かすみの舞台
「それで協力するってどうしたらいいの?」
「私と入れ替わってほしい。」
麻美はかすみの服を着て船に乗り本島に行く。代わりにかすゆが巫女を務めるというものだ。
「そんな、無理よ。」
「大丈夫。」
麻美はかすみに1枚の紙を渡す。紙というより楽譜だ。
「櫓の上でこの歌を歌うだけ。白い絹の布を頭に被ってれば大丈夫だわ。」
「分かった。」
かすみは首を縦に振る。麻美に着付けてもらい髪に赤と白の花の髪飾りを左右対称に付けてもらう。
(これ、夢の中で見たのと一緒だ。)
「この時期に桃の花なんて珍しいのね。」
「これは桃じゃなくて梅よ。」
かすみが夢の中で見たのは桃ではなく梅だったのだ。
「それにこの花は造花よ。女神様が好きな花なの。」
「女神様ってウメサキヒメ様の事?」
「ええ」
「かすみちゃん、ウメサキヒメ様とお友達なんだって」
夏美が付け加える。
「えっ?!!」
驚く麻美。
「夢の中で一緒に遊んだだけよ。」
かすみは咄嗟に嘘をつく。
「それなら大丈夫。貴女は役目を果たせるわ。」
麻美は紅筆を取るとかすみに口紅を塗る。白い絹のベールを被せると自分は白い帽子を被る。
「ありがとう。かすみ。またね、夏美。」
麻美は鞄を持って部屋を出る。
「麻美お姉ちゃんも気をつけてね。見つからないように。」
「ありがとう。でも大丈夫よ。」
幸い大人達は祭りの準備で社に行って留守だ。
夕方になると着付師と父がやってきた。夏美が自分で着付けたと言い2人には退出してもらった。時間が来るまで夏美と2人になった。
「夏美ちゃん、お姉ちゃんいなくなっちゃったね。寂しい?」
かすみは夏美に尋ねる。
「寂しい、でもお姉ちゃんずっと東京に行きたがってたから。」
麻美は小さい頃はずっと巫女になりたいと言って来た。しかし去年のお祭りが終わった頃から急にやりたくないと言い出した。
「東京から来た女学生から雑誌をもらってたから急に。」
雑誌の世界に憧れて東京に行きたくなったようだ。
「失礼します。」
町内会の人が迎えに来た。これから舞台のために櫓に向かうのだ。かすみは黙って立ち上がる。
「頑張ってね。お姉ちゃん。」
かすみは頷く。
境内は屋台や浴衣の客で賑わっている。夢で見たのと同じだ。
ドーン ドーン
太鼓が鳴り響く音を聞きながらかすみは櫓に向かう。かすみが登り切ると太鼓の音は止まり会場は静まり返る。櫓の下を見ると皆一斉にかすみに視線を向ける。
かすみは一礼する。
「うめ〜のは〜な〜 と〜こ〜し〜え〜に〜
おと〜めの〜」
かすみは麻美に渡された歌詞の歌を歌う。
「なんて耳触りな」
「これが巫女か?!」
観客の反応はいまいちだ。実を言うとかすみは歌が苦手だ。その時境内に風が吹いてきた。かすみが被っていた布は飛ばされる。




