やりきりました!
いやー回った回った回りましたよ。
メリーゴーランドも真っ青です。
脳内麻薬がすごくて、一心不乱でした。
ドロップ品に執着していると、一喜一憂するんですが、回数に執着をすると、ドロップ品がどんどん、どうでも良くなってきます。
聖水の瓶?
ワンカートンで買ったペットボトルのように部屋に並んでます。
転移石?
青白くて綺麗だったんで、窓辺に色々置いて眺めてます。
合成石?
ぼんやり光るのが映えるので、オブジェとしてトイレットペーパーの横に鎮座しております。
クソが。1円の収入にもなってねえ……。
結果として、
【10,000周の検証結果】
1階:聖水
想定ドロップ率:1/256 × 1.5
期待値:約58.59個
実測値:62個
単価:42万円
獲得金額:2,604万円
2階:転移石
想定ドロップ率:1/512 × 1.5
期待値:約29.30個
実測値:27個
単価:35万円
獲得金額:945万円
3階:合成石
想定ドロップ率:1/1024 × 1.5
期待値:約14.65個
実測値:16個
単価:1,800万円
獲得金額:2億8,800万円
【合計】
総試行回数:10,000周
総ドロップ数:105個
総獲得金額:3億2,349万円。
3億2,349万円。
宝くじやん…
父よ…あなたの息子は宝くじに当たりました。
どうすんだよぉぉぉぉ。
あーお金持ちになったはずなのに、なんだこれ…
ぶーん。どけどけー!キキーッ!まてまてー
とりあえず、合成石と転移石をミニカーに見立てて遊んでたが、解決しないことだけはわかった。
はぁ…豚キムチカップラーメン食べよ…
✳︎
箸を置き、空になったカップ麺の容器をゴミ箱へ放り込む。
ズラリと並んだ聖水の瓶、窓辺の転移石、そしてトイレの合成石。
額面上、およそ三億二千万円という天文学的な財産が、この狭い賃貸の部屋に物理的な質量として存在している。
それは別にいい。
今頭の中に一つの選択肢が浮かんでいる。
これだけの資産があるんだ。もう、命を懸けてダンジョンに潜るのなんて辞めて、この財産を少しずつ切り崩しながら、一生誰にも邪魔されずにダラダラと楽な生活を送ることもできるんじゃないか、と。
だが。
頭の中の冷徹な電卓は、瞬時にその甘い仮説をパチリと却下した。
「……無理だな。そんなことをした瞬間、確実に死ぬ」
オークションの画面を思い出す。
たった一個の合成石を巡って、有名クランの化け物どもが数千万単位の札束で殴り合っていたあの狂気の世界。
もし、低ランクの生身の雑魚である俺が、三億円分もの秘匿素材を抱えて、この世界の片隅に隠居しているなんてことが、外側に漏洩したらどうなる?
待っているのは、楽隠居どころか、強者たちに自宅ごと物理的に跡形もなく消される最悪の未来だ。
そして、もし、本気で深層攻略するのならーー。
この三億という数字すら、決して「多すぎる」わけではない。
今後製作する『転移の腕輪』で貴重な素材を消費する。
更に本気で、確率の分母が数万分の一へとインフレしていく深層の攻略に向かうとなれば、十六個の合成石なんて、あっさりと溶けて消える誤差の範囲だ。
足りないことはあっても、余るなんてことは絶対にあり得ないのだ。
生き残り、できるだけ楽して暮らしたいという自分の希望を叶えるには、この資産をすべて、自分の肉体と装備とへ投資するしかない。
外堀は、とっくに、完璧に、埋まっていた。
「……じゃあ、俺は何のために強くなりかったんだ?」
冒険者に憧れた、過去の自分を思い出す。
静まり返った自室で、俺は自分の胸の内に、静かに問いを投げかけた。
昔のパーティーを見返したいからか?
それはただのおまけだ。
じゃあ、世界を救う大英雄にでもなりたいのか?
吐き気がする。
そんなコスパの悪いブラック労働、御免被る。
俺は、なぜあの十四時間、ドーパミンをドバドバと垂らしながら、一万回もの気が遠くなるような虚無の周回に齧りついていられたのか。
「……ああ、そうか」
胸の奥でコロリと石が動き、冷たく冴え渡る感覚がした。
俺の肉体を突き動かしていた本質は、金欲でも名誉欲でもない。
純粋な、狂気的なまでの『知的欲求』だ。
世界中の誰もが「運がよかった」「運が悪かった」と脳死状態で通り過ぎていくダンジョンの確率の壁。
その裏側に隠された冷徹な数理システムを、俺のこの《観測記録》というスキルと頭脳だけで、一枚一枚剥ぎ取るように解き明かしていくあの快感。
俺は、この世界のルールを知りたい。
そして、もし俺の組み立てた仮説がすべて正しければ…
「――この世界のダンジョンシステムの構造に完璧に順応して支配できる人間は、俺の他に、誰一人としていないはずだ」
最弱と叩かれていたハズレスキルの裏側に隠されていた、全能感とも呼べる圧倒的な支配の予感。
「やるべきことは決まった」
俺の中で生まれて初めて、覚悟というものの意味が定まった。
隠居の選択肢を完全にゴミ箱へ捨て、俺はパソコンの画面へ向かって猛烈にタイピングを開始する。
ターゲットは、次なる『五階層』の攻略。
戦闘特化ではない俺が、安全マージンを百パーセント保ったまま、ぬるま湯のチュートリアルエリアを飛び出して、死の危険のある深層へ進む。
現状で手に入る最高峰のハイエンド装備の選定、および情報収集。
ここからは、本気で世界を看破しにいく。
ぶっ壊してやるよ。待ってろダンジョン。
『チュートリアルダンジョン準備編』 fin
ここまで私の執筆活動にリアルタイムで接していただけた皆様、本当にありがとうございました。
これにて、『チュートリアルダンジョン準備編』が完結となります。
部屋は相変わらずカップラーメンだらけですが、効率厨としての本当の生存戦略は、ここからようやく本番を迎えます。
額面3億円の資産をトイレのオブジェに変えた彼が、次に狙うのは世界そのものの完全支配です。
次なる第2部からは、いよいよぬるま湯のエリアを飛び出して、死の危険のある深層へ進んでいきます。
今後、6階層以降には絶望的な強さを持つボスが登場します。
彼はまだその未来を知りませんが、絶対に彼にしかできない攻略で、その難関を超えていきます。
もし「この効率厨の逆算、なかなか面白いな」「狂人にせめて牛丼の玉子くらい奢ってやってくれ」と少しでも思っていただけましたら、下にある【ブックマークに追加】や、広告下の【評価システム(☆☆☆☆☆)】から星を投下して応援していただけると、執筆・更新速度意欲が劇的に跳ね上がります。
【おまけの生存戦略】
第2部の開始まで「効率厨のハックが足りない」「お前の別の数式も見せろ」という狂気的な読者様へ。
実は、本作の表側のコメディの皮を完全に剥ぎ取って、内側の冷徹なシリアスと戦場の因果律だけを100%出している骨太ファンタジーが存在します。
デビュー作に当たりますので、埋もれていってしまいましたが、本作以上に思い出深い作品となっています。
本作の裏側に流れるロジックや、12話後半の主人公の『覚醒』のトーンが肌に合った方であれば、間違いなくラストにいたるまでの衝撃に共感していただけると思っています。
こちらは、第一部40話を一気読みできる仕様になっております。
ただし、ラストの絶望はなろう小説の中でもなかなかなレベルだと思いますので、本当に人を選びます。
お暇潰しとして、見てみたいと思う方は覚悟を持って、こちらの世界線もお試しいただければ幸いです。
▼『祝福された異端の子』
https://ncode.syosetu.com/n9849mw/
それでは『五階層進出編』でまたお会いしましょう!




