第3話『四天王にメイド服を着せてみた件』
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「……ど、どうぞ」
「よし、そこに置いてくれ」
急ごしらえの特注メイド服に身を包んだガルディアが、ぷるぷると震えながら俺の前にどんとデカい皿を置いた。
怒りか恥辱からか、唇をきっと引き結び、こめかみには血管が浮かんでいる。
顔のいいムッチムチのデカ女が、恥じらいながらフリフリの可愛らしい衣装をまとっている様は、なかなかに見応えがあったが、今は食べるのが優先だ。
本来はガルディア専用の丸テーブルに、俺は一人でつき、一心不乱に飯を食い続けていた。
ガルディア本人に作らせた飯は、案外悪くない味だ。
香ばしい匂いのする、焼いたパンと肉。
色とりどりの皮を剥いた果物。肉と野菜の出汁がしっかりと出たスープ。
がっつく俺に、ガルディアが忌々しげに吐き捨てる。
「よくも、この妾に炊事など……」
「その割には美味いぞ、これ。やっぱりあれか、ちょっと張り切っちゃった感じか。普段、人のために料理なんてしないもんだから」
「だ、黙れ! 貴様が命令したのだろう、最高の飯を用意しろと! そのせいだ!」
「またまた〜。そのメイド服も似合ってるぜ。お前って実は、けっこう尽くすタイプなんじゃないの?」
「殺す……いつか必ず殺してやる……!」
歯ぎしりして悔しがっていたガルディアだったが、すぐニヤリと牙を剥いた。
「だが、余裕ぶっていられるのも今のうちだ! 妾の真名が奪われたことはすぐ軍に伝わる! さすれば妾と下手人、つまり貴様を始末するための刺客が差し向けられてくるだろう。妾たちの命運が尽きるその日までな!」
「おー、そりゃ怖い。なら、その刺客とやらは誰かさんに何とかしてもらおうか」
「ぐぬぬ……」
「いや、いっそ魔王軍ごと滅ぼしちまえばいいか。そのほうが話が早い」
すると、ガルディアは腹の底から大笑いした。
「くははは! 馬鹿め、妾ごときを従えたくらいで、魔王軍に勝てるとでも思ったか!?」
「なにっ! どういうことだ」
不敵な笑みをはらみ、きゅっとくびれた腰に手をやったガルディアが、自信たっぷりに胸を張った。
「妾は四天王の中でも最弱! どうせいなけりゃいないでいいと思われている程度の存在でしかないのだ!」
…………。
「……言ってて悲しくならんか?」
「別にいいもん! 事実だもん!」
そう言いながらも、ガルディアはうっすら涙目になっていた。
ちょっと可哀想になっちゃうからやめろ。
「でも、四天王なんだろ? 強いんじゃないの?」
「当然だ! 妾は強い! 素手の殴り合いなら、魔王様にだって負けるはずはない!」
「マジかよ。めちゃくちゃ強えじゃん。じゃあなんで最弱呼ばわり?」
そこで、ガルディアはしょんぼりと肩を落とした。
「……魔族同士の戦いで、素手の殴り合いなどありえぬ。魔術戦に持ち込まれたら勝ち目はない」
「あー……」
「ずーっと皆から馬鹿にされてて……腕っぷしひとつでここまで成り上がったのに、部下からは舐められっぱなしで……結局、ゴブリンやオークみたいな知性の低い魔物しか言うこと聞いてくれなくて……」
それは……キツそうだな。
察するに、こいつは鳥でいうとダチョウなのだ。
かけっこなら負けないもん! と威張ったところで、ほかの鳥からは「いや俺ら空飛べますけど?」「最高時速150キロ出せるけど、お前は?」「知能も低いよね」と冷笑されてるみたいな。
「な、泣くなって……お前にもいいとこあるよ……うわ、泣き止んだ。切り替え早いな!」
「貴様が命令したからだろ!」
なるほど。命令形で話しかけると命令になっちゃうのか。
面倒だな。
「悪かった、泣いていいぞ」
「それも鼻につくな……ぐすん」
再びメソメソし出したガルディアの背中をさすってやると、彼女は鼻をすすった。
「やめろ……馴れ馴れしくするな……ぐすっ、余計に泣けてくるだろぉ……だいたいぜんぶお前のせいなんだぞ……」
「それはそう」
先に手を出してきたのはお前の部下だけどな。
しばらくべそをかいていたガルディアだったが、やがてちらっと俺を横目に見た。
「……どこだ」
「は? なにが」
「妾の、いいところだ……」
俺は思わず真顔になった。
こいつ、どんだけ自己肯定感低いんだよ。
さっきまで猿って見下してた俺にそんなこと言ってもらいたいのかよ。どんな境遇にいたんだ。
こいつのいいところ、いいところ……胸とケツとタッパがデカい! は論外として。
「まず、料理がうまい」
「うん……」
「あとメイド服が似合ってる。ほら2つもあるだろ」
「うん……」
「元気出せ……じゃなかった、元気出そうぜ。な?」
「うう、うわあああん……!」
子どものように泣きじゃくるガルディアに、俺は満足いくまで膝を貸してやった。
……なんで俺のこと食おうとしてたやつを慰めねえといけないんだよ! しっかりしろ! 魔族ども!
◆
「うう……ひっく……恥ずかしいところを見られてしまったな……」
「だいぶ今さらだけどな」
「それは言うな」
犬の物真似させるのはスカッとしたのに、泣かれるとなんでか心にきてしまう。
俺はすっかり冷めてしまった料理を食べ終え、涙と鼻水でぐしょぐしょになったスラックスをナプキンで拭いていた。
「さて。いろいろ聞きたいことがあるわけだが……」
まずは移動だな、と言いかけたところで、ガルディアに遮られる。
「その前に移動したほうがいい。すぐに斥候が来る」
意外な提案に、俺は片眉を持ち上げた。
「……なんで?」
「妾には真名隠匿魔術がかけられていたが、貴様によって破られてしまったからな。
すでに、妾が真名を握られたことは軍に知られている。急いだほうがいい」
「いや、それも知りたかったことだけど、なんで教えてくれるんだ?」
ここで長話をして俺を引き止めておけば、斥候経由で魔王軍に情報を取らせることだってできただろうに。
不思議に思って尋ねると、ガルディアはそっぽを向いて口を尖らせた。
「……教えてやりたくなったからだ。なんとなく」
「……お、おう」
……やめろよ、なんだよこの空気。
こっちまで照れ臭くなってくるだろ。
「なんとなくじゃわからん。ちゃんと説明しろ」
「ええい! 膝を借りた礼だ! みなまで言わすな、無粋者!」
「なんだと! てめっ、犬のくせに調子乗りやがって!」
「誰が犬だ! 殺すぞ!」
「やってみろオラァ!」
しばしガルディアと取っ組み合いをしていた俺だったが、すぐにはっと我に返った。
「ええい、遊んどる場合か! おい、ガルディア。俺を最寄りの街まで運べ! 人間の街だぞ!」
「言われなくてもそれくらいわかるわ、馬鹿者! それで、どれくらい急ぐんだ」
「どれくらいって、特急……じゃなかった、大急ぎだよ大急ぎ!」
「よし、わかった。大急ぎだな」
言質を取ったとばかり、ガルディアは口の端を釣り上げると、ひょいと俺をお姫様抱っこした。
全体重を相手に預ける不安感と、浮遊感に襲われ、つい悲鳴を上げる俺。
「おわあ! なにすんだお前!」
「急ぐのだろう? ならこれが一番運びやすい」
「だ、だからってお前こんな体勢……」
「おーよちよち。いい子いい子。くひひひひ」
赤ん坊みたいにゆっさゆっさと揺さぶられ、かっと顔が熱くなった俺は、今すぐやめさせようと口を開いたのだが、
「お、おい! やめ」
「はい急ぎまーす」
「ひやあああああ――!」
ビュン! という風切り音とともに、ガルディアが走り出した。
途方もない速度で森の景色が背後へ過ぎ去っていく。
その急激な加速に耐えられず、またもや俺は意識を失ってしまうのだった。
「……初めてだったのだ。誰かの膝で泣くなんて」
失神する間際。
ガルディアがそんなことを口走っていたような気がした。
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