交渉してみました!
『プルル…プル…はい。正木です』
知らない番号のはずなのに、2コールも鳴らないうちに電話に出た…
さすができる社会人だ。
「あ、すいません。先ほどご相談させていただいた君島です。先程はありがとうございました。依頼料の三万円では、本来とても聞けない有意義なお話で、すごく参考になりました」
『あぁ君島さん。それはよかったです。早速電話してくれたんですね。どうしましたか?』
「ええと、それがですね。実は…私の『親友』が、あの相談の話を聞いて思ったらしいんです。
あなた三万円を払って情報もらったんだよね?
だとしたら、あなたについての情報を聞きたい場合、相手が対価を払うのがスジなんじゃない?って」
電話口の向こうで明確な一瞬の間があった。
『…なるほど。それはその通りですね…では、そのご友人は具体的に何を求めたらいいと言ってましたか?』
…うん。
話が早くて非常に助かります。
「私も少し悩みまして、それで思いついたんですが、その『親友』たまたまレアアイテムを手に入れて処分に困ってるんですよ」
『ほう』
「本人は力の弱い冒険者なので、普通に売買するのはちょっと怖いらしくて。
できれば匿名で取引できるような方法はないか、って以前相談されたんですよね」
『なるほど』
「正木さんだったら、そういうことに詳しいんじゃないかなと思いまして。何かご存じないですか?」
『……わかりました。少し考えてみましょう』
電話の向こうで、正木さんが考え込んでいる気配がした。
さて、どう出るか。
俺としては、レアアイテムを安全に売却できるルートが欲しい。
できれば、今後も継続して使えるものがいい。
今回だけの取引で終わらせるつもりはない。
『まず、ギルドが直接買い取るという方法は難しいですね』
「やっぱり、そうですか」
『ええ。買取には正式な手続きが必要ですし、出所のわからない希少品を特例で買い取るとなると、私の一存では決められません』
まあ、そうだろうな。
ギルドマスターとはいえ、組織の人間だ。
個人的な判断で何でもできるわけじゃない。
『ただ、匿名での取引を仲介する方法なら、考えられます』
「本当ですか?」
『私が信頼できる冒険者や素材商を紹介します。取引そのものは当事者同士で行ってもらい、ギルドが直接買い取ることはしません』
「なるほど……」
『また、身元を明かさずに交渉するためにギルドが仲介することもできます。鑑定や手数料は発生しますが、過去にも事例があり、互いの信用保証にもなりますので、個別対応としてお受けできると思います』
おお。
これは大きい。
俺が欲しかったのは、まさにこういう仕組みだ。
「ありがとうございます。『親友』も喜ぶと思います」
『いえ。こちらとしても、希少なアイテムが適切な形で流通するのであれば、悪い話ではありませんから』
正木さんは淡々と答えた。
なるほど。
向こうにもメリットがある…か
希少なアイテムの流通経路を確保できるうえに、ギルドが直接買い取るリスクも負わずに済む。
合理的だな。信用できる。
「それで、もうひとつ聞きたいことがあるんですが」
『はい、何でしょう?』
「戦闘を専門にしていない人間が、五階層を一人で攻略するとしたら、どのくらいの装備が必要になりますか?」
『……五階層を、ですか?』
「はい。安全マージンを十分に取って、確実に攻略する前提です」
『そうですね……。装備の質にもよりますが、そのクラスの装備を一式そろえるとなれば、最低でも一億は必要になるでしょう』
一億円。
定まった相場はわからないが、合成石6個で大体賄えそうだ。
……まてよ。
「実は、その『親友』がですね……」
『はい』
「合成石を6個ほど持っているらしいんですよ」
『…………は?』
電話の向こうが静かになった。
『6個……ですか?……』
正木さんの声が、明らかに変わった。
まあ、そうなるよな。
オークションにも全然出ていないのは確認ずみだ。
「本人も、まさか偶然そんなに手に入るとは思っていなかったみたいで」
『……少々、お待ちいただけますか』
「はい」
電話の向こうで、何かを整理しているような気配がした。
しばらくして、正木さんが口を開いた。
『……そのご友人は、合成石を売却する意思があると考えていいのでしょうか?』
「ええ。安全に取引できるのであれば、『売る』か、もしくは『五階層を1人で踏破できる装備』と交換したいと言っていました」
沈黙が流れた。
『…なるほど…友達想いの良いご友人をお持ちなんですね』
「なんのことですか? 僕まだ見習いなんで難しいこと分かりません…」
心の中で舌を出した。くらえ!情報格差カウンター!
「正木さん。僕の『親友』は、この電話の内容自体も秘密にしたいと、涙目でこの電話を見守っています。どうかよろしくお願いします」
『承知しました。こちらこそよろしくお願いします。「ご友人」にもそうお伝えください。何か進展があれば、改めてご連絡します』
通話が終了した。
俺はスマホを置き、息を吐いた。
よし。
これで、匿名でレアアイテムを売却するためのルートが確保できた。
しかも、ギルドマスターのお墨付きだ。
これなら、今後も安心して取引できる。
売却した合成石で装備を整え、まずは五階層を目指す。
そこで手に入れたアイテムを売り、また装備を強化する。
実に合理的な循環だ。
俺は床に寝転がり、天井を見上げた。
「……いやあ、友達って便利だなぁ」
俺自身は、何もしていない。
ただ、友達の相談を伝えただけだ。
そういうことにしておこう。
さて。
いつものラーメン屋に行かなければ…
待ってろネギ塩チャーシューメン!
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