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チャレンジしてみました!

連載初期から応援してくださっている皆様に向けて活動報告にて、side story『ギルド受付嬢の日常』を掲載しました。ぜひとも読んでいただければ幸いです。


それでは、本編どうぞ。


……そういえば、俺の入退場記録は正木さんがロックしていたんだっけ。


まあ、正木さんに確認してもらえるなら問題ない。


そう思って待っていると、受付嬢が戻ってきた。


「あ、正木さん。こんにちは」


「こんにちは、君島さん」


正木はいつもの穏やかな笑顔で挨拶してきた。


「すみません。こちらの冒険者カードなのですが、ギルドマスターの認証が必要なようでして……」


受付嬢が事情を説明しようとすると、正木は軽く手を上げた。


「ああ、分かった。俺が引き受けるから、君ははもういいよ。ありがとう」


「承知しました。それでは失礼いたします」


受付嬢は一礼して、カウンターの奥へ戻っていった。


正木は俺の前に立つと、冒険者カードを受け取った。


「合成石の適性検査ですね」


「はい。無事五階層に連れて行ってもらったので」


「それは良かったですね。少々お待ちください」


正木さんは端末を操作し、カードの情報を確認し始めた。


「ちょうどよかったです。君島さん」


端末の操作を終えた正木さんが、こちらに向き直った。


「以前、情報をいただくのであれば、それに見合った対価を支払うのが筋だ、というお話をされましたよね?」


「ええ。そうですね」


「実は、私の手元には少し興味深い情報があります」


正木は一度、言葉を切った。


「合成石を使用した際の、正確な成功確率に関するデータです」


「えっ……!」


思わず声が出た。


「それって、かなり重要な情報じゃないですか?」


「そうですね。少なくとも、合成石を扱う方にとっては価値のある情報だと思います」


正木は端末を操作しながら、表情を変えずに続けた。


「この情報は私個人の情報なので、ギルドとは関係ないんですね。この情報と引き換えに、私に一つ教えていただきたいことがありまして」


「何でしょうか?」


「君島さんが、なぜそこまで危険を冒してまで先を目指すのか。それを知りたいのです」


「……」


「興味がおありなら、場所を代えましょう。ギルドマスター室にいらっしゃいますか?」



            ✳︎



正木さんはギルドマスター室のソファーで向かい合うと静かに続けた。


「秘密を明かしていただく必要はありません。能力のことでも、これまでの経緯でも、話したくないことは伏せていただいて構いません。ただ、君島さん自身が何を目的にしているのか。それを聞かせていただきたい」


正木の表情から、先ほどまでの柔らかさが消えていた。


「私はギルドマスターです。冒険者の皆さんがどのような目的で活動するのか、すべてを把握することはできませんし、その必要もありません」


言葉を切る。


「ですが、君島さんの場合は少し事情が違います」


「……」


「あなたは、明らかに通常の冒険者とは異なる行動をしています。短期間で膨大な回数の入退場を繰り返し、希少なアイテムを手に入れるご友人がおり、今度もまた深層を目指そうとしている」


正木は俺の目を見た。


「私は、あなたが何か危険なことをしようとしているのではないかと心配しています」


「危険なこと、ですか」


「ええ。もし、あなたが自分の身を顧みず、周囲に被害を及ぼしかねないような目的のために行動しているのであれば、これ以上協力することはできません」


穏やかな口調だった。


けれど、言葉の重みは十分に伝わってきた。


「ギルドとしての立場もあります。私個人としても、あなたに協力し続けていいのか判断しなければなりません」


なるほど。


これは、かなり重要な話だ。


合成石の正確な成功確率…


正直それは、今の俺にとってはあればいいなと思う程度の情報だ。時間を少しかければ、合成石自体はいくらでも手に入るし、自分でも検証できるから。


ただし、目の前に座っている正木さんとの関係は俺にとっては非常に重要だった。


正木さんが求めているのは、その情報と引き換えに俺の目的を聞くこと。


秘密を話せと言っているわけではない。


なら、別に困ることはない。


俺は少し考えてから、口を開いた。


「……分かりました。真面目に答えますね」


「ありがとうございます」


「まず、その情報は知りたいです。(手間が省けるので)正確な成功確率は今の僕にとっては価値があります(正木さんとの関係性はもっと価値あります)」


「そうでしょうね」


「それで、僕が先を目指す理由なんですけど……」


少しだけ言葉を探す。ここからは本音である。


「僕は、自分の知らないことがあるのが悔しいんです」


「知らないこと、ですか?」


「はい」


俺は正木の目を見た。


「何かを知ると、それを頭の中で組み立てていくんです。これはこういう仕組みなんじゃないか。だったら、こうすればうまくいくんじゃないか。そうやって、自分なりに考えて、実際に試してみる」


「そして、頭の中で組み立てたものが実際にうまくいったときが、一番楽しいんです。今まで分からなかったことが分かるようになって、自分の中でバラバラだった情報が一つにつながる。あの瞬間が、何よりも好きなんですよ」


「……」


「だから、知りたいんです」


俺は少し笑った。


「知らないことがあるなら、知りたい。分からないことがあるなら、分かるようになりたい。それを繰り返しているうちに、もっと先に進みたくなったんだと思います」


「それが、ダンジョンの深層を目指す理由ですか?」


「はい。もちろん、危険なのは分かっています。だから、できるだけ安全に進める方法を考えていますし、無理だと思ったら引き返します」


今回の扇橋ダンジョンだってそうだ。


勝てないと判断したから撤退した。


「僕は別に、強くなりたいわけでも、誰かに認められたいわけでもありません。ただ、自分が知らないことを知りたい。そのために、前に進みたいんです」


正木は黙って俺の話を聞いていた。


やがて、ゆっくりと頷いた。


「……分かりました」


「ありがとうございます」


「こちらこそありがとうございました。情報についてはこちらに入ってます」


「ありがとうございます!」


思わず声が弾んだ。


合成石の正確な成功確率。


腕輪を作る上で、これは普通にありがたい。


正木は冒険者カードを俺に返した。


「適性検査の結果ですが、現状の魔力状態であれば、合成石を使用しても問題ないでしょう」


「本当ですか?」


「はい。魔力順応による影響も落ち着いています。ただし、合成の際は十分に注意してください。何か異常があれば、すぐに使用を中止してくださいね」


「分かりました。ありがとうございます」


俺は冒険者カードを受け取った。


「あ、それと正木さん」


「はい?」


「今回の装備、本当にありがとうございました」


「いえいえ。お役に立てたのなら何よりです」


「いや、本当に友人の装備がすごくて。正直、僕では無理だと思っていたんですけど、おかげで五階層まで行けました」


「……そうですか。それはよかったですね」


「はい。正木さんにも、改めてお礼を伝えておこうと思いまして」


「ご友人にも、よろしくお伝えください」


「ありがとうございます。伝えておきます」


俺は笑顔で頭を下げた。


「あ、そうだ。帰り際にもう一つ」


「はい?」


「友人がまた合成石を手に入れたみたいなので、次も鑑定をお願いしたいんです。また電話しますね」


「……また、ですか?」


「はい。よろしくお願いします」


俺はもう一度頭を下げ、ギルドを後にした。


           *


正木は、君島が出ていった扉をしばらく眺めていた。


「……知りたい、か」


思わず呟く。


これまで君島の行動を見てきた。


膨大な回数のダンジョンへの出入り。希少アイテムの収集。情報の購入。装備への投資。そして、危険を承知で単独で深層を目指す行動。


そのどれもが、合理的だった。


必要な情報を集め、数字を分析し、利益と危険を比較する。無駄を省き、自分に有利な条件を整えてから行動する。


だからこそ、彼には何か大きな目的があるのだと思っていた。



それが…『知りたいから』



「……ははっ」


正木は小さく笑った。


なんだ、それは。


冒険者が命を懸けてダンジョンに潜る理由を聞いたら、『知りたいから』だという。


あまりにも単純で、あまりにも非合理だ。


けれど。


不思議と、納得してしまった。


そうなのかもしれない。


自分が知らないことを知りたい。分からないことを理解したい。そのために危険すら冒す。


言われてみれば、これまでの行動にも筋が通っている。


「……変わった奴だな」


正木はもう一度、君島が出ていった扉を見た。


少しだけ、彼のことが分かった気がする。



           ✳︎



正木さんとの話を終え、俺は少し温かい気持ちで帰宅した。


帰宅早々に合成石のデータを確認してみた。


「……え?」


合成成功率70%。失敗すれば、合成石だけでなく素材も消失するらしい。


「ちょっと待って。なかなか厳しくない?」


まあ、考えていても仕方がない。


それでは、さっそく始めよう。



【☆よいこのみんなは絶対に真似しないでね☆ 】


本日のメニューは、転移の腕輪です!

〈最狂のネタ装備の作り方〉


【本日の材料:これだけは絶対必要だよ⭐︎】


転移石:4個(1個50万円)

合成石:3個(1個1,800万円)

材料費合計:5,600万円。



それでは、調理開始です!



【工程その1】

転移結晶を作ろう!


まずは転移石を2つ用意します。


そこに合成石を投入します。


「……なかなか豪華な料理ですね」


成功率は70%。


「まあ、成功率70%ですからね。大丈夫でしょう…」


さっそく合成開始!


俺はとりあえず防災ヘルメットを被っておいた。


二つの転移石が光に包まれる。


しばらくして光が収束すると、そこには一つの転移結晶が残っていた。


「おおっ! 成功!」


すばらしい!幸先がいい!


【工程その2】

もう一つの転移結晶を作ろう!かんたんだね!


続いて、もう一組!


転移石を2つ並べます。


合成石を投入。


「それでは、いきます!」


合成開始!


……。


……あれ?


光が消えた。

机の上には何も残っていない。


「…………」


失敗した。


転移石2個と合成石が消滅。


−1,900万円。



「まあまあ、こういうこともありますよ」


俺は自分に言い聞かせた。


「成功率70%ですからね。失敗することだってあります。最初に失敗の演出を見ておけたのは、むしろよかったんじゃないでしょうか」


そうだ。


これは必要な経験だった。


うん。


「よし、気を取り直していきましょう!」


工程その2・くりかえすだけだよっ!


「今度こそお願いしますよ!」


合成開始!


マジでたのむ。


……。


……。


光が収束した。


何も残っていない。


「…………え?」


いやいやいやいやまずいって。死ぬって。


すでに損失、3,800万円。


俺はしばらく机を見つめていた。


いや、待ってほしい。


2連続失敗?


成功率70%だぞ?


30%を2回連続で引いたということか。


俺は頭を抱えた。


さっきまで正木さんとの会話で、あんなに温かい気持ちになっていたのに。


「……落ち着け」


落ち着くんだ。


まだ材料はある。


まだ慌てるような時間じゃない。


これを失敗したら、転移の腕輪どころではない。


「…………」


もう一度、転移石を並べる。


合成石を置く。


「頼みます。本当にお願いします」


神様仏様お願いします!いい子にしてきました!


合成開始。


光が広がる。


「……おおっ!」


今度は成功した。


「よしっ!よしっ!よしっ!きた!…!」


やばい。これは、とんでもない。脳汁がえぐい。


触れてはいけないものに手を出してしまったのではなかろうか。


「……いやここは脳死で行くっ!考えるのはやめよう!」


【工程その3】

転移の腕輪を作ろう!失敗したらぜんぶ燃えるよ!⭐︎


いよいよ最終工程だ。


完成した転移結晶を2つ並べる。


ここに最後の合成石を投入する。


俺は完成した二つの転移結晶を見つめた…


ここまでに使った合成石は4個。


合計金額にして7,600万円。パパの家2400万。


「……よし。父よ我に力を。」


深呼吸する。


「ここまで来たんだ。最後までやりましょう!」


合成石を二つの転移結晶に触れさせた。


合成開始。


二つの転移結晶が光に包まれる。


やがて光が強くなり、ひとつにまとまっていく。


見れない…





薄目で見る……








机の上には、何もありませんでした。




「あぎゃああああぁぁおぁぁぁ」




結局、頭の煮えた俺は、11個持っていた合成石の内8個を使い、究極のネタ装備、転移の腕輪を手に入れたのだった…



確かに危険なことをしているのかもしれない…





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