。
所作もまた、かわいいね。
「六本で、合計二百五十二万円になります」
二百五十二万円。
ついに換金の儀が終わった。
俺は代金を受け取り、しっかりと確認してからしまった。
よし。
これで当面の生活費は確保できた。
「ところで、今後も希少なアイテムをお持ち込みになるようでしたら、オークションへの出品もご検討ください」
「オークション?」
「はい。買い手によっては、通常の買取価格を上回る金額で取引されることもあります。もちろん、必ず高く売れるわけではありませんけどね」
「なるほど。そういう方法もあるんですね」
売り方ひとつで、手に入る金額が変わる可能性があるわけだ。
「それと、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「はい、なんでしょう?」
「ゴブリンとキラービーのレアドロップって、何かわかりますか?」
「えーと少々お待ちください…はい。ゴブリンは転移石、キラービーは合成石ですね」
「転移石と合成石……」
「転移石は、使うとダンジョンの外へ一瞬で移動できるアイテムです。一度使うとなくなってしまいます」
「へえ。便利そうですね。ちなみに、おいくらなんですか?」
「販売価格は五十万円ですね。ギルドでの買取価格は三十五万円になります」
五十万円か。
思ったより高い。
まあ、ダンジョンから一瞬で脱出できるなら、それだけの価値はあるのかもしれない。
「合成石のほうは?」
「こちらも使い切りですが、複数のアイテムを合成できるんです。組み合わせによって結果が変わるので、錬金術師の方にも需要がありますよ」
アイテムの合成か。
ふむふむ。面白そうだ。
なるほど。
ん?……待てよ。
俺は頭の中で考えを巡らせた。
今いるダンジョンは、チュートリアル用に作られたものだ。
各階層の入口には、すぐ目の前に次の階か出口を選べるクリスタルがある。
俺の場合は一階でレアドロップを狙っているから、目当てのパターンでなければ外に戻ってやり直せばいい。
ゴブリン怖いし。
つまり、このダンジョンで転移石を使う意味は、ほとんどない。
でも、それはあくまで、このダンジョンだからだ。
別のダンジョンならどうだろう?
もし、他のダンジョンでも同じことができるのなら…
モンスターさえ倒せれば、どこでも行けるんじゃ?
《観測記録》と組み合わせれば、未知のダンジョンでも効率よく情報を集められるんじゃないか?
合成石も気になる。
パーティを組んでた時には駆け出しだったせいもあって、ご縁もなかった。
ドロップしたアイテムを合成できるなら、今まで使い道のなかったアイテムにも価値が生まれるかもしれない。
……これは、試してみたい。
俺がそんなことを1人で夢想してると、お姉さんが不思議そうな顔で尋ねてきた
「あのもしかして…レアドロップに関係するスキルをお持ちなんですか?」
「いえ、《観測記録》です」
俺はしっかりと間を取り、キメ顔で答えた。
「あ、そうなんですね……」
……残念そうだ。
まあ、そうなるよな。
「それで、ゴブリンを倒すなら、どのくらいの装備が必要ですか?」
「あ、はい。ゴブリンであれば、攻撃力を重視するといいと思いますよ」
お姉さんは気を取り直し、職員として、しっかりと説明してくれた。
「ゴブリンは比較的、攻撃の殺傷力が低い魔物です。ですから、こちらの攻撃力が大事になってきます。百万円程度の魔法武器があれば、ほぼ安全に戦えると思いますよ」
「もちろん、冒険者の方の能力にもよりますけどね」
ふむ。かわいい。
……いや、百万円!
なかなかだあ。
「ありがとうございます。ちょっと考えてみます」
「はい。ご自身に合った装備が見つかるといいですね」
お姉さんは最後までかわいかった。
よし、帰ろう。
*
二百五十二万円を手に入れた。
慣れない大金に、俺はダンジョンよりも警戒を強くした。全てが敵に見える。
まずは何を買うべきか、整理しよう。
帰ったら作戦会議だ。
ゴブリンの転移石やキラービーの錬金石も気になる。
魔法武器だけで百万円。
防具や消耗品のことも考えたら、勢いで買うわけにはいかない。
とりあえず、この大金を安全な場所にしまわないと。
なじみのラーメン屋で大盛りに餃子だなと思いながら帰途に着いた




